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父が政府に殺された日、僕は最後に父の目を見た。

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 僕の父は、死んだ。死んだというよりか、殺された。
 僕の父は、政府に殺された。理由は、僕の父が政府の不正を密告しようとしたからだそう。しかし、僕は受け入れられなかった。
 現在、僕は十一歳。父親が大好きな年頃だ。僕と父の家族関係は、とても良好。なのに…どうして突然僕の父はいなくなってしまったの?
 父は新聞記者をしていた。僕は今、その会社のビルの屋上にいる。蒼がどこまでも広がる空を見ながら、僕は父が逝ってしまった日のことを思い出すのだった。

 来ると知っていた。今、これが別れの時。
 父が刑務所のようなところで、今からギロチンに首を通す前に、僕たちと最後の雑談をしていた。
「おお、凛。来てくれたのか」
 もちろん来るよ。だって、父との最後の会話だ。それに、母は先に病気で亡くなってしまった。僕が来ないで、誰が来るんだ。
「と、父さん…」
「大丈夫だ。お前ならきっと俺無しでもやっていける」
 そして、父は聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で言った。
「…生まれてきてくれて、ありがとな」
 その言葉を聞いて、僕の目からは一粒の雫が零れ落ちた。
 僕が涙を流している最中にも父は、処刑台に向かっていた。
 ああ。
 父とは色々な思い出があった。甦る記憶。僕の誕生日には一緒にケーキを食べたり。両親の結婚記念日は三人で外食したり。僕が病気に罹ったら、付きっ切りで看病してくれたり。
 …思い出すだけでも、涙が溢れてしょうがない。しかし、父は僕に一度も涙を見せることなく、常に笑顔だった。
 ついに訪れた、処刑の瞬間。処刑される直前に父は、僕の目をまっすぐと見ているのがわかった。
 その時が、父の目を見た最後の日だった。

 次に視界に広がったのは、赤だった。混じりっ気の無い、純粋な赤だった。あんなに気高く、強かった、僕の父が…。今、死んだ。
 僕は嘆き、悲しんだ。その瞬間から僕の頭の中は、政府への、怒り、憎しみ、恨みが支配した。しかし、僕には力も、権力もないため、何も手は出せなかった。
 その日の帰り見たのは、歪んだ夜空だった。そのまま歪み切って、こんな理不尽な世界を消して欲しいと思った。
 また涙が出そうになったが、こらえる。
 家に着いても僕は落ち着かなかった。もう、あの日は戻らない。そう考えるだけで、胸が締め付けられるような感覚になった。

 あれから、数日後。僕は、父との思い出を忘れないようにするため、父の遺品を整理していた。すると、父がよく読んでいた本に手紙がはさんであった。
 僕は驚き、恐る恐るその手紙に手を伸ばした。その手紙は、遺書だった。遺書にはこう書いてあった。

 我が子へ

 私はもう、行かなければならない
 今、まさに、天に昇る瞬間だ
 私は、お前に残りを託す
 この世で、しっかりと生きろ
 どんな辛いことがあろうとも
 どんな理不尽があろうとも
 未練を残したまま
 諦めて、命を断ってはいけない
 苦しさを乗り越え
 何としてでも生き抜くんだ
 絶対に私についてきてはいけない
 頼んだぞ

 父より

 僕の目からは、いつの間にか涙が零れていた。涙を流しながら、父の遺書について考えた。

 物事の終わりはいつ決めるべきなのか。自分でタイミングを決めるのには、勇気がいる。しかし、大抵の場合、終わりは突然やってくる。とは言っても。終わりを迎えたその時には、全力を尽くし満足しているから、もうこの世に未練は無い。

 時は流れ、道は続き、現在に至る。父の遺書を見て、泣き崩れながらもここに来た。僕は、父の遺書を「未練を残したまま死ぬな」と解釈した。
 今の僕には、未練も何も無い。もう此世には、何も無い。そう思いながら、ビルのフェンスを越える。そして僕は…身を投げた。
 重力に従って、体が地面に近づいて行く。常人なら、きっと「怖い、死にたくない」と考えるだろう。しかし、僕は違った。僕は、気を楽にしながら宙に身を任せた。
 もう此処で生きる意味も無くなった。今行くよ…父さん、母さん。これが後追いだってことは、分かってる。しかし、父さんと母さんの二人がいない世界なんて、耐えられない。
 親不孝の息子で…ごめんね。
 父さんの意思を無視してごめんね。母さん…待たせてごめんね。
 これが…最後の我儘だよ。そうして、僕の意識は消えていくのだった。
 父さん……。母さん……。今、行くよ。
 願わくば、天でも幸せな家庭を築けますように…。
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