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別れ

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 ▪️また会う日まで

「ウチの馬鹿が色々と迷惑をかけたな」
「いや、気にするな」

 片付けを済ませたガルドは荷物を肩に掛け立ち上がる。遠くで遊んでいるエドナと莉緒を見据えながら、微笑ましい光景に目を細めた。
 食事を経て、莉緒が抱える闇の片鱗が明らかとなった。孤独と餓死。二つの要因が莉緒を異世界へと飛ばす原因となったのだろう。
 食事をして涙を流す様子から、莉緒はこの世界で初めて生きる実感を噛み締めたのだった。
 辛い過去を忘れる事は出来ないだろうが、上書きを続ける事で霞ませる事は可能だろう。どれだけ時間が掛かるかは分からないが、オルクスはそれを自らの使命にも感じていた。

「莉緒の事は今後どうするつもりだ?」
「……俺なりに慎重に考えるつもりだ。あの魔王の力がどう影響を及ぼすか、現時点で誰にも分からないだろうからな」
「いざとなったらお前が責任取れよ」
「ロッド」
「なンだよガルド、事実だろ」

 ロッドの言う責任とは文字通り、莉緒が暴走した場合の処遇を意味する。今回は事なきを得たが、次はどうなるか分からない。
 万が一、他人に危害が及ぶ様な事になればーーーーそこまで考え、オルクスは首を横に振った。そうならない為に、莉緒の魔王の能力についてもっと深く知るべきだと。

「しかしオルクス、莉緒とは本当に面識は無いんだな? 先の会話の端々で莉緒の事を見知っている風に聞こえたのだが……」
「いや、それが俺にもよく分からないんだ。自分で言っておいて何だが……」
「ふむ、ならこれ以上の詮索はよそう」
「行くか?」
「ああ」
「これからどうするんだ? 王都に向かうのか?」
「もう興味ねえ」

 ロッドはオルトロスで自らの肩を叩きながら笑い飛ばした。

「お前みたいなヤベェ奴は世界中にわんさか居やがる筈だ。片っ端から喧嘩売るってのも悪くねえ!」
「……本気なのか?」
「はあ……俺達の公認ギルドの道は険しいらしい」
「なーに言ってんだ、愉しんだモン勝ちだろ相棒?」
「……好きにしろ」

 ロッドはガルドの肩に腕を回した。
 信頼し合える仲間らしい仕草に、オルクスは内心、羨ましさに似た感情を抱く。しかしそれを気取られぬ様、乾いた笑いを浮かべて見せた。

「エドナー! そろそろ出発すんぞー?」

 叫び声に気付いたエドナはあからさまに嫌な表情を浮かべると、名残惜しそうに莉緒に頬擦りしながら歩み寄る。

「あーあ、莉緒ちゃんと別れるの寂しいわねー」
「……エドナ、ちかい」
「んー、莉緒ちゃん成分補給~」
「お前ほんと小さいメスガキ好きだよな」
「莉緒ちゃんをメスガキ言うな馬鹿ロッド。この可愛さは反則でしょ~」

 食事を終えてやや血色の良くなった莉緒。
 水場で身体を洗って服を纏えば、魔王化の影響はすっかり消え失せ、あっという間にエドナ好みの美少女が出来上がったとの事だ。

「ねえ、やっぱり私達と一緒に行かない?」
「……え? いや、その」
「やめとけエドナ。俺は子守りなんかしねえぞ」
「は? 子守りなら既にしてるでしょ。身体だけ馬鹿デカい馬鹿みたいな馬鹿の」
「何回バカって言うんだテメェ」
「バカ馬鹿ばーか」
「……賑やかだな」
「五月蝿いだけだ」

 結局、別れる寸前まで騒ぎ散らかしたケーニッヒオーダーの面々。
 オルクスも疲労感を感じつつも、どこか憎めないロッド達に感謝していた。結果的に莉緒の暴走を止め、後処理を滞りなく行えたのはケーニッヒオーダーの協力有ってこそだ。
 旅をしているのならいつかまた相見える事もあるだろう。

「またな」
「ああ、アルシアの近くに来たらギルドに寄ってくれ。料理くらいなら振る舞わせてもらおう」
「もちろんタダだよな?」
「ケーニッヒオーダーが公認ギルドになっていたらな」
「けッ、言うじゃねえの」

 それだけ言い交わしロッド達は去って行った。
 後ろ姿を莉緒と見届けるオルクスだが、やや不安げな表情のままの莉緒に、なるべく優しく声を掛けた。

「ウチのギルドに戻ろう。お前の家になる場所だ」
「……いいの?」
「ああ、俺が何とかする」

 やはりこの表情を何処かで見た事がある。
 それがいつ、どこでなのかは分からないが、消え行きそうな炎の様な莉緒の顔は胸騒ぎを覚えてしまう。
 見ず知らずの場所で謎の力に翻弄されるのはさぞ不安だろう。
 どこまで出来るか分からないが、莉緒が人間らしく生活できる基盤作りがオルクスの一番の目標になった。

「さあ、帰ろう」
「う、ん」

 魔王はひとりの少女として、また少女は魔王として、運命の中で踊る事を強いられるのだった。
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