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閑話 囚われの女神

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 ▪️囚われの翼

「……ん」
「おや、やっと起きたんだね。待ちくたびれたよう」
「貴女は……なッ!?」

 動けない。
 なぜ? 実体を持たない身体の筈。女神は身動きひとつ取れず困惑するしかなかった。

「おはよう女神ちゃん、目覚めた気分はどうだい?」

 ウサギを模したフードを被った少女は悪戯げな笑みを浮かべる。辺りは闇に包まれており、左右はおろか上下の間隔すら無いに等しい。

「…………」
「意外と冷静だね、つまんなーい」

 唇を尖らせるメアの表情はぼんやりと暗闇に揺れるが、女神は自らの状況を理解しようと必死だった。
 しかしそんな彼女を嘲笑うかの様に、メアはフードの耳を揺らしながら奇妙なステップを刻んで踊り出した。

「いやーギリギリの演出だったでしょ? 途中メアの想定外な展開があったけど、君が大切にしていた勇者クンは見事に覚醒を果たしたとさ。おっめでとーパチパチ!」
「楓矢さんが!?」
「おっと、そう言えば気を失ったままだったね、じゃあ教えてあげる、柳条楓矢クンは勇者ランク30に到達し、聖剣と聖衣の能力を解放して魔神を倒しましたんだよ」
「……まさか、そんな急激な上昇は有り得ないはず」

 驚きを露わにする女神を他所にメアは続けた。

「テンポいいよねホント。サクサクっと一人前になっていくのを見るのは嬉しいでしょ?」
「まさか……貴女が介入しているのですか!? そもそも貴女は何者ーーーー」
「んもう人が喋ってるじゃん、鬱陶しいなあ」

 パチンと指を鳴らす。

「うッ……あああぁあああ!?」

 黒いヘドロの様な液体が女神の身体に纏わりつく。液体は綺麗に人の形を避けながら垂れ落ち、やがて闇に溶け込んでいく。

「あは、やっぱその身体でも効くんだね。神サマの眷属なら当然といえば当然か」
「……か、神様?」
「確かキミ、神の使徒なのに知らないんだっけ? 本能的に刻まれた勇者を補佐する為に創られ、使命を果たして消えるの存在なんだよね」
「……何者なのです、貴女は」
「うーん、簡単に言っちゃえば悪夢に愛された混沌を望むモノ? いやいやダサいね厨二かよ、あはは!」

 鈴を転がした様に笑うメアだが、ピタリと静止して腕を伸ばした。

「うぐッ!?」
「ほらほら、女神チャンも笑いなよ」
「……か、はッ」

 実体の無いの女神の首を片手で締め上げる。
 喉らしき部分に真っ直ぐ親指を置き、ギリギリと力を込めていった。

「ほらほら、まだ少し沈みそうだよ?」
「うッ……か、ヒュ……あぁッ!?」
「ありゃ、ゴメンやり過ぎた。メアは女神チャンと喧嘩したくって会いに来たんじゃないんだよね」

 ズシャリと音が闇に響く。
 一瞬で言葉を発せなくなった女神は痛みという概念に初めて触れたのだ。神の御使として存在している以上、痛みは一番遠い感覚だろう。

「さてと、そろそろ本題に入ろうかな」

 ゆっくりと女神に歩み寄り、頬らしき部分に付着した黒い液体を指で掬い取る。メアはそれをひとしきり眺めたのち、口を開け、やがて舌の上に乗せた。

「あっは、すっごく濃いなあ。この世界もメアが思っている以上に可笑しくて大好きだよ」
「う、うう……」
「せっかくだから女神チャンにも仕事をあげるね♪ 一緒に愉しもうよ」

 妖艶な笑みを浮かべるメアの表情だけが瞼の裏に焼きついた女神は、己の身体の自由が無くなっていくのを感じながら、プツリと意識が途絶えたのだった。
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