陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君

文字の大きさ
上 下
28 / 773
ハジマリ

雨の日②

しおりを挟む
 私のすぐ隣で歩く1人の少年。少し頼りないし、分からないことも多いけれど、確かに一緒にいて楽しい。肩と肩が触れ合いそうな距離。少し私の方に傾けた傘で真上の空を覆っている。彼の左肩は雨に濡れて少し色が濃くなっていて、点々と縦に線がついている。私は彼の腕を抱き寄せた。

「濡れてるよ。久志も入りな。」

私が下から彼のことを見つめると、やれやれという顔を浮かべて、彼も中に入った。少し顔に熱を感じた。彼の方を見やると、耳まで真っ赤になって、そっぽを向いている。家まではたまに肩がぶつかったり、離れたり、何の会話もないけど、嫌では無い時間を過ごした。

 暗い部屋の電気を点ける。まだ杏ちゃんは帰っていないようだ。

「風呂入るか?」
「久志が先入って。」
「俺は別にいいぞ。」
「い・い・か・ら!」

まったく困った同居人だ。こっちがいいって言ってんのに。まあそういう優しさがちょっとだけいいって思っているんだけど。好きとかじゃないからね、絶対。

 ザァーとシャワーの音がプラスチックの扉越しに聞こえてくる。私は雨で少し乱れた髪の毛を直して、晩御飯を作り始めた。今日はスーパーに寄らずに帰ってきたから、冷蔵庫の中にあるものはまばらだ。私はまだ量の残っていた豚バラ肉とキャベツを取り出し、回鍋肉を作った。ガラガラと音がして少ししたら、彼が髪の毛を拭きながら出てきた。

「おっ回鍋肉か、美味そうだな。」
「でしょ!早く髪乾かして来て!」
「お、おう。」

少し近づきすぎたかな?気づいたら、私と彼の距離はほんの数センチほどになっていた。さすがに彼も驚いたようで、ちょっと頬を赤くしている。

「ごめん。」
「いいよ。」

彼は手をひらひらさせて再び洗面所に戻って行った。

 回鍋肉は初めてにしては上手くできていた。味の濃さもちょうどご飯に合っているし、ソースの焦げ具合もちょうどいい。向かいに座っている彼も箸が止まっていない様子だ。美味しいご飯ほど口数も減るのか、部屋は食器と箸が擦れる音だけが響いている。

「美味かったぁ!」
「お粗末さまでした。」
「桜って料理上手いんだな。」
「久志がレパートリー少なすぎるだけでしょ。」
「よし、桜は明日から晩飯はスパゲッティだけ!」
「それだけはやめてください。お願いします。」

私たちはソファに座って眠たくなるまで話したり、ゲームしたりして。杏ちゃんが帰ってきて、部屋は一層騒がしくなる。そのあともご飯を作ったりゲームしたり。気づけばもう11時。私たちはそれぞれの部屋に入って、今日一日のことを思い出しながら眠りについた。

 やはりこの家は居心地がいいようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

処理中です...