婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

文字の大きさ
上 下
29 / 34
4

5

しおりを挟む


お昼になると玄関のドアが強く叩かれた。
まだ奏多がいるのか、と驚いたが聞こえてきた声は正樹のものだった。
「優一さんー!お腹すいたー!!」
「なんだそれ」
口元から笑みが漏れる。

ガラっとドアを開けると耳も尻尾も垂れ下がってる犬がいる。
「ククッ、俺はお前の母親じゃないぞ」
そう言いながらも正樹を中に入れると垂れた尻尾が大きく振られて嬉しそうにする。

正樹にはずっとこのままでいてほしい。

玄関周りを見渡して見るが奏多はもういなさそうなのでいつものように鍵は開けたままキッチンに戻った。
「オムライスだっー!!!!」
子供のような声が聞こえてまた笑い声が漏れた。

「それは俺のだ」
「えー、もう我慢できないよ…」
食べちゃダメ?と上目遣いで聞かれてキュンと心臓が鳴った。
自分よりでかい男に思うことではないかもしれないが可愛い。

「待つなら卵トロトロにしてやる」
優一がそう言うとええ、と言いながら正樹はうーんと言いながら悩んでいる。
そんなに悩むことか?

正樹がどちらを食べるにしろもう一つは必要なのでケチャップライスから作り出した。
結局、正樹は我慢できずに優一用に作っておいたオムライスを食べようとしている。

優一は硬めの卵の方が好きだが正樹がもう一つ食べると言い出しそうなので念のため、トロトロの卵で作る。
自分はとことん正樹に甘い。

「じゃあ、俺もトロトロで」
この場にいてはいけない男の声が聞こえて振り返った。
オムライスを頬に詰めている正樹の横には奏多が座っている。

どうやって入ってきたんだ。鍵は閉めて……さっき開けたままにしたんだった。
ドアの前にいなかったのにタイミングが悪い。

「出てけ。お前にやるご飯はない」
「ヤダ。食べさせてくれるまで動かない」
今すぐ引き摺り出したいところだが、βよりとはいえΩの優一の力では奏多を無理やり動かすのは無理だった。

優一より背が高い正樹には頼もうかと考えたが辞めた。
正樹を巻き込みたくない。

「こんにちはー」
空気の読まない軽い挨拶を奏多にする正樹を睨んだ。
「こんにちは。そのオムライスくれない?お腹すいて死にそうなんだ」
「何言ってんだお前」
挨拶してすぐに人のものを奪おうとする奏多を優一が止める。

「死ぬのは嫌っすね。でもこれあげたら優一さん口聞いてくれなくなりそう」
正樹と奏多の二つの視線が優一に突き刺さってため息をついた。

どうしてこんなことに。
優一が追い出そうとしているのになにも奏多に話しかけなくていいのに、と何も悪くない正樹を恨んでしまう。

「もう一度言ってやる。お前に食べさせるご飯はない」
「えー、死んじゃうよーゆうちゃんー」
「ゆうちゃんって呼ぶな!」
甘えた声で机に突っ伏す奏多を見ていると気持ちがグラグラと揺れてしまう。

正樹がお構いなしにオムライスを食べているとグゥっと大きい音が聞こえて三人の視線が奏多のお腹に集まった。

「ブッ、クク」
顔を真っ赤にしてお腹を抑える奏多が面白すぎる。
こんな奏多、見たことなくて笑っちゃいけないのに我慢できなかった。

「笑わないでよ…昨日の朝から何も食べてないんだから仕方ないじゃん…」
「優一さん、食べさせてやったら…?」
正樹の援護も今は馬鹿にされているように感じたのか奏多がじろっと睨んだ。

しょうがない。
と、今作っていたトロトロオムライスを奏多の前に置いてやる。
「これっきりだぞ」
返事をしない奏多にお皿を遠ぞけてもう一度いう。
「分かったな」
「……はーい」
本当に分かっているのかどうかは分からないがまた鳴っているお腹が可哀想すぎてお皿とスプーンを奏多に渡した。


しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

ストロボ

煉瓦
BL
攻めの想い人に自分が似ていたから、自分は攻めと恋人同士になれたのでは? と悩む受けの話です。

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが…… 想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。 ※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。 更新は不定期です。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)
BL
「ねぇ、オレの事は悠って呼んで」  俺にだけ許された呼び名 「見つけたよ。お前がオレのΩだ」 普通にβとして過ごしてきた俺に告げられた言葉。 友達だと思って接してきたアイツに…性的な目で見られる戸惑い。 ■オメガバースの世界観を元にしたそんな二人の話  ゆるめ設定です。 ………………………………………………………………… イラスト:聖也様(@Wg3QO7dHrjLFH)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

執着もの短編集

円みやび
BL
色んな執着ものBLの短編集です。 大体1話、10,000文字くらいだと思います。 書きたいと思ったものをバッーと書いてます。 リクエストで増やす場合もあります。 ・運命じゃない君が運命だった 運命の番に振られたΩ×なんとしても逃がさないα ・悪魔に魂を売った日 ネグレクトされてる少年×美しいヤクザ ・眠っている間に お馬鹿な流され×幼馴染

処理中です...