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ムカシハ

私たちは球技大会Ⅱ②

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 残り時間も短くなってきた。今はちょっとの差で負けている。けど、きいが止まらない。止まる気がしない。

 私が投げたボールも結局みんなきいに捕られてる。せっかく外野から内野に戻ってきたのに、全く役に立てている気がしない。

 私たちのチームの外野は6人。きい達F組の外野は5人。すぐにひっくり返そうと思えばできる。

 きいが投げたボールが私の方に飛んできた。またあんな感じの軌道だ。でも、何故か今回は止まって見える。動いているのに動いていないように。2回目の変化にもついていける。体が慣れたのか?いや、暖まったんだ。

 落ちてきたボールをしっかりと掴む。ボールはストンと私の胸に転がるように入り、今回はちゃんと捕れた。

 きいの顔を見る。少し悔しそう。それを見て、私は嬉しくなった。今回は私の勝ちって目で言って、外野の方に目を向ける。そこには大きく手を振っている、ゆーちゃんがいた。

「ゆーちゃん!」

私は大声をあげて、ゆーちゃんにボールを投げた。

〇〇〇〇〇

「ゆーちゃん!」

懐かしい感覚だ。もう何年も呼ばれてないあだ名。今まで私のことを『ゆーちゃん』って呼んだのはさくちゃんだけ。いや、正確には呼ぼうとしてくれた子はいたけど、私が拒否っていた。

 それにしても、今、なぜ。『ゆずちゃん』とかならよく言われるけど、なんでわざわざ『ゆーちゃん』なんだろう?桜はそのあだ名は知らないはず。でも、何の偶然か、さくちゃんの名前も桜だった。

 桜の笑った顔が目に映る。その笑顔は昔のさくちゃん、そのまんまだった。うっすらと幼稚園の頃のさくちゃんがダブって見える。

「さくちゃん!ナイス!」

次第に、その感覚は確信に変わっていった。

 久しぶり、さくちゃん。気づいてあげられなくてごめんね。

 私はそのボールをキャッチして、今まで快進撃を続けていた橋本さんを当てて内野に戻った。

〇〇〇〇〇

 ゆーちゃんも私が誰かに気づいたようだ。感動の再会といきたいところだが、今は試合中。そんな訳にはいかない。でも、あと少しだ。

 残り30秒のアナウンスが聞こえる。たった1人の差。せめて今だけはそれを崩す訳にはいかない。

「さくちゃん、狙われまくってんね。」
「ゆーちゃんは狙われてなくてええなぁ。」
「私としてはもうちょっと狙われたいんやけど。あっ、橋本さんボール持った。」

見ればきいが完全に私を狙っている。時間的にもあと10秒くらいだろうか。

 きいがボールを投げる。でも、私はそのボールを捕ろうとしなかった。今は無理しない方がいい。そう思ったから。そして、試合終了を告げるホイッスルが鳴った。
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