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しおりを挟む「クソっ」
優一の姿が見えなくなってしまうと怒りの感情が沸々と湧いてきた。
いまだに奏多の腕に絡みついている和泉を乱暴に突き放して掴まれていたところを汚いものを払うように叩く。
「なんでお前がここにいんの?」
奏多のその目は先ほど優一に向けていた目からはかけ離れており、温度がない。
その目に気押されたように和泉は言葉を詰まらせる。
「……だって、ここに来たら会えるって聞いたんだもん!!」
泣きそうな目で奏多を見上げて乱暴に扱われたショックを表したが奏多は嫌そうに顔を歪めただけだった。
知らない。こんな奏多、和泉は見たことない。
甘い言葉でいつだって自分が望むことを優しく囁いてくれていたのに。
あいつのせいだ。せっかく引き離せたと思っていたのにどうして!
苛立ちから奏多の前ということも忘れ、優一が去っていった方を強く睨んだ。
「はぁ、最悪だ」
憎しみをこめて暗闇を睨め付ける和泉をみて奏多は大きくため息をついた。
全部片付けたつもりだったのに自分が甘かったようだ。
「権力も金もない俺にもう興味ないだろ?他のやつ探せよ。お前にお似合いなαはあそこには山ほどいるだろ」
家柄と金と顔とαとしての位を求めるΩと少しでもいい位のαを産ませるために家柄と容色に恵まれたΩを求めるα。
腐った世界。
〝お見合い〟という名の強制的にΩを発情させて行う乱行に吐き気と頭痛がしていた。
そこからやっと抜け出したのに何故まだ邪魔をするのか。
奏多の豹変ぶりに呆気にとらわれる和泉に構っている暇はないが自分から興味を失わせなければ優一に何かするに決まっている。
「まだ無くなってなんかない!!お義父様が言ってたよ。大丈夫だって。もうすぐ立て直せるから奏多を迎えに行ってくれって頼まれたんだ」
だから、和泉にとって奏多の価値がまだあると言いたいのだろうか。
「ククッ、立て直せるだと?まさかこれで終わりだと思ってんのか?あのジジィも老いぼれたな」
お義父様なんて呼び方をしていることにゾッとするがこの二人の楽観的な様子で少し安心した。
バレてない。
「ジジィ、だなんて!お義父様になんてこと言うんだ!!ね、帰ろう?そしたら何もかも無かったことにしてまた僕と過ごせばいいじゃない」
自分に都合のいい現実だけを信じたいのは奏多にもわかる。
ただ和泉は自身に傷一つつけず電話一本で気に入らないやつを残忍なほどに痛めつける。
最悪なことに和泉には金があり、人を動かし自分の都合よく作り上げることが出来てしまう。
奏多が触れたΩたちの中には今でも目を覚ますことのできないものもいるらしい。
奏多は和泉がそうすることをわかっていた。
奏多の望む事のために。優一を傷つけられないように他の人を意識不明の重体にしても平気なのだから自分も和泉とそう変わらないだろう。
優一には絶対に知られたくない。
だから、どうにか近づけないようにやってきた。
「どうしようか」
このまま和泉だけを帰して奏多が優一の側にいれば必ず、優一にあの手この手で仕掛けてくるだろう。
今のように優一に距離を取られた状態で和泉から守ってやれるだろうか。
地獄みたいな空間に戻されることを思えばここで優一の近くにいて守ってやった方がいいのではないか。
でも。
「分かった。帰ってやるよ」
奏多がなにより大切なのは優一だ。
優一には正樹をつけているし自分が嫌な思いをするからと逃げて優一を危険に晒すわけにはいかない。
やはり徹底的に終わらせてからでないと優一に会いに来るべきでは無かった。
分かっていたのに。
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今日初めてこの作品を知りました!
続きが待ち遠しいです!
優一くん、幸せになって欲しい‥
だけど、奏多は推せない。
色々とひどすぎる気がする‥
奏多がやって来たこと優一くんが知ったら大激怒しそう。
色々と読んでて心臓が痛い..! すれ違ってる2人だけど、2人にとっての幸せになって欲しいな。更新楽しみに待ってます。