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サマバケ

DAY7①

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 朝起きても誰もいないことはいつものこと。重たい体を無理やり動かせて、ベランダに出てコーヒーを飲む。

「はぁ、みんな家近いからいいなぁ。」

そんなこと呟いても何も変わらないって分かってる。でも、会えないのはちょっと辛いかな。

 私が住んでいるのは、古川橋の駅の近くにあるアパート。学生が借りられるくらいだからだいぶお安めだけど、とにかくボロい。歩けば床がミシミシ音を鳴らすし、蜘蛛の巣もそこら中に張っている。もう慣れたけど。だからこの生活はだいぶマシ。ただ一点を残して。

「音羽ちゃん、おはようさん!」
「はぁ、おはよう、カレン。」

隣に住んでいる新宮カレン。カレンだけど性別は男。確か、日本とイタリアのハーフだったか。喋りは私よりベッタベタの関西弁。歳は同じ15歳。学校も同じ私立国学社大学付属高校。クラスは隣のD組。入学式の日の帰りでただ1人、同じ駅に降りたこともあり、向こうから話しかけられるようになった。

「なあなあ、宿題進んでる?」
「進んでるけど、暇だし。どうせアンタもでしょ。」
「分かってるやん!じゃあ、終わったら遊びに行かん?ちょっとそこまで。」
「そこってどこよ。」
「スーパー。」
「遊ぶじゃないし、まぁ食材減ってきてるからいいけど。何時ぐらい?」
「お惣菜とか安なるまで待ちたいし、5時半とか。」
「りょーかい。じゃあ、後でね。」

私は部屋の中に戻って、朝ご飯を食べる。パンにチーズを乗せて焼いただけだけど。食器を洗ってテレビを点ける。ニュース番組しかやってないから、そこまで唆られる内容のものはない。録画リストの消化を始めるとしよう。

 さっきカレンにはあんなこと言ったけど、実はもう宿題は終わっている。てか、この学校、量少なすぎなんだけど。よくこんなので1ヶ月かかるわ。今が10時すぎだから、アニメどれか1クール見て丁度いいくらいか。溜めていたか〇や様でも見たらいいや。

 全部見きった時には5時になっていた。途中、昼ごはんを作ったりしたから予定通りだ。ぴっちりとしたデニムに白のTシャツを着て、時限クエストをやりながら時間がくるのを待つ。5:23にインターホンが鳴らされた。

「今行く~!」

ドアが薄いから、これで十分聞こえる。財布とスマホと保冷バッグだけ持って、外に出た。

「ほな行こか。」

カンカンと音を立てながら、スケスケの階段を降りる。スーパーまでは徒歩10分。自転車に乗ったおば様方が颯爽と走り去っていくのを横目に見ながら、変人と歩く女子高生は、傍から見たらどんな風に見えているのか考えながら歩く。カレンは別に無言が嫌いな訳では無いから、ちょっと居心地がいい。だけど、喋り始めたら止まらないって感じがちょっと苦手だ。

「何買うん?」
「特に何も決めてないけど、多分野菜類は結構買わなあかんと思う。カレンは?」
「自分は冷凍食品が結構欲しいかな。餃子とか。あっ、そうだ!今日の晩、餃子パーティせん?2人で金出し合って買ってさ。」
「いいねそれ!やろ!」

スーパーに着いて、それぞれカゴを持って野菜売り場から順に見て回る。今日は野菜の特売日だから、ちょっと安い。山積みになっている中からいいものを取ってカゴの中に入れる。人参、ピーマン、きゅうり、トマト、キャベツなどなど。カレンも自炊しているみたいだから、同じように取っていく。魚売り場はスルー。肉は豚バラだけ取って、冷凍食品売り場に移動。私が鶏もも肉の冷凍肉を取ると、カレンが覗き込んできた。

「それ何キロ?」
「2キロ。」
「マジで!買っとこ。」

海外産の鶏肉2キログラムで700円。鶏ももは基本的になんでも使えるし、この量があればほぼ1週間持つから、懐的に本当にありがたい。

「なあ、肉とニラどっちがいい?」

カレンは50個入りの餃子の前で立ち尽くしていた。

「単純に肉じゃない?私、それ食べたことないし。」
「自分も食べたことないけど。まぁ肉にしとくか。」

肉餃子を取って、レジに並ぶ。まあまあの量を買ったから、支払いは3600円。バイト代貯めといて良かった。

 帰り道、冷凍の餃子が溶けるのを恐れた私たちは、小走りで家に帰った。

「どっちの家にする?」
「自分片付けてへん。」
「じゃあ、私の家ね。荷物置いてからまたインターホン押して。」
「はぁい。」

パタンとドアを閉めて、冷蔵庫に今日買ったものを入れていく。一応、今日買った餃子も入れて、カレンが来るのを待つ。部屋着に着替えるとピンポーンと音が鳴った。
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