27 / 56
閑話 勇者の旅立ち
しおりを挟む▪️新たな依頼
「魔神討伐ぅ?」
「ええ、王都では討伐隊が組まれるとか話題になっているわ」
「ふうん」
そんなロロアの言葉に、楓矢はカウンターでミルクを飲みながら耳を傾けていた。
魔王が降臨した影響により魔物の活性が高まっているのは周知の事実だが、同時に話題を集めているのは魔神の存在である。
高い能力と知力を持ち、更には人語を操るとも言われる。いずれにせよ一介の魔物を遥かに凌駕する存在は人間にとって脅威でしかない。
王都は選りすぐりの冒険者に加え、自国の騎士団すらも総員して魔神討伐隊を結成しようと動きを見せている。
「まあウチは専属の冒険者がオルクスとミリアちゃんだけだし、今の状況じゃ無理よねって断ったわ。噂じゃとんでもない手練れも参加が確定しているって言うし」
「魔神ねぇ……因みにそれってどんくらいの強さなんだ?」
「どれくらいってそんなの誰にも分からないわよ。降臨したのは百年も昔で、残された文献には勇者が倒したって書いてあるだけだもの」
「は? じゃあ詳しくは書いてないってこと?」
「そうなの。魔王については沢山書かれているんだけどね」
「え、ちょっと待って、勇者が倒したって事は俺が倒さないとダメなの?」
「いやあ……楓矢くんにはまだ、ねえ?」
横目でミリアに視線を移す。
視線が合うと、紅茶を飲んでいたミリアは苦笑した。
楓矢は現在【勇者ランク10】である。街の近隣の魔物を倒し続けて数週間が経過したが、順調にランクが上がったのは10までだ。
魔物を倒して経験を積んだというより、街の人の役に立ったという事実が影響したのだろうとミリアは推測していた。他の職業と同じく、関わりが深い事柄が影響するのは間違いないだろう。
勇者の役割は救世。つまり人を救う行為がランクに影響を与えるのだ。
しかし、どれだけランクが上がれば魔神や魔王と渡り合えるのかは不明である。過去の文献には詳細が残されておらず、痒い所に手が届かない状況に歯痒さを覚えた。
「じゃあつまり、王都の人間は勇者である俺が不甲斐ないから自分達で何とかしようって訳なの?」
「うーん、取り繕っても仕方がないから言っちゃうとそうなるわね。でもこの世界の都合で君を連れてこられたんだから気に負う必要ないわ、毎日頑張って鍛錬してるんだし」
「ぐ……ロロアさんて割とズバッと言うね」
「こういう性格なのよ」
「ミリアちゃーん、俺どうすりゃいいの?」
「どうって……困ったね」
戦いに慣れたといってもまだ強敵とは渡り合えない。あくまで駆け出し冒険者が倒せる弱い魔物までだ。
冒険者として生きてきたミリアは“その辺り”の経験値が違う。これまでは冷静に楓矢の実力を判断し、無理のないランクの魔物とだけ戦闘を許可している。直接手は出さないが近くで見守り、戦闘が終われば回復を欠かさない。
(まあ……これだとオルクスには過保護だって言われちゃうよね)
勇者という存在が稀有な分、共にパーティを組むミリアは慎重にならざるを得ないのも事実だ。楓矢の実力を的確に見定め、適切な魔物と戦って経験を積ませる。
石橋を叩いて渡る様な方法だ。
ミリアの考えは確実ではあるが、刹那的な状況から得るべき経験は乏しくなるだろう。
生き死にの瀬戸際にいる冒険者達と比較すれば、その速度が遅くなってしまうのは仕方がない。
「王都だったっけ。それって馬車ならどのくらいかかる?」
「え、ちょっと楓矢くん?」
「俺ちょっと行くわ王都」
「ふぇッ!? 勇者くん冗談でしょ!」
「いやいやガチガチ。だって俺のせいで迷惑掛けてんなら挨拶くらいしとこうってさ」
「……変なところ律儀よね楓矢くん」
ロロアはカウンターの裏からスクロールを取り出す。そこには大きくグレイセリアの大陸が描かれており、その南方にこの街ーーーーアルシアが小さく記されていた。
「ええと……アルシアからだと、道なりに進んでジズ平原を越えなければならないわね。ジズ平原といえば強い魔物も多いわ」
ジズ平原は基本的には行商の動線であるが、通常は冒険者を雇って越える場所だ。最低でもBランク程の実力が要求されるが、その所以はジズ平原に生息する【グランライノセス】という一角獣にある。
グランライノセスはダイアに匹敵する高度の角を持ち、身体を覆う表皮は分厚く鋼そのもの。しかも性格が獰猛というオマケ付きだ。
「マジかよ、きついな」
「何言ってんの、ミリアちゃん居るなら大丈夫でしょ」
「へ?」
「グランライノセスね。うん大丈夫だよ」
「いやいや、ダイアみたいな角がーとか、硬い皮がーとか言ってたよね?」
「魔法でズドンだから」
「ズ……ズドンて」
「魔術師みたいに色んな魔法は使えないけど、僧侶職(ヒーラー)も光属性の魔法が使えるから」
「楓矢くん、ミリアちゃんがSランク冒険者だって忘れてない?」
「いやまあ、そうだけど」
Sランク、冒険者の頂点に君臨する存在。
チート能力を持っていた時にオルクスと剣を交えたが、あれはチートありきの実力差だった。
今の楓矢の実力ではオルクスに剣先すら触れる事は叶わないだろう。
「……決めたぜミリアちゃん」
「ん?」
「王都に行く前に、俺はひとりでグランライノセスをぶっ倒す!」
「え、えええ無理だよ無理むり!」
「……や、そこまで否定すんなよ傷付くわ」
聖剣を手に取りスルリと抜くと、煌びやかに輝く刀身に自らの顔を写した。
「魔物に勝てなきゃ、魔神や魔王にも勝てねえよな!」
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる