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転校生

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転校生は連休が明けると学校中でまたたく間に有名になった。
克也の番で国内で唯一須藤財閥に対等に渡り合える及川グループの次男、Ωの中でも最高位のΩ。
克也とこれ以上にお似合いな人はいないだろう。

週末は克也の部屋に泊まっていたみたいだし、もう本当に自分はいらないのだろう。
裕也と由衣とでは何もかもが違う、素直に羨ましいと思う。

「あっ!!いたっ!!!」
ザワザワしていた教室が噂の転校生の出現で一瞬で静かになった。

「裕也くんっ!!!!!」
何の用だろう、と他人事のように見ていると急に名前を呼ばれ、教室だけでなく廊下にいた生徒までもが裕也を見る。
Ωがバレた時以上に目立っている、最悪だ。

「会いたかったよーー!克也に聞いたらこのクラスだって言うから会いにきたんだ!!」
「……、ちょっと場所変えない?」
視線の量が凄すぎる、こんな中で話すなんて無理だ。まとわりつく視線の中を歩く。

「ここ?」
「うん、ここが一番人居ないからね」
由衣を連れてきたのは旧図書室だ、最近毎日来ていたから久しぶりに感じる。

「それで?どうしたの?」
「え?何もないよ、仲良くなりたくて!」
「………あぁ、うん」
由衣はいい子なんだろう、けどこんな目立つ子と一緒にいるなんて裕也には絶対無理だ。

「僕と友達になるのは嫌?」
「そうじゃない、目立つのが嫌なだけ」
「そうなの?僕目立ってる、よね?」
「あぁ、今この学校で一番目立っていると思う」
「そっかー、じゃあこうやって二人で会うのは?」

そんなに自分と仲良くしようとする由衣が分からない。
由衣は悪い奴じゃないと思うもやはり自分に誰かを受け入れる勇気はない。
かといって友達になれませんなんて本人に向かって言えるはずもない。

「たまになら」
そして克也のように自分に興味を失ってほしい。

「じゃあ、連絡先交換しよう!!」
「あ、うん。じゃあ、もう行く」
「うん!また連絡するね!!!」


「…はぁ…」
教室に戻ると質問攻めにされた。
由衣が迷っていたところを助けただけだというと腑に落ちなそうな顔もしつつ納得したのか離れていった。

入学して半年間、静かに暮らせていたのに克也と出会ってからすごく騒がしくなった。

廊下がザワザワするので目を向けると克也がいて隣にいる由衣と何か話している。
由衣が何か言ったのか克也がいつもの貼り付けたような笑みじゃなく愛しくて仕方が無いみたいな風に優しい目で由衣を見ながら緩く笑う。

(見たくない、須藤の隣にいるのは自分のはずなのに、嫌だ。)

自分が考えてしまったことにびっくりしてハッとすると克也が裕也を真っ直ぐに見ていた。
自分が考えていた事がすべて克也に知られてしまったように感じで慌てて目をそらす。

こんなこと考えたくない。
認めたくなかった。誰かに裏切られてしまうのはつらい。
それが大切な人になればなるほど受けてしまう傷は大きくなる。

必死に否定し続けた気持ちをこんな風に自覚させられてしまうなんて。

今更自覚したところで克也には番となるΩがそばにいるし、どうにもなれなくて悲しいがどこか嬉しくも感じた。
自分はもう二度と誰の事も信用も出来ず好意を持てることなんてないと思っていた。

これから先、克也以外を好きになることは無いだろうけどこの気持ちは消さずにずっと持っていたい。

今まで克也への気持ちに運命だからだと誤魔化していたけどいつの間にかそんな誤魔化しも通用しないくらい自分の中に克也が大きくなっていたらしい。
割と呆気なく克也を好きになってしまった自分に苦笑いが漏れる。

克也がどういうつもりで裕也と過ごしていたのかは分からない、暇つぶしだったとは思う。でもこの短期間に三度も裕也を助けてくれたし大切にしてもらっていた。


克也への気持ちを認めたことでここ最近グルグルと頭の中を支配していたことがスッキリした。

問題は由衣に対して抱いてしまう強烈な嫉妬。頭ではわかっているのに心が言う事をきかない、これから先この感情に折り合いをつけて行かなきゃならない。

しんどい四ヶ月になりそうだ。
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