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サマバケ
DAY27
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「おう。」
「よっ。」
木曜日の午後、近くのコンビニに行くと、そこには奏がいた。
「クラブ終わり?」
「そうそう。今日も疲れたわぁ。」
「お疲れ。」
店内に入る。ピポパポパパーンパピポパポパンと音楽が流れて、「いらっしゃいませー!」と挨拶された。店内がいい感じに冷えているから、外に出たくない衝動に駆られる。
「奏は何買うんだ?」
「暑いしアイスかな?Qは?」
「俺はアイスコーヒーとチキン。アイスもいいものがあったら買うわ。」
まずは飲み物売り場でペットボトルのアイスコーヒーを取る。奏も味が気になったようで、同じものを手に取っていた。
次にアイス売り場へ。コンビニはそれぞれオリジナルのブランドで商品を出しているから、行くところで違う楽しみが味わえる。俺はバニラモナカを、奏はオーソドックスにソフトクリームを取った。
レジに並ぶ。チキンはレジで注文することがルールだから、2つを出した時に伝えると、「分かりました~」とホットスナックに取りに行った。ああいう商売の笑顔は俺には一生作れなそうだ。奏は先に会計が終わったらしく、少し離れたところで待ってくれている。俺は支払いを済ませて、奏のところに行った。
「ごめん、待たせた。」
「いいぞ。そこのカフェスペースで食べるか。」
このコンビニには、小さいが飲食スペースがある。ここにはポットや電子レンジもあって、簡単な調理も可能だ。俺たちは横並びに座って、コーヒーを飲んだ。
「Qって水泳部だったんだな。」
「ああ。何でそのことを?」
「この前、杏ちゃんから聞いた。怪我だって?」
「そう。右膝の筋を痛めてな。この前プールに行った時は大丈夫だったが、海で泳いでいて痛くなることもある。」
「そうか…。」
奏は買ったソフトクリームを1口食べる。俺もバニラモナカを1口。口の中に冷たさと甘みが広がっていく。
「なあ、Q。水泳部に来ないか?」
「なんで俺が?」
「先輩にな、お前の出身の中学の人がいてな。高野瑞希って人、覚えてるか?」
「覚えてるも何も、うちのエースだったからな。」
奏はコーヒーをまた1口。
「その人が、お前の泳ぎは手本みたいにキレイだって。そう言うもんでな。出来ればコーチとして来て欲しい。」
「そういうのは、陸に戻った人より、現役の水中生活してる人の方が確実だろ?しかも、俺、もう2年は泳いでないぞ。」
「でも、感覚は残ってるだろ。」
「たしかに残ってるけど。」
「毎日とは言わねぇ。週1か月1か、それくらいでいい。3年生がいなくなって、今みんなでアイデアを出して盛り上がっていこうとしてるところなんだ。頼む。」
奏の真剣な眼差しは不安に溢れていた。競技ができなくなった人を、またその舞台に戻らせる罪悪感。そして、参加することを主としない罪悪感。そんなものに押しつぶされそうなんだろう。それでも、俺にその目を向ける。不安と希望に満ち溢れた目を。
「分かったよ。その話乗ってやる。でも、俺も久しぶりだからな。まともにアドバイスできるか分からねぇぞ。」
「すまん。恩に着る。」
奏はやっといつもの笑顔に戻った。
奏と別れて家に帰る。
「おかえりぃ。」
桜はリビングでくつろいでいた。録画リストの消化をしているのか。俺があまり見ない異世界系のアニメを見ている。
「あれっ?久志なんか嬉しそう。」
「そうか?まぁそうかな。」
「何その煮え切らない返事。」
そうか。俺、嬉しそうか。
「よっ。」
木曜日の午後、近くのコンビニに行くと、そこには奏がいた。
「クラブ終わり?」
「そうそう。今日も疲れたわぁ。」
「お疲れ。」
店内に入る。ピポパポパパーンパピポパポパンと音楽が流れて、「いらっしゃいませー!」と挨拶された。店内がいい感じに冷えているから、外に出たくない衝動に駆られる。
「奏は何買うんだ?」
「暑いしアイスかな?Qは?」
「俺はアイスコーヒーとチキン。アイスもいいものがあったら買うわ。」
まずは飲み物売り場でペットボトルのアイスコーヒーを取る。奏も味が気になったようで、同じものを手に取っていた。
次にアイス売り場へ。コンビニはそれぞれオリジナルのブランドで商品を出しているから、行くところで違う楽しみが味わえる。俺はバニラモナカを、奏はオーソドックスにソフトクリームを取った。
レジに並ぶ。チキンはレジで注文することがルールだから、2つを出した時に伝えると、「分かりました~」とホットスナックに取りに行った。ああいう商売の笑顔は俺には一生作れなそうだ。奏は先に会計が終わったらしく、少し離れたところで待ってくれている。俺は支払いを済ませて、奏のところに行った。
「ごめん、待たせた。」
「いいぞ。そこのカフェスペースで食べるか。」
このコンビニには、小さいが飲食スペースがある。ここにはポットや電子レンジもあって、簡単な調理も可能だ。俺たちは横並びに座って、コーヒーを飲んだ。
「Qって水泳部だったんだな。」
「ああ。何でそのことを?」
「この前、杏ちゃんから聞いた。怪我だって?」
「そう。右膝の筋を痛めてな。この前プールに行った時は大丈夫だったが、海で泳いでいて痛くなることもある。」
「そうか…。」
奏は買ったソフトクリームを1口食べる。俺もバニラモナカを1口。口の中に冷たさと甘みが広がっていく。
「なあ、Q。水泳部に来ないか?」
「なんで俺が?」
「先輩にな、お前の出身の中学の人がいてな。高野瑞希って人、覚えてるか?」
「覚えてるも何も、うちのエースだったからな。」
奏はコーヒーをまた1口。
「その人が、お前の泳ぎは手本みたいにキレイだって。そう言うもんでな。出来ればコーチとして来て欲しい。」
「そういうのは、陸に戻った人より、現役の水中生活してる人の方が確実だろ?しかも、俺、もう2年は泳いでないぞ。」
「でも、感覚は残ってるだろ。」
「たしかに残ってるけど。」
「毎日とは言わねぇ。週1か月1か、それくらいでいい。3年生がいなくなって、今みんなでアイデアを出して盛り上がっていこうとしてるところなんだ。頼む。」
奏の真剣な眼差しは不安に溢れていた。競技ができなくなった人を、またその舞台に戻らせる罪悪感。そして、参加することを主としない罪悪感。そんなものに押しつぶされそうなんだろう。それでも、俺にその目を向ける。不安と希望に満ち溢れた目を。
「分かったよ。その話乗ってやる。でも、俺も久しぶりだからな。まともにアドバイスできるか分からねぇぞ。」
「すまん。恩に着る。」
奏はやっといつもの笑顔に戻った。
奏と別れて家に帰る。
「おかえりぃ。」
桜はリビングでくつろいでいた。録画リストの消化をしているのか。俺があまり見ない異世界系のアニメを見ている。
「あれっ?久志なんか嬉しそう。」
「そうか?まぁそうかな。」
「何その煮え切らない返事。」
そうか。俺、嬉しそうか。
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