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ムカシハ

私たちは球技大会Ⅱ①

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 5月の太陽がジリジリと私の肌を照りつける。

「なんで陰キャぼっちになるはずだったきいが…」

今、ボールを持っているのは敵チームのきい。F組対H組の試合だ。さっき試合が終わったばっかの楓たちも近くまで来ていることは分かっている。だから負けられないんやけど。

 突然、きいが私を指さした。ご指名のようだ。ドッジボールは少し苦手やけど仕方ない。私は1歩前に出た。

〇〇〇〇〇

 桜はちゃんと応えてくれることを分かっていた。ひい君が近くまで来ているのがさっき見えたから、1つくらいはひい君の前で勝っておきたかった。

 私は勉強ができない。そして、運動が苦手だ。だけど、小学校の頃に散々やってきたドッジボールなら、そこらへんの女子には負けない自信がある。

 ホイッスルの音が聞こえる。そして、音が消えた。

 指の感覚はさっきは良かった。なら、今回も。

 私が投げたボールは、手首の柔らかさからかかる斜め下回転でそのまま飛んでいく。向かっているのは桜の遙か上。普通ならフライボールにも見えなくもないボール。だけど、ここからが私のボールだ。

〇〇〇〇〇

 最初はフライボールに見えた。だけど、空中で突然止まり、そして私の方に落ちてきた。1度力を抜いてしまったから今は受けれそうにない。でも、ボールはまっすぐ私の胸の方に落ちてくる。もしかしたら捕れるかも。

 私はキャッチする体勢にした。こんな感じのボールだからそこまで威力はないだろう。

 ふと思い出した。きいは久志と同じ小学校だ。さっきの試合。久志はまず奏を当てた。そのボールも変化がついていた。ブレるでは無い。曲がるだ。そして、このボールも曲がった。なら、もう一度変化がつくことは無い。私は少し安心した。

 その時だ。ボールが加速し始めた。ただの加速では無い。縦の変化量が増えた。

 私はそれに追いつこうとする。少し手を伸ばしてしまったのが運の尽きだった。ボールは私の指先に当たり、明後日の方向に飛んで行った。

 その方向には音羽がいた。

〇〇〇〇〇

 桜が当たったのが見えた。でも、そのボールは私の方に飛んできた。このまま私が捕れば、桜はアウトにはならない。

 でも、気づいた時にはボールは私の肩に当たっていた。

〇〇〇〇〇

 ボールが地面に落ちる。そしてホイッスルが2回。

「「「ウォォワァァァ!」」」

地面が揺れるような歓声が聞こえる。それでも私はひい君を探した。

 ひい君は少し離れたところから私を見ていた。その目は何故か憧れを帯びているような気がした。

 やったよ、ひい君。ひい君が得意な回転で、ひい君の見よう見まねでできるようになった回転で。こんな行事、前までなら嫌だった。でも、ひい君に見てもらいたくて、ちょっと頑張ったよ。だから、今だけは私だけを見て。
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