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しおりを挟む優一が出ていった玄関を見て残された二人は顔を見合わせた。
「嫌われてますね…」
呆れたように、そして面白がっている正樹の足を軽く蹴る。
「うるせー」
優一の態度にいちいちしょげてはいられない。
奏多に傷つく資格はない。
今までの奏多のことを思えば優一の方が傷ついている。
「言っちゃえばいいのに。全部、お前を守る為なんだって」
「言えるわけないだろ」
それを言ってしまえば全てを話さないといけなくなる。
自分のせいで、と思い込みやすい優一が更に悲しむことになるだけだ。
それに優一には知られたくないことも山ほどある。
「えー、でも言わないと嫌われたまますよ」
「クソっ、あれもこれも全部あのクソ親父のせいだ。はー本当、早く死んでくれないかな」
そう奏多がこぼすと今までニヤニヤと笑っていた正樹の目が厳しくなった。
「こんなもんで死んでもらったら困りますよ。もっと苦しんでもらわないと、ね」
そうでなくては、奏多についた意味がない。
「そうだな」
正樹は奏多に仕えるような形だが忠誠心なんてものはないだろう。
奏多は正樹ほどの恨み父親に対してない。
ただ自分の前からいなくなって欲しいだけだ。
奏多にとって強い感情を持てるのは優一、ただ一人だけ。
優一に手出し出来ないように破滅させたい奏多と死ぬよりも苦しんでほしい正樹の目的が一致したから手を組んでいる。
奏多と優一が同い年ならば二人で逃げよう、と言えただろう。
金はあるし海外まで行けば親父の力も及ばない。
しなかったのは優一が誘拐犯になってしまう可能性があったからだ。
親父なら話を作ってでも優一を犯罪者にしたてあげたはずだ。
成人年齢が二十歳から十八歳に引き下げられたことを日本中の誰よりも喜んだのはきっと奏多だろう。
そのおかげで高校を卒業したら優一を連れて海外に行くという選択肢が出来た。
今回のことで親父が潰れてくれたらいいがきっと這い出てくる。
権力への執着が化け物みたいな奏多の父親はこんなことくらいで諦めたりしない。
優一は日本が好きだから出来れば追われるようにして海外に行くようなこと、させたくない。
徹底的に潰す。
そうすることが優一を一番幸せに出来るはずだ。
「じゃ、俺は明日も優一さんとデートすね」
「デート、じゃないだろ。ただの運転手だ」
今までの奏多の行動で優一がどれだけ傷付いたとしても後悔はない。
高校生の奏多にとって出来ることを精一杯やってきたつもりだ。
優一を守るにはああするしかなかった。
これから先、二度と傷つけるようなことはしないからもう一度、奏多のことを好きになって欲しい。
「俺も明日、ついていきたい」
「……それは全部言わないと無理じゃないすか?」
他人事のように言ってくる正樹がムカつくのでさっきよりも強く蹴り上げて机に突っ伏した。
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