陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

ムカシハ

俺たちは球技大会Ⅱ③

　残り1分のホイッスルが鳴る。現在、差は4人で勝っている。外野から1人でも当てたらポイント数で逆転可能だ。とは言いつつ、ボールが回ってこない。C組が上手く回していて、俺たちI組は触れていない感じだ。

「あっ！」

そんな声とともにC組の外野が投げたボールはふわふわと宙を漂い、うちのクラスのボールとなった。

「ヘイ！」

それにすかさず反応した俺は、誰よりも早くボールを求める。内野のやつはすぐにボールをくれた。狙いは当然、奏ただひとり。目線を送っといたから、ちゃんと前に出てきてくれた。

　現在、外野にいるのは12人。その中には御浜くんも含まれていて、俺から見て右側の外野にいる。ソフトバレーボールは順位決定戦の時しか使わないから、今持っているのはハンドボール。横と斜めは使える。奏を当てて、なおかつ御浜くんにボールを届けれるボールは…横回転か。

　空気が止まったような感じだ。見えるのは笑っている奏の顔。分かるのは御浜くんの位置。脇腹くらいに当てたらドンピシャで御浜くんのところに届きそうだ。

　スっと放ったボールはまっすぐ奏の左の脇腹に進んでいく。

〇〇〇〇〇

　声が消えた。風の音が消えた。Qが投げたボールはまっすぐ俺の脇腹目掛け、迫ってくる。

　でも、俺は知っている。このボールは曲がる。さっきとほぼ同じ回転だから。だいたい右膝ぐらい。俺はボールとタイミングを合わせる。

〇〇〇〇〇

　奏には悪い事をした。このボールは曲がらない。散々曲げるボールだけ見せてきたから、曲がると思っているみたいだが、俺だってちゃんとまっすぐ投げれる。

　放ったボールはまっすぐ、まっすぐ、ブレることなく奏の左の脇腹に向かって飛んでいく。

〇〇〇〇〇

　いつになっても曲がらない。もしかしたら最後にクンッか？それとも、性格悪いな。俺の負けだ。もう間に合わない。

　左の脇腹に大きな衝撃が走り、ホイッスルの音が聞こえた。

〇〇〇〇〇

　ミッション①奏を当てろ。クリア。

　奏に当たって大きく跳ねたボールは、俺から見て右側の外野の方に飛んでいく。お前はそっち側にいるんだろ。だから、居ろよ。

　思ったところに御浜くんはいた。久しぶりに誰かと通じ合えた気がした。御浜くんがそのまま1人当てて、終わりのホイッスルが鳴った。


「ナイスー！」
「あっぶね～！」

試合終了後、船戸さんとハイタッチする。結局、ギリギリで勝てた。でも、奏たちC組は優勝候補筆頭チーム。順位決定戦でまた戦うかもしれない。そんなことを思いながら、横のコートで始まる試合を見ることにした。