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イツモノ

俺たちは中央大会⑦

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 俺には仲のいい後輩がいる。名前は加太奏太郎。少し可愛げのない後輩だ。

 こいつとは中学校時代からの付き合いで、その頃からよく競っていた。加太も俺に対してだんだんとタメ口になってきて、それでも、俺はきちんと『先輩』していた。

 関係がさらに緩くなり始めたのはこいつが高校に入ってきてから。なんと、音楽やアニメの趣味まで合っていることがわかって、クラブのときは四六時中話すように。試合終わりのカラオケも定番になり、気づけば『友達』になっていた。

 でも最近、俺の引退が近づいてきてから、加太の笑顔に違和感が出始めた。その正体は『寂しさ』。加太の彼女である海南に聞いたから間違いないだろう。「できる限り私が埋めてあげてるんだけど、同性の親友と会う機会が減るのは寂しいみたい」とのこと。普段はそんな片鱗を一切見せない加太だから、少し気になる。

 どうしようかと悩んでいたら、引退前日になっていた。

「寂しくさせない引退か…」

そう言われても少し困る。引退とは残される側からしたら、寂しい以外何物でもない。それは仲がいいからこそ色濃く感じて、時間が経てば経つほど、深く、重くなってくる。こういうとき、どうすれば…

『で、私のところに連絡してきたってわけ?』
「そうそう。」

電話の奥にいるのは絵空。こういうとき、彼女ならどう思うんだろう。

『ん~、寂しくさせないように引退したいかぁ~。私はそんなこと思わなかったからなぁ。でも、そんなことを思うくらい、拓也も寂しいってことやろ?』
「…たぶん。」
『そこ素直に認めなさいよ。』

絵空は弓道部を引退した。んで、今は遊び呆けてる。

『私ならなんだけど、目標になってあげるとかは?』
「は?」
『そしたら、少しでも寂しくないんちゃうかって。だって、独りになりたくないってことやろ。じゃあ、泳いでいる間は拓也のことを気にするようになったら、寂しさもマシになるんじゃない?』
『なるへ。』

 そしてレース。いつものように泳ぎ始めて、隣を見る。そこには加太の姿がある。たぶんついてこようと思ってんだろうな。でも、それは無理だ。

 俺はもう1つギアを上げる。加太に足りない1発の力。それが俺が見せれる背中ってもんだ。次第に水飛沫が消えていき、差が開いてくる。

 これが俺から送る先輩としての最後の姿ってもんだ。だから、奏、あとは頼んだぞ。

 俺はゴール板にタッチした。
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