上 下
113 / 725
ワタシハ

感覚

しおりを挟む
「新年、あけましておめでとうございます。みなさんご唱和ください。せーの!ガショーーーーン!…誰かやってくださいよ!」
「加太は新年から元気だな。」
「これくらい元気にならないとやってやれませんよ。」

新年初泳ぎ。年末の他校との合同通い合宿を乗り切った俺たちだが、それぞれ専門距離の違うグループ間で不穏な空気が流れていた。その理由は色々ある。

 その1。short組が楽すぎる問題。最終日の記録会の時だけ顔を合わせたが、あまりにも元気すぎる。きけば、その前日の午後の練習は50mを2本、ダッシュで泳いだだけらしい。他の日の練習も、いつもの練習と遜色ないものだったらしい。それに比べて、middleやlongが専門の、他校に移動した組は、死にそうな練習をしてきた勇者達。多少なりとも羨ましがっても問題ない。

 その2。middle組には優しさがあるのか問題。共に地獄を耐え抜いた仲間たちだが、基本的にlongよりも終わるのが早く、練習最終日には、まだ練習している俺たちを置いて、飯に行ったという。他校の人達は待っていたのに。少しぐらい恨んでもいいだろう。

 そんな年末を過ごしたからか、うちの学校の練習が少し楽に見えてくる。トータルの距離も6000mくらいだから、年末よりも1000m以上短い。

 体操をしてプールに入る。久しぶりの水の感触がとても気持ちいい。それでも、5日ほど泳いでいないからか、水がめちゃくちゃ軽かった。多分掴みきれていないからだ。ウォーミングアップの間に感覚を取り戻さないと、大変なことになるな。

 ひとまず、水の感覚を思い出した俺は、いつもと何ら変わらない泳ぎでメニューをこなしていく。

「加太、泳ぎ綺麗になった?」
「自分では分からんけどそうかな?」

休憩中、声をかけてきたのは同じ学年の美浜佳苗。練習はだいたい同じコースにいるから、よく喋っている。

「さっきのイージー見とってさ、グライド(水に乗っている時間)が長くなったなって。」
「たしかに、それは意識してるかも。意識しないと疲れて死ぬから。」
「年末効果ってやつか。」
「そうそう。」

身体には年末の感覚が残っていて、どれだけダッシュで泳いでも疲れない。タイムも前よりも良くなっていて、やっとあの練習をやっといてよかったと思えた。

「なあなあピー也。俺らさ、ターンの精度良くなってきてね?」
「回るの速くなったよな。」
「ほんまそれな。俺ら年末回りすぎたかな?」
「そらそうだろ。結局誰よりも泳いでんねんから。」

今日のメインも難なく泳ぎ切り、ダウンをする。年末に掴んだ感覚をまた覚えさせながら、それを身体に馴染ませる。この泳ぎが崩れる前に早く夏になって欲しいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...