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ムカシハ

俺の水泳日記①

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 突然だが、俺、加太奏太朗は現在スランプ真っ最中だ。

「なあなあえーじ、テンポってどうやってあげるんやったっけ?」
「えっ?自然と上がんねんけど。」

最近マネージャーになった美浜瑛二。中学時代は選手で、高校になってマネージャーに転向した優秀な後輩だ。俺よりも泳いでいた方がいいレベルで。

 この前の大会で、俺は自分の泳ぎの癖が見つかった。俺はテンポが遅いということ。テンポというのはストロークテンポのことで、右手が入水してから、再び右手が入水までの時間のことだ。それが、うちのチームのトップメンバーは1.0秒くらいなのに、俺は1.3秒。たった0.3秒の差に見えるかもしれないが、これが重なって大きな差となる。

 日頃の練習で、高いレベルで揃える練習をしてきたから、1発飛ばすのは本当に何ヶ月ぶりだろうか。合宿中のレペテーション(試合形式での練習)でも、2本ともベストがターゲットだったから、そこまで飛ばすような泳ぎをしなかった。ならば、2ヶ月は確実に空いていることになる。そりゃあ、忘れるわな。

 200m以上の持たさないといけないレースの調子はすこぶるいい。というか、同じ日に計った200Frは、そこまで頑張ったって感じじゃなかったのに5秒ベストだった。だから、決して調子が悪い訳では無い。ただ、テンポが上がらないだけだ。

「その自然とがなぁ、分からんようになってん。」

俺が日頃の練習で泳ぐときのテンポは、1.3~1.4秒。それのテンポから上げていかないと、多分治らない。でも、練習が練習な以上、テンポをあげたら疲れる。どうすべきか。

「今って、水掴めてるん?」
「掴めてるってよりも、乗れてるって感じ。やから、少ない体力で進めるし、体力の回復もできる。」
「それを崩すのはもったいないやろうな。」

 3年生がいなくなった時、1500mに照準を定めるのか、100mに照準を定めるのか、そんな問題だ。それほど泳ぎ方から違うし、練習も変わってくる。俺には今の練習が合ってる。だから変えるつもりは無いが、もし、100mを泳ぐ時は、それで練習を変えないといけない。本当にめんどくさい専門種目を選んじまったな。

「なあなあ楓、1500と100どっちの方が向いてると思う?」
「奏はどっちが楽しいの?」
「そりゃあ1500。」
「じゃあ、それでよくね?」
「たしかにな。」

楓はそんな感じで言ってくれるが、俺はまだ悩んでいた。
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