陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

キザムノ

夏の終わりに⑤

　あれから順調に釣り続け、正午前。時間とともに人も増えてきて、活気が出てきた。増えていくのは中学生ばっかで、小学生は学校なんだろうか、ほとんどいない。

「やっと潮止まった。」
「だな。」

隣にいる久志と笑い合う。群れが来たら落とし、そして巻き上げて針からアジを外す。梓さんにその写真を送ったら、『あら、いいアジね。今日の晩は南蛮漬けかしら？』と帰ってきた。この人数で食べるには多いと思うが、他にも色々やってもらおう。

「昼飯にすっか。」
「じゃあみんなにそう言っとこう。」

仕掛けを上げて、みんなに呼びかける。すぐに準備をして、お昼ご飯が始まった。

　奏のクーラーボックスから出てきたのは、スティックのパンやおにぎり、魚肉ソーセージ、そしてきゅうりだ。

　それぞれ荷物に巻き付けていた椅子を取り出して、そこに座る。奏のハードクーラーを机代わりにして、食べ始めた。

「好きなやつ取っていいからな。」
「ありがとね、奏。後で払うわ。」
「自分も払うで。」
「別にええって。」

奏はチョコチップ入りのスナックパンを食べながら手をヒラヒラと振る。みんな思い思いに食べて、トンビに奪われないようにしていた。

「キャーーー！」

どこからか悲鳴が上がる。声の大きさからして、そう遠くないようだ。

「何かあったのかな？」
「ちょっと見てくるわ。」

奏が立ち上がって、何があったのか見に行った。

〇〇〇〇〇

　柵から頭だけ出して見てみると、向こうの方で海面がバシャバシャしていた。青物でもかかったのかなと思い、よくよく見てみると、手が見えた。子供だ。あそこら辺の柵は幅が広くなっているから、そこの間から釣っていたら落ちたとか、そんなところだろう。周りの大人たちは、救出する術がないようだ。誰も管理事務所に行っている気配がないし、このままだとあの子供溺れるぞ。

　地図を思い出す。確かあっちの方にビーチがあった。なら、そこからなら上がれるかもしれない。途中に階段でもあったらそこから上がるか。

　幸いにも、今日俺が履いているのは水陸両用のハーフパンツ。水こそ少しは含むが、ジーンズとかよりはマシ。泳げないことはない。

　そう考えているうちに、自然と体が動いていた。