陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

キザムノ

帰ってきた理由

「んで、母ちゃんが帰ってきたのは理由があんだろ。」

テレビを見ながらポテチをバリバリと食べる母ちゃんにそう話しかける。母ちゃんは一瞬だけ視線をこっちに向け、そしてまたテレビに視線を戻した。

「なんやと思う？」

俺たちの顔を見に来たってのはあくまでそれっぽい理由であって、本当の理由はまた別にあるはずだ。わざわざこの時期ってことと、結構な量の服を持ってきていることを考えると…

「杏の引退試合か？」
「正確には引退試合までの体調管理のサポートね。いつも2人にしてもらってるけど、引退試合くらいは私がやりたいって思ってね。」
「それ、杏には言うのか？」
「言うわけないでしょ。言ったらカッコよくならないし。」

ニシシと笑う母ちゃん。その笑顔はいつまでも変わらない。

　そんなやり取りを見ながら桜は晩ご飯の準備を始めようとする。すると、母ちゃんは立ち上がってキッチンに向かった。

「桜ちゃんは休んでて。さっきの話聞いてたでしょ？食事面から杏のサポートしたいから。」
「あ、はい。分かりました。」

桜はそう言ってリビングに戻ってくる。母ちゃんは何やら鼻歌を歌いながら準備を始めた。

「梓さん、なんか楽しそうね。」
「前帰ってきたときは杏と会えてないからな。会えるのが楽しみなんやろ。知らんけど。」
「杏ちゃんびっくりするかな？」
「連絡もなしに帰ってきてるんやから当たり前やろ。」
「だね…」

急に隣が静かになったかと思えば、桜が船を漕いでいた。

「桜、寝とくか？」
「うん、そうしとく。このまんまやったら晩ご飯のあとも勉強できなさそうやし。」

桜はソファーのクッションに身を委ねた。余程疲れていたのか、1分もしないうちに規則的な寝息が聞こえてくる。俺はソファーの下からブランケットを取り出し、桜にかけた。

「あら、桜ちゃん寝てる。」
「疲れてたんだろうよ。静かに寝かしといてやろうぜ。」
「そうね、あっ、久志もやる？」
「誰がやるか！あんな辱め！」