陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

イツモノ

いつもの帰り道④

「あづい～！」
「諦めろ、きい。もう夏や。」
「えぇ～っ。」

きいはぷくーっと膨れながら日陰を選んで歩く。ちょうど昼過ぎの今、陰はほぼないんだが。

「桜、その扇風機貸して。」
「むり。私が暑くなる。」
「むー」

唯一の希望であろう桜のハンディ扇風機も貸してくれないらしい。希望をなくしたきいは、仕方なくベストを脱いだ。

「きい、透けるって。」
「モーマンタイ！男子はひい君だけやし、ひい君になら見られても別にいいから。」
「それってどーゆう意味よ？」
「さぁねー♪」

きいは自分の鞄にそれを押し込むと、「ちょいと涼しくなった」っておっさんみたいな声で言う。

　夏本番に近づいてきたこの頃。インドア3人が外に出たら、「暑い」って歌詞だけの曲が完成するわけで、いい感じのハーモニーが生まれる。本当はこんな嘆きの曲なんか嫌だけど。

「夏休みの宿題多いねぇ～。」

そんな暑さでやられた脳もその言葉は聞き逃さなかった。桜の方を見れば、桜の目も変わっていた。なんというか、狩人の目ってやつ。自分の犯した罪に気づいていないのか、きいはまだルンルンと歩いている。

「きい。」

いつもよりもドスの効いた声。しかも笑顔だ。

「どしたの？桜？」
「そんなひどいこと言うのはこの口か！お前ら英文200個覚えんでええやろ！なぁ、いちばん面倒くさそうなのが本文写しやろ！それで多かったら、私たちのはなんやねん！」

きいはほっぺたを横に引っ張られたまま上下に動かされる。痛いたやつだ。これ。

「ん～、ほに？(ん～、おに？)」

きい、そこは素直に答えるんちゃうくて、素直にごめんなさいって言うとこやで。ほら、桜がもっと引っ張ってる。

「痛でででで」
「自業自得や。」
「きい、その文Iが鬼なんやったら、数学が200問、化学が93問の理系は？」
「ん～。」

少し考えるような表情を見せる。そして、

「ひごう(地獄)」
「「…………」」

どうやら、頭グリグリのオプションもつけて欲しいようだ。

「痛たたたたた。痛いよ～ひい君！」
「今はその痛さを噛み締めておけ！」
「痛たたたたた。」