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サマバケ
DAY14③
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「てなわけで、音羽ちゃんと仲良くしてる新宮カレンや。よろしくな!」
俺の正面に座ったイタリア人とのハーフの少年はそう言う。見た目に反して、超ベッタベタの関西弁を使いこなして、ダル絡みとは言えないほどの絡み方。ラブコメで言うと主人公の親友で恋敵みたいな空気を纏った彼は、初めに感じた桜のフレンドリーさよりも何倍も強い安心感がある。
「それで、さっき俺たちの隣の席とってたけど、それでいいのか?」
「ええよええよ。何か面白そうな集団やし。」
そう言って俺たちのことを見る。全員見回して少し微笑み、さっき買ったコーラを飲んだ。
「それにしても、フードコートがこんなに空いてるなんて、久しぶりやないかな?」
「そうなのか?」
「だって、ここはあのアオンやで。そりゃあ人でいっぱいなるやろ。」
「まあ確かに。」
女子たちはハンバーガーを頬張って満悦そうな顔をしている。熊野さんは、やっぱりカレンから1番遠いところにいるか。
「にしても、うちの学校にハーフがいるとはな。いるならもっと話題になるだろうに。」
「あーそれね。普段は何となく関西弁やけど、脅迫用のイタリア語使って挨拶したから、おいそれと他クラスに話すこと無かったんちゃう?知らんけど。」
「やっぱり、2ヶ国語使えるって便利だな。」
などと談笑しているうちに、時間は過ぎていった。
時刻はもうすぐ15:45。上映開始30分前になって俺たちは移動する。傍から見たら結構な人数だけど、自然と男子と女子の2グループに別れていて、通行の妨げにはなっていない。シネマに戻って、パンフだけ買って入場開始を待つ。近くのソファに座っていると、人が続々と入ってきた。これだけの人が見るのかと感心。そしてアナウンスがなった。
係の人から入場者特典を受け取って、スクリーンに移動。それぞれさっきくじ引きで決めた順番に座る。
「何で私がこんな目に…」
熊野さんが泣きそうな理由は、横にカレンがいるから。順番は右端から順番に熊野さん、カレン、奏、海南さん、きい、俺、そして桜。なんだろう、超ラブコメ的展開。陰キャには結構ハードルが高い。スマホの電源を消して鞄の中に直す。上映中のマナーの映像が流れて、本編が始まった。
エンディング曲のバラードが流れて、室内が明るくなる。人が出ていくのを待っていると、きいが話しかけてきた。
「Zのときよりも悲しいんだけど。」
「確かに、Zの時とは違う悲しさだね。Zのときは男らしさに泣いた感じだけど、今回は推しが死んだときみたいな感覚かな。」
「ひい君だいぶ悲しんでる?」
「まあね。」
人が少なくなってきたので外に出る。グッズ売り場のところに人がごった返していて、キーホルダー類はもうほぼ無くなっていた。
「先買っといて良かったね。」
「そうだね!Qナイス!」
「Qって誰?」
カレンが首を傾げる。そりゃそうか、俺がそう言われる所以を聞いていないからな。
「まさか、元ネタ知らないの?」
「元ネタ?」
俺たちの危険センサーがビンビンに反応している。ヤバいと俺たちは視線で伝えて、何とか回避しようとするが、
「私の敬愛する朝〇カフカ先生の…」
また始まった。実際、面白い作品だと思うし、布教して話し相手が増えるのはいい。ただし、長い!
「ストップ楓!魅力は私から伝えておくから、ステイ!」
「わふん。」
熊野さんが話を遮る。そうか、熊野さんはカレンの隣だから、いつでも話せるのか。俺で言うと桜みたいな存在ってことか。
アオンモールを後にして、大日駅まで歩く。ホームはさっきよりも閑散としていて、通り抜ける風の音だけが聞こえる。自然とみんなも黙っていて、静かな時間が流れていく。
静寂を断ち切るように、モノレールのエンジン音が響く。音が近づいてくるごとにこれで終わりだなと感じる。
「誰か緑シャン当たった?」
「当たってない。」
「私も。」
「俺も。」
他のみんなも首を横に振る。俺たちが話しているのは、今日見た映画が元となっているオンラインゲームのこと。最近、この映画のキャラがどんどん実装されていっている。
「みんな話してんのバウンティだよね。俺もやってるけどまだ当たってないわ。ウタは当たったけど。」
「嘘でしょ。何レベ?」
「今は80かな。それでも十分使えるし。」
カレンもやっていると聞いて安心した。何か除け者みたいにするのは嫌だからな。
「じゃ、このバカはあとでグループ招待しとく。」
「よろしく頼んだ!音羽隊員!」
「任された!」
熊野さんと海南さんが敬礼ポーズをとる。ドアが開いて乗り込む。まずは1駅。大阪の夜景を眺めながらゆっくり移動していく。門真市駅で乗り換えて、各駅停車に乗り込む。この時間帯は枚方市行きがたまにあるから、座ってそのままでいい。最初に古川橋で熊野さんとカレンが降りて、俺たちは光善寺で降りる。奏と海南さんと別れてからは3人で歩く。時刻はもう7時すぎ。夏といえど辺りは暗くなっている。きいの家の前を通って、俺たちの家に着く。
