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強奪
しおりを挟む▪️日々鍛錬
ジズ平原を目指す中で出会った女剣士リアン・ハルベルト。王都ディノルに向かうという彼女だが、右葉曲折あり楓矢に同行する形となった。
まず目指すべきは当初の目的であるジズ平原。グランライノセスをソロで倒すと意気込む楓矢だが、あまりの実力の乖離に対し、リアンは冷ややかな視線を送りながら干し肉を齧っていた。
「おい楓矢、それはもちろんミリアのサポート有りの話だろうな?」
「あン? そんなワケねえだろう」
「…………」
ゴクリと干し肉を飲み下して視線を流す。無言で頷くミリアを見て、リアンは大きなため息を吐いた。
「無理だ」
「おま……否定的な意見からは何も生まれねえぞ!」
「もっともらしい事を言う前に、もう少し自分の実力を知る事だな」
齧りかけの干し肉を楓矢の目の前に突き出し言い放つ。そのあまりの速さに思わず足が引けてしまった。
「あぶねぇな!」
「はっきり言ってお前の実力はそこらの駆け出しレベルだ。気持ちだけが先走って得られるモノなど有りはしない」
「なんだと!」
「はあ……ジズ平原まであと半日といったところか。あまり時間が無いから、早速特訓を開始してやろう」
「ん?」
リアンは荷物から一本の剣を取り出した。
脇差しと同じくらいで、剣と呼ぶには物足りない長さだろう。
「その大層な聖剣を振いたいならまずは基礎を学べ。これを貸してやるから、私の真似をしてみろ」
リアンは自分の脇差しを抜き、相変わらずの軽い身のこなしでヒラリと舞った。楓矢にも放り投げると、しなやかな腕を振り抜き、無駄のない素振りを見せつける。
「基本的な構えと素振り、この二つを死ぬ気で覚えろ」
「こんなヒョロい剣で大丈夫なのかよ」
「無論、グランライノセスもコレで倒してもらうが?」
「!? おいおい、ふざけんな聖剣使わせろ!」
「ふざけているのはお前だ。その聖剣を使うメリットはなんだ? 何か特殊な能力でも備わっているのか?」
「いや、それは……まだ何も」
「だったら尚更だ。身の丈に合わない剣で勝てる相手じゃない。僅かな時間だが、私が直々に骨身に沁みるまで叩き込んでやる」
「お、おう。じゃあ聖剣はここにーーーー」
地面に聖剣を置こうとした刹那、何かが楓矢の手元を掠めた。慌てて掴もうとしたが時既に遅く、そこにある筈の聖剣は跡形もなく姿を消していた。
「なッ!?」
「楓矢、あれ!」
声と同時に舞うのは鳥類の羽。上空に飛来したのは大型の鳥型の魔物【スナイプガルダ】である。
空から獲物を捕らえる為に襲ってくる事で有名だが、スナイプガルダは攻撃を加える訳でも無く、的確に楓矢の持つ聖剣を狙って襲撃してきた。
「ちッ、貫け【ライトニング】!」
紫電が瞬きスナイプガルダを撃ち落とそうとする。しかし、スナイプガルダはその一撃を背後も見ずに躱して見せた。
驚きを露わにするリアン。一介の魔物に躱せる訳があるか! 二発、三発とライトニングを放つが、それらは虚しく空に瞬くのみ。
「……お、俺の聖剣」
ガクリと膝を落とし、顔面を蒼白にする楓矢。
僅か数秒の出来事だった。
◆
「あはは、楽勝だったね」
上空でポンと姿を変えたスナイプガルダ。
全身を黒のパーカーで身を包んだ少女は聖剣に頬擦りしながら、翼を無くしたにも関わらず自由に空を舞う。
「ねえ神サマこれどうするの? わざわざあげたのに回収する理由がわかんないよ」
そう問いかけながら少女ーーーーメアは尚も聖剣を振り回しながら遊んだ。
すると、どこからとも無く光が降り注ぎ、やがて細長い線を構築する。
「あっ!」
メアから聖剣を取り上げると光は天へと還った。
あまりにアッサリとした神の所業にメアはムッとするが、空中で胡座をかいたままクルクルと回りつつ「神サマのアホ! もう次の仕事行くからね!」と姿を消した。
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