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暁のクオリア
しおりを挟む▪️いつもの風景
目が覚めると、いつも同じ風景が視界に飛び込んでくる。
彼女はいつも通り、朝早くから決まって窓際に座り無機質な表情のまま分厚い小説に落とし込んでいる。
彼女が一ページに掛ける時間はおよそ一分足らず。それはどのページ、どのシーンであっても変わる事は無い。
楽しい物語、悲しい物語、恋愛の物語。
毎日読むジャンルは違えど、彼女ーーーークオリアは決まって機械的な動きで文字の世界に没頭していた。
「……おはよう、今日も早いね」
青年の言葉にクオリアは薄い茶髪を揺らして顔を上げた。返事は無く、色白の肌は朝日に照らされている。
小さく頷いたかと思うと、クオリアは無言のままその琥珀掛かった瞳を再び本に落とし込み、読みかけの文字を追い始めた。
「……さてと」
青年はシーツに包まったまま、ベッド脇に手を伸ばして眼鏡を掴むと、寝ぼけ眼を擦りながらそれをかけた。
微睡の中でゆっくりと意識が鮮明になるまでの僅かな時間。これは彼にとって至福とも呼べる時間だった。
青年の名はアウス・トルヴィオ。
肌寒さの残る部屋の中、シーツに包まりクオリアの読書を眺めるところから彼の一日は始まる。
「………」
「ん? どうしたクー」
クーとはクオリアの愛称だ。そのまま呼ぶと堅苦しいとアウスが呼び始めたのがきっかけだった。
その問いかけに対し、クオリアは残り少なくなった小説を訝しげに眺めてからポツリと溢した。
「……新しい、本が欲しい」
「そっか、天気も良いし出かけるかい?」
クオリアは小さく頷くと、小説を閉じて埃っぽい棚に戻した。
この宿屋には後二日は滞在する予定だ。その間にクオリアはまだまだ読書をするだろう。
(相変わらず早いペースだよなぁ)
この宿泊期間中に本は五冊も増えた。だがクオリアの読書熱は冷める事は無い。
アウスの各地を周り『魔導式機械人形(マギアドール)』達を整備する生活は一年を経過しようとしていたが、長い様であっという間の時間だった。
一年間といえばクオリアと出会ったーーーーというより、クオリアが目覚めた時期とも重なる。
かつてアウスの家が全焼し、焼け残った家屋の中でポツリと転がっていた『素体(ドール)』と『偽魂(コア)』によって生まれたクオリア。彼女はアウスが家族を思い出す唯一の存在だった。
(おっと、物思いに耽っている場合じゃないね。クーも本が欲しくてソワソワしているし)
視線を向けるとクオリアは真っ直ぐにアウスを見据えている。一見無機質な表情にも見えるが、アウスにはその些細な差が理解できた。
「よし、じゃあ出掛けようか」
「……うん」
偽りの魂、そしてそれを宿した魔道機械人形。
アウスは人ならざる彼女の頭に手を置くと、眩しく降り注ぐ朝日に目を細めた。
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