230 / 732
ムカシハ
最強の闘い⑥
しおりを挟む
やったことは無い。でも見たことはある。そして、
「なんかできそうな感じがする。」
ここに楓がいたら「えぇ~」とか言われてそうだが、今はいない。待機場所からずっと観戦している。
昔はそんなチャレンジャーやなかった。いつも普通を普通にこなすそんな奴だった。だから俺は楓を密かに尊敬していた。「私にはそれしかないから」って言わせたとき、本当に自分が何でそんなことを聞いたのか悔やんだ。
だから、変わろうと思った。変わって、一緒のところから見てみたいと思った。それは楓と付き合い始めてからもそう。ずっと変わらない俺のスタンスだ。
助走に入る。多分握って投げるだけ。少し抜けたなって感じでいいと思う。
投げる。その瞬間に失敗したとわかった。ヒュルヒュルと高く上がったボールはそのまま落ちる。
「やっぱ無理か~。」
笑うしか無かった。
〇〇〇〇〇
昔は笑わなかった。昔と言えど小6くらいの頃だけやけど。そして、別れる時の笑顔もなんかぎこちなかった。それに比べて今は…
「おぉ~!」
上手く笑えてる。その視線の先にあるのは作詞家くん。どうして君はさくちゃんのこの笑顔を戻せたんかな?私だけなら多分出来んかった。だから悔しい。
「ゆーちゃん!今見た?今ギュンって!」
「はいはい、楽しそうやな、さくちゃん。」
「うん!めっちゃ楽しい!」
ほんと、感謝しないとな。
〇〇〇〇〇
ソフトバレーボールが入ってからと言うものの、こっちのチームは調子がいい。1人、奏に当てられて人数が減ったが、8対9とこちらが優勢だ。
「あと1種類残ってるやろ。」
「やけど、とりあえず残してるだけ。もしもの時用で。」
そんなことを言っているが、肘が少し痛み始めてきた。ちょっと無茶しているからな。
「あと1分でーす!」
放送部のアナウンスが聞こえる。微妙に長いな。
―ボコン
―ピーッ
誰かが当てた音と、ホイッスルの音が聞こえる。
「ッシ」
外野でガッツポーズをしているのは御浜君だ。何やら俺の方を見ている。
(働きすぎや。ちょっと休んでろ。)
そう言っているような気がした。
そして避けて、避けて、避けて、30秒前。8対10でリードしていた俺たちだったが、
「ごめん!」
外野から1人当てられて、9対9となる。そして、そのボールは俺たちのコート内で止まる。外野に回して、時間稼ぎをする。
(まだか?)
(あとちょっとで落ち着く。)
フライボールを投げるのすらキツい。ズキッと痛みが走り、思わず肘を押さえる。
ふぅーっと息を吐いて残り15秒。痛みが若干引いた。
「持ってこぉぉぉぉぉぉい!」
外野に向かってそう叫ぶ。モブ男子でいるのはもうやめた。俺は俺なりに目立つ。たとえそれがどんなにカッコ悪くても、どんなに変でも。俺は俺だ。
ニヒヒと笑った御浜君がボールを回してくれる。それを受け取り、掌の中で1回転させる。すぅーーっと細く息を吐いて集中する。もう1つのボールは、後ろか。なら、ノールックで避けれそうやな。
半歩左にズレると、太腿あたりをボールが通り過ぎていくのがわかった。そして、そのボールはそのまま奏の目の前へ。
取り際を狙うのが普通かもしれない。けど、俺はそこに選択の余地を与える。
捕った瞬間に投げる。無回転やなくて、縦回転。ボールは奏の顔の高さをキープして飛んでいく。
奏は捕ったボールを捨てた。負けず嫌いな奏なら当然か。今は俺が勝ち越している。なら、せめて最後くらい勝っとかないと、メンツが立たねぇもんな。
奏は少し飛ぶ。このボールに対する正攻法はこれだ。でも、甘い。
ボールは浮く。ほんの少し。飛んだ胸の高さから、顎、いや、口の高さまで。こうなれば、オーバーハンドで捕るしかない。
奏はボールに触れる。そして、落ちた。