「ただいま。」
「おかえり!2人ともネタバレしないでよ!」
次は杏と見に行こうかななんて言ったら怒るんだろうな。
俺の正面に座ったイタリア人とのハーフの少年はそう言う。見た目に反して、超ベッタベタの関西弁を使いこなして、ダル絡みとは言えないほどの絡み方。ラブコメで言うと主人公の親友で恋敵みたいな空気を纏った彼は、初めに感じた桜のフレンドリーさよりも何倍も強い安心感がある。
「それで、さっき俺たちの隣の席とってたけど、それでいいのか?」
「ええよええよ。何か面白そうな集団やし。」
そう言って俺たちのことを見る。全員見回して少し微笑み、さっき買ったコーラを飲んだ。
「それにしても、フードコートがこんなに空いてるなんて、久しぶりやないかな?」
「そうなのか?」
「だって、ここはあのアオンやで。そりゃあ人でいっぱいなるやろ。」
「まあ確かに。」
女子たちはハンバーガーを頬張って満悦そうな顔をしている。熊野さんは、やっぱりカレンから1番遠いところにいるか。
「にしても、うちの学校にハーフがいるとはな。いるならもっと話題になるだろうに。」
「あーそれね。普段は何となく関西弁やけど、脅迫用のイタリア語使って挨拶したから、おいそれと他クラスに話すこと無かったんちゃう?知らんけど。」
「やっぱり、2ヶ国語使えるって便利だな。」
などと談笑しているうちに、時間は過ぎていった。
時刻はもうすぐ15:45。上映開始30分前になって俺たちは移動する。傍から見たら結構な人数だけど、自然と男子と女子の2グループに別れていて、通行の妨げにはなっていない。シネマに戻って、パンフだけ買って入場開始を待つ。近くのソファに座っていると、人が続々と入ってきた。これだけの人が見るのかと感心。そしてアナウンスがなった。
係の人から入場者特典を受け取って、スクリーンに移動。それぞれさっきくじ引きで決めた順番に座る。
「何で私がこんな目に…」
熊野さんが泣きそうな理由は、横にカレンがいるから。順番は右端から順番に熊野さん、カレン、奏、海南さん、きい、俺、そして桜。なんだろう、超ラブコメ的展開。陰キャには結構ハードルが高い。スマホの電源を消して鞄の中に直す。上映中のマナーの映像が流れて、本編が始まった。
エンディング曲のバラードが流れて、室内が明るくなる。人が出ていくのを待っていると、きいが話しかけてきた。
「Zのときよりも悲しいんだけど。」
「確かに、Zの時とは違う悲しさだね。Zのときは男らしさに泣いた感じだけど、今回は推しが死んだときみたいな感覚かな。」
「ひい君だいぶ悲しんでる?」
「まあね。」
人が少なくなってきたので外に出る。グッズ売り場のところに人がごった返していて、キーホルダー類はもうほぼ無くなっていた。
「先買っといて良かったね。」
「そうだね!Qナイス!」
「Qって誰?」
カレンが首を傾げる。そりゃそうか、俺がそう言われる所以を聞いていないからな。
「まさか、元ネタ知らないの?」
「元ネタ?」
俺たちの危険センサーがビンビンに反応している。ヤバいと俺たちは視線で伝えて、何とか回避しようとするが、
「私の敬愛する朝〇カフカ先生の…」
また始まった。実際、面白い作品だと思うし、布教して話し相手が増えるのはいい。ただし、長い!
「ストップ楓!魅力は私から伝えておくから、ステイ!」
「わふん。」
熊野さんが話を遮る。そうか、熊野さんはカレンの隣だから、いつでも話せるのか。俺で言うと桜みたいな存在ってことか。
アオンモールを後にして、大日駅まで歩く。ホームはさっきよりも閑散としていて、通り抜ける風の音だけが聞こえる。自然とみんなも黙っていて、静かな時間が流れていく。
静寂を断ち切るように、モノレールのエンジン音が響く。音が近づいてくるごとにこれで終わりだなと感じる。
「誰か緑シャン当たった?」
「当たってない。」
「私も。」
「俺も。」
他のみんなも首を横に振る。俺たちが話しているのは、今日見た映画が元となっているオンラインゲームのこと。最近、この映画のキャラがどんどん実装されていっている。
「みんな話してんのバウンティだよね。俺もやってるけどまだ当たってないわ。ウタは当たったけど。」
「嘘でしょ。何レベ?」
「今は80かな。それでも十分使えるし。」
カレンもやっていると聞いて安心した。何か除け者みたいにするのは嫌だからな。
「じゃ、このバカはあとでグループ招待しとく。」
「よろしく頼んだ!音羽隊員!」
「任された!」
熊野さんと海南さんが敬礼ポーズをとる。ドアが開いて乗り込む。まずは1駅。大阪の夜景を眺めながらゆっくり移動していく。門真市駅で乗り換えて、各駅停車に乗り込む。この時間帯は枚方市行きがたまにあるから、座ってそのままでいい。最初に古川橋で熊野さんとカレンが降りて、俺たちは光善寺で降りる。奏と海南さんと別れてからは3人で歩く。時刻はもう7時すぎ。夏といえど辺りは暗くなっている。きいの家の前を通って、俺たちの家に着く。
「ただいま。」
「おかえり!2人ともネタバレしないでよ!」
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