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死ねどスプレーは何を殺したか?
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ほんの戯れのつもりだった。
私はポケットから手を入れるフリをしながらお清めスプレーを人の森の空いた空間にプッシュする。
いち、に
あたりに墨汁のような香りが漂いだしてからほんの数分…いや、数秒だったかもしれない。
『うっ』
私の背後にいたサラリーマンの小さく呻いた声を皮切りに苦しそうに呻き、踠く人々。
中には喉をかきむしる女やここから出せと言わんばかりに窓やドアを叩く男。
まさに地獄絵図
呼吸ができる隙間がかろうじてあるだけの空間で次々と暴れ狂う人々。
波のような激しい熱気と動きのなかで私の意識は段々と薄れ、ふつりと途絶えた…
『もしもし、大丈夫ですか??』
誰かが私の肩を叩いている。
重い目蓋を開けると目の前には車掌の姿。
車掌は私が目覚めたのを確認すると『この電車は回送になりますので降りてくださいね』
と早く降りるよう目で急き立てる。
おかしい。あんなに満員電車の中で群衆が暴れていたのに、この車掌はなぜ『いつもどおり』の業務をこなしているのだろうか?
そして私はどれくらいの間気を失っていたのだろうか?
不思議に思いながらも私は終点の淀屋橋駅を降りる。
あんなに多くの人間が苦しみ、暴れていたのだからTwitterでは大騒ぎに違いない。
そう思いながらスマホを起動する。
その瞬間私は画面をみて息が止まった。
スマホの画面の時刻は深夜。
派遣先の上司と派遣元からの不在着信が何件も入っている。
両親にも連絡が言ったのだろう。ラインの通知があり得ないくらい入っていた。
どういうことだ?
私は『朝のいつもどおりの時間に』乗った筈だ。
確かに毎朝すれ違う名も知らぬ人の姿を駅で見た筈だ。
私は…
私は本当に『いつもの電車』に乗ったのだろうか?
電車の中にいた人は本当に『いつもよく見る人たち』だっただろうか?
思いだそうとすればするほど私が朝自分につけたお清めスプレーの独特な香りが漂い、その思考を霧の中へ隠してしまう。
もしもあの時戯れにあのスプレーを押さなければ私は『どこに』連れていかれたのだろう?
私は改札を抜け、階段を登りながら派遣先と派遣元、そして両親にどう説明をするか考えるのを放棄し、ラインで今日起こった出来事を友人に伝えようと文字を打ち始めた。
~死ねどスプレーは何を殺したか?~
END
私はポケットから手を入れるフリをしながらお清めスプレーを人の森の空いた空間にプッシュする。
いち、に
あたりに墨汁のような香りが漂いだしてからほんの数分…いや、数秒だったかもしれない。
『うっ』
私の背後にいたサラリーマンの小さく呻いた声を皮切りに苦しそうに呻き、踠く人々。
中には喉をかきむしる女やここから出せと言わんばかりに窓やドアを叩く男。
まさに地獄絵図
呼吸ができる隙間がかろうじてあるだけの空間で次々と暴れ狂う人々。
波のような激しい熱気と動きのなかで私の意識は段々と薄れ、ふつりと途絶えた…
『もしもし、大丈夫ですか??』
誰かが私の肩を叩いている。
重い目蓋を開けると目の前には車掌の姿。
車掌は私が目覚めたのを確認すると『この電車は回送になりますので降りてくださいね』
と早く降りるよう目で急き立てる。
おかしい。あんなに満員電車の中で群衆が暴れていたのに、この車掌はなぜ『いつもどおり』の業務をこなしているのだろうか?
そして私はどれくらいの間気を失っていたのだろうか?
不思議に思いながらも私は終点の淀屋橋駅を降りる。
あんなに多くの人間が苦しみ、暴れていたのだからTwitterでは大騒ぎに違いない。
そう思いながらスマホを起動する。
その瞬間私は画面をみて息が止まった。
スマホの画面の時刻は深夜。
派遣先の上司と派遣元からの不在着信が何件も入っている。
両親にも連絡が言ったのだろう。ラインの通知があり得ないくらい入っていた。
どういうことだ?
私は『朝のいつもどおりの時間に』乗った筈だ。
確かに毎朝すれ違う名も知らぬ人の姿を駅で見た筈だ。
私は…
私は本当に『いつもの電車』に乗ったのだろうか?
電車の中にいた人は本当に『いつもよく見る人たち』だっただろうか?
思いだそうとすればするほど私が朝自分につけたお清めスプレーの独特な香りが漂い、その思考を霧の中へ隠してしまう。
もしもあの時戯れにあのスプレーを押さなければ私は『どこに』連れていかれたのだろう?
私は改札を抜け、階段を登りながら派遣先と派遣元、そして両親にどう説明をするか考えるのを放棄し、ラインで今日起こった出来事を友人に伝えようと文字を打ち始めた。
~死ねどスプレーは何を殺したか?~
END
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