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イツモノ

いつもの帰り道③

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「んで、真奈はいつ引退?」
「ん~、学年別かな。みんなと一緒で。」

慣れ親しんだ、クラブ終わりのこの坂道。真奈と自転車を押しながら上がるのは、この夏で終わりだ。そして引退後は、私は家で勉強するからそのまま帰るけど、真奈は塾に直行。すぐに受験戦争に入っていく。

「じゃあ、私と一緒やね。」
「最後くらいは勝つから。」

チリチリチリとチェーンが軽い音を立てる。隣を過ぎていく車のエンジン音は、鳴いている蝉の声よりも小さく、すぐに掻き消されてしまう。そんな中でもはっきりと聞こえた声。

「寂しいよ…」

その声の主は真奈だった。

「真奈、あと1ヶ月半もあるやん。その間ずっと一緒に帰ったら…」
「でも、そのあとは、引退したら別々やろ。嫌だよ。」
「それでも、学校で会えるし。」
「この時間が1番好きやの!杏と一緒に帰ってるこの時間が!」

気づけば自然と歩みを止めていた。

 勘違いしていた。友達ってものは上っ面だけの関係で、どうしても認められないものがあったり、お互いが関わることが少なくなったらそこで終わりなんだと。

 でも違う。真奈は私との関係を続けたいと思っている。それは今後ずっと続く関係かは分からない。でも、少なくとも今は続けたがっている。

 私たちは不器用だ。お互いに本心を打ち明けられないまま3年間を過ごした。唯一と言っていいほど、私が真奈に弱みを見せたのは、バカ兄が水泳を辞めた時だけ。あの時はそうでもしないと、自分を壊してしまいそうだったから。

 『寂しい』、その一言だけで、私は気づいた。私も真奈と一緒にいられなくなるのが寂しいのだと。この坂道を喋りながら歩くのが楽しかったのだと。

 あぁ、本当に私ってワガママだな。

「来てよ。」
「えっ?」
「来てよ。国学社に。そしてさ、また練習後2人で自転車押しながら歩いてさ、寄り道してなんか食ってさ、すっかり暗くなった空を見上げながら、疲れたなぁって一緒に言おう。」
「…………」

しばらく沈黙が続いた。この時期なら志望校を決めていても不思議では無い。それなら、真奈が決めた道を曲げて欲しくはないし、こんなので曲がっていい道であって欲しくない。

「いや、別に無理にって訳じゃなくて…」
「んーん。私ね、国学社目指そうと思ってたんだ。また、杏と帰りたいから。だから、一緒に受かろうね。」
「うん!約束!」
「約束!」

小指だけ繋いで片手で自転車を押す。坂の上までの道は、いつもより明るく感じた。
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