婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

文字の大きさ
上 下
31 / 34
4

7

しおりを挟む


優一が出ていった玄関を見て残された二人は顔を見合わせた。
「嫌われてますね…」
呆れたように、そして面白がっている正樹の足を軽く蹴る。

「うるせー」
優一の態度にいちいちしょげてはいられない。
奏多に傷つく資格はない。
今までの奏多のことを思えば優一の方が傷ついている。

「言っちゃえばいいのに。全部、お前を守る為なんだって」
「言えるわけないだろ」
それを言ってしまえば全てを話さないといけなくなる。

自分のせいで、と思い込みやすい優一が更に悲しむことになるだけだ。
それに優一には知られたくないことも山ほどある。

「えー、でも言わないと嫌われたまますよ」
「クソっ、あれもこれも全部あのクソ親父のせいだ。はー本当、早く死んでくれないかな」
そう奏多がこぼすと今までニヤニヤと笑っていた正樹の目が厳しくなった。

「こんなもんで死んでもらったら困りますよ。もっと苦しんでもらわないと、ね」
そうでなくては、奏多についた意味がない。

「そうだな」
正樹は奏多に仕えるような形だが忠誠心なんてものはないだろう。

奏多は正樹ほどの恨み父親に対してない。
ただ自分の前からいなくなって欲しいだけだ。
奏多にとって強い感情を持てるのは優一、ただ一人だけ。

優一に手出し出来ないように破滅させたい奏多と死ぬよりも苦しんでほしい正樹の目的が一致したから手を組んでいる。

奏多と優一が同い年ならば二人で逃げよう、と言えただろう。
金はあるし海外まで行けば親父の力も及ばない。
しなかったのは優一が誘拐犯になってしまう可能性があったからだ。
親父なら話を作ってでも優一を犯罪者にしたてあげたはずだ。

成人年齢が二十歳から十八歳に引き下げられたことを日本中の誰よりも喜んだのはきっと奏多だろう。
そのおかげで高校を卒業したら優一を連れて海外に行くという選択肢が出来た。


今回のことで親父が潰れてくれたらいいがきっと這い出てくる。
権力への執着が化け物みたいな奏多の父親はこんなことくらいで諦めたりしない。

優一は日本が好きだから出来れば追われるようにして海外に行くようなこと、させたくない。
徹底的に潰す。

そうすることが優一を一番幸せに出来るはずだ。

「じゃ、俺は明日も優一さんとデートすね」
「デート、じゃないだろ。ただの運転手だ」

今までの奏多の行動で優一がどれだけ傷付いたとしても後悔はない。
高校生の奏多にとって出来ることを精一杯やってきたつもりだ。
優一を守るにはああするしかなかった。

これから先、二度と傷つけるようなことはしないからもう一度、奏多のことを好きになって欲しい。

「俺も明日、ついていきたい」
「……それは全部言わないと無理じゃないすか?」

他人事のように言ってくる正樹がムカつくのでさっきよりも強く蹴り上げて机に突っ伏した。




しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

運命の番から逃げたいです 【αとΩの攻防戦】

円みやび
BL
【αとΩの攻防戦】 オメガバースもの ある過去から人が信じられず、とにかく目立ちたくないがないために本来の姿を隠している祐也(Ω)と外面完璧なとにかく目立つ生徒会長須藤(α)が出会い運命の番だということがわかる。 はじめは暇つぶしがてら遊ぼうと思っていた須藤だったが、だんたん遊びにできなくなっていく。 表紙は柾さんに書いていただきました! エブリスタで過去投稿していた物を少しだけ修正しつつ投稿しています。 初めての作品だった為、拙い部分が多いとおもいますがどうか暖かい目で見てください。 モッテモテの自信ありまくりの俺様が追いかけるというのが好きでできた作品です。

中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが…… 想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。 ※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。 更新は不定期です。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

処理中です...