上 下
20 / 56

協力者

しおりを挟む
 
 ▪️影の存在

「……ここか」

 オルクスは単身、ソラスの部屋の前に来ていた。
 部屋自体には既に魔法結界の名残もないらしい。色々と損傷はあるらしく、テノスの指示で取り急ぎ復旧の運びとなった。
 渦中のソラスも今は別室で寝ており、部屋には誰も居ない状況となっている。もぬけの殻となった場所であるが、オルクスはこの部屋に用があって足を運んだのだ。

『この屋敷の最後の噂だが、俺の元に来た情報とペトラの話を合わせて考えれば恐らくーーーー“魔物”はソラス嬢の部屋か、本人のどちらかに潜伏していると考えて間違い無いだろう』

 グラウが明かしたラングウェイ家の秘密。
 初めは極めて信憑性が少ない情報だったが、グラウはそれを確かなものにすべく、屋敷に来た際に別働隊を使用人として放っていた。
 そして先程、メイドとして忍ばせていたメンバーから報告が上がったという。

 なんでも、それは一切の反応を見せずに対象に寄生し、生体エネルギーを吸い取る魔物だという。対象は無機質、有機物を問わない。どこにでも何にでも寄生できる存在との事だ。
 俄(にわか)には信じられない話だ、長い冒険者生活でも耳にした事がない。
 グラウの情報網がどれ程かは知らないが、己の目で確認するまでは信じないと言うオルクスに対し、グラウはそのギルドメンバーと同行するように指示を出してきたのだ。

 待ち合わせは部屋の前だが姿は無い。
 怖気付いたのかと鼻で笑っていると、いきなり背中を叩かれ、即座に警戒態勢を取った。

「ッ!?」
「初めまして、貴方がマスターの言ってた悪人ヅラですか」
「なッ、誰が悪人ーーーーお前、その耳……!」

 殺気も気配も無く、無抵抗のまま後ろを取られた。常に警戒心を絶やさないオルクスだったが、今のはどう考えても反応がそもそも間に合っていない。
 焦りを見せるオルクスに対して、背中を叩いた張本人は長い耳を揺らして悪戯げに笑ってみせた。

「ふふん、これで身に染みたでしょう? 情報もそうだけど気配を完全に消す方法なんて沢山あるの。もっとも、人間の常識の範疇では異様に見えるかもだけれどーーーー」

 褐色の肌、淡い金髪。
 翡翠の様な瞳をした少女は、メイドの格好でオルクスの背後に立っていた。

<i674608|23845>

「エルフ……なのか?」
「ぶっぶー、私はハーフエルフですう。まあ、今では大陸中探したってどっちも珍しいと思うけどね」

 エルフとは人間に酷似した種族であり、分類的には魔族だ。人間に害を出さないものとして認識されており、知能も高く、人語を理解している。
 一部では生活を共にしたりもするが、大多数の街では人間の奴隷として扱われ、迫害の対象ともなっていた。

「言っとくけど私はグラウ君の性奴隷とかじゃあ無いよ。あの子は奥さん一筋だからね」
「いや、そこまで聞いてないぞ。と言うか……グラウ“君”?」
「うん、グラウ君」
「……まあ、それはどうでもいいか」
「ふうん、私を見てもそのリアクションか」
「何がだ?」
「血で言えば半分だけど、魔族だよ私?」
「別に大した事じゃないさ」
「ん?」
「昔、とあるハーフエルフに世話になったんだ。だからその……驚きはしたが他意はない」
「なるほど」

 ハーフエルフの少女は笑みを浮かべると、メイド服のスカートをたくし上げて、カーテシーをしながら頭を下げた。

「ギルド・ハーメルン所属、リリーナ・ルッツ・クルェイだよ。名前が長いのはエルフだから許してね。リリーナでいいから」
「オルクス・フェルゼンだ」
「じゃあオルクス君、短い間だけどよろしくね」
「待て、お前は諜報員なんだろう? もし魔物との戦闘にでもなればーーーー」
「ふふん、心配しなさんな。ハーメルンのギルドメンバーは曲者揃いで有名なんだよ」

 リリーナは目の前で指をスライドさせるーーーー現れたのはスキルボードだ。
 通常、エルフは純血の魔族なのでスキルボードは扱えないが、ハーフエルフともなれば話が別だ。会得できる技に僅かに違いは有るのだが、殆ど遜色無く体得できると聞く。
 その証拠に、リリーナのスキルボードには『魔術師ランク38』と『僧侶ランク22』、加えて『盗賊ランク31』と刻まれている。
 複数の職業を扱う事は可能とされているが、様々なものに手を出すとどこかが疎かになってしまう。
 ひとつの職業を極めるのが一般的と言えるだろう。

「ソラス嬢ほどじゃないけど魔法はお手のものだよ。伊達に長く生きてないからね」
「……ちなみに何歳なんだ?」
「レディに歳を聞くのはNGだよ?」
(じゃあ何故に自慢気に話したんだ)
「さてと!」

 リリーナはオルクスの話も半分にメイド服をバサリと脱ぎ捨てた。
 初めから内側に着ていたらしく、随分と動きやすい格好となったが、ペトラに似ている所を見るとこれがハーメルンのギルド衣装なのかも知らない。
 チューブトップに包まれた豊かな胸を揺らしつつポーズを取る。ハーフエルフ特有の童顔のせいか違和感を拭えずにいた。

「ん? これでもサラシ巻いてるからね。ペトラちゃんと違ってグラマラスだから私」
「だから聞いてない」
「目線がヤラシイんだよね。あ、目付きが悪いからか」
「…………」

 ハーメルンの連中は例外なく“相手をするのが疲れる”。オルクスの中で認識が固まったところで、リリーナは腕を回しながら部屋に向き直った。

「さてと、やりますか」
「待て、お前は魔法が使えると言っていたが、相手は魔法でも感知出来ないんだろう? だったらどうやって見つける」
「どうやってって、私は“ハーフエルフ”なんだよ?」
「む?」
「まさかハーフエルフの知り合いが居たのに知らないの?」
「……あ、ああ。その人は剣士だったからな」
「へえ、珍しいね。それじゃあちょっと待っててねー……」

 リリーナは部屋の前で意識を集中させた。
 両手を胸の前で合わせると、大きく息を吸ってーーーー吐く。
 その動作を二、三度繰り返すと、リリーナの身体の表層が淡く光を帯びた。

「なんだそれは?」
「これは大体のエルフに備わっている感知能力だよ。他にも心を読んだり出来るって聞いた事ない?」
「……あまり把握してないな」
「勉強不足だねオルクス君。ちなみに君の考えている事は全部見えてたよ」
「!?」
「はいお終い。さてさて、面倒だねこれは」

 光が霧散するや、リリーナは二つ隣の部屋ーーーーソラスが一時的に眠っている部屋に視線を結んだ。

「……例の魔物、ソラス嬢本人に寄生してるね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました

陽好
ファンタジー
 ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。  東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。  青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。  彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。  彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。  無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。  火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。  そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。  瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。  力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

処理中です...