「なんかできそうな感じがする。」
ここに楓がいたら「えぇ~」とか言われてそうだが、今はいない。待機場所からずっと観戦している。
昔はそんなチャレンジャーやなかった。いつも普通を普通にこなすそんな奴だった。だから俺は楓を密かに尊敬していた。「私にはそれしかないから」って言わせたとき、本当に自分が何でそんなことを聞いたのか悔やんだ。
だから、変わろうと思った。変わって、一緒のところから見てみたいと思った。それは楓と付き合い始めてからもそう。ずっと変わらない俺のスタンスだ。
助走に入る。多分握って投げるだけ。少し抜けたなって感じでいいと思う。
投げる。その瞬間に失敗したとわかった。ヒュルヒュルと高く上がったボールはそのまま落ちる。
「やっぱ無理か~。」
笑うしか無かった。
〇〇〇〇〇
昔は笑わなかった。昔と言えど小6くらいの頃だけやけど。そして、別れる時の笑顔もなんかぎこちなかった。それに比べて今は…
「おぉ~!」
上手く笑えてる。その視線の先にあるのは作詞家くん。どうして君はさくちゃんのこの笑顔を戻せたんかな?私だけなら多分出来んかった。だから悔しい。
「ゆーちゃん!今見た?今ギュンって!」
「はいはい、楽しそうやな、さくちゃん。」
「うん!めっちゃ楽しい!」
ほんと、感謝しないとな。
〇〇〇〇〇
ソフトバレーボールが入ってからと言うものの、こっちのチームは調子がいい。1人、奏に当てられて人数が減ったが、8対9とこちらが優勢だ。
「あと1種類残ってるやろ。」
「やけど、とりあえず残してるだけ。もしもの時用で。」
そんなことを言っているが、肘が少し痛み始めてきた。ちょっと無茶しているからな。
「あと1分でーす!」
放送部のアナウンスが聞こえる。微妙に長いな。
―ボコン
―ピーッ
誰かが当てた音と、ホイッスルの音が聞こえる。
「ッシ」
外野でガッツポーズをしているのは御浜君だ。何やら俺の方を見ている。
(働きすぎや。ちょっと休んでろ。)
そう言っているような気がした。
そして避けて、避けて、避けて、30秒前。8対10でリードしていた俺たちだったが、
「ごめん!」
外野から1人当てられて、9対9となる。そして、そのボールは俺たちのコート内で止まる。外野に回して、時間稼ぎをする。
(まだか?)
(あとちょっとで落ち着く。)
フライボールを投げるのすらキツい。ズキッと痛みが走り、思わず肘を押さえる。
ふぅーっと息を吐いて残り15秒。痛みが若干引いた。
「持ってこぉぉぉぉぉぉい!」
外野に向かってそう叫ぶ。モブ男子でいるのはもうやめた。俺は俺なりに目立つ。たとえそれがどんなにカッコ悪くても、どんなに変でも。俺は俺だ。
ニヒヒと笑った御浜君がボールを回してくれる。それを受け取り、掌の中で1回転させる。すぅーーっと細く息を吐いて集中する。もう1つのボールは、後ろか。なら、ノールックで避けれそうやな。
半歩左にズレると、太腿あたりをボールが通り過ぎていくのがわかった。そして、そのボールはそのまま奏の目の前へ。
取り際を狙うのが普通かもしれない。けど、俺はそこに選択の余地を与える。
捕った瞬間に投げる。無回転やなくて、縦回転。ボールは奏の顔の高さをキープして飛んでいく。
奏は捕ったボールを捨てた。負けず嫌いな奏なら当然か。今は俺が勝ち越している。なら、せめて最後くらい勝っとかないと、メンツが立たねぇもんな。
奏は少し飛ぶ。このボールに対する正攻法はこれだ。でも、甘い。
ボールは浮く。ほんの少し。飛んだ胸の高さから、顎、いや、口の高さまで。こうなれば、オーバーハンドで捕るしかない。
奏はボールに触れる。そして、落ちた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる