陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

キザムノ

久しぶり

「ただいまぁ！」

そんなことを話していたら杏が帰ってきたようだ。気づくかな？

「ん？見慣れない靴。あと、この匂い。まさか…」

玄関からそんな声が聞こえてくる。そして、

「お母さ～ん！」

そう叫びながら杏がリビングに飛び込んできた。

「杏、おかえり。母ちゃんならキッチンにおるで。」
「ただいま、バカ兄。あっ、桜さん起こしちゃった？」
「んーん、いいよ。そこそこ寝れたし。」

桜は目を擦りながら体を起こし、もともと淹れていたコーヒーを飲む。しっかり休めたようだ。

「よかった～！あっ！お母さん！」
「杏、おかえり。お疲れ様。」

杏は母ちゃんに抱きついて、胸に顔を埋める。実に1年半ぶりの再会だ。

「積もる話もいっぱいあるやろうけど、手を洗ってきてからね。」
「はーい！」

久しぶりに母ちゃんがいるからだろうか。杏のテンションが練習後とは思えない程だ。そのくらい嬉しいのだろう。母ちゃんも嬉しそうだ。

　杏が戻ってきたら、テーブルにフランス土産のヘルシーなお菓子を並べる。どれもこれも美味しそうだが、杏のコンディションを整えるってことが徹底されている。本気なんや。

「でね！でね！…」

杏はそのお菓子を食べながらこの1年半にあったことを話している。中には俺たちでも聞いた事のない話もあったりして。でも、どれもこれも楽しそうな話だから、この3年間が楽しかったんだなと思えるのだった。

「で、お母さんはいつまで居れるの？」
「ひとまず、杏の引退試合には行く気やけど。」
「へ？」

母ちゃんの言葉に杏は固まる。杏の引退試合があるのは9月の頭。今からなら半月以上ある。その間、母ちゃんは父ちゃんの部屋に泊まることで話がついている。

「でも、そんなことしたらお父さんが…」
「安心して、バイトの子たちにホールは任せたらいいし、キッチンはお父さん一人でどうにかなるから。」
「ならいいけど。」
「だから、今日からご飯は私が作るね。鈍るのも嫌やし。」
「やった！」

俺と桜の間では、杏の調整のためのご飯に合わせることを決めている。実を言うと、桜が食べてみたいと言ったのだ。俺も、俺がまだ選手だった頃にしてくれていたご飯を久しぶりに食べれるので、いい機会だ。

「久志も桜ちゃんもそれでいいわね？」
「ええで。」
「お願いします。」

そう答えると、母ちゃんはふふっと笑って、

「よぉーし！頑張るぞ！」

そう呟いたのだった。