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しおりを挟むうずくまったまま、動かず暗くなった空を見上げていた。
これから奏多とどう接していいのかわからない。
奏多が今になってあんなふうに声をかけてくるのも、大学に行っていないのも、なぜ父親にあんなことをしたのかも。どれだけ考えても優一には答えを見つけることができなかった。
日が落ちると肌寒くなるので優一の身体は冷え切っていたが動く気になれなかった。
奏多はどこかに行ってしまったので優一の疑問に答えてくれる人はいない。
一度、ちゃんと奏多と話すべきだろう。
もしかしたらΩとイチャイチャしていたのにも訳があったのかも…とまた無駄な期待を抱きかけて頭の隅から追い出した。
何度、期待を裏切られただろう。
優一が勝手に期待して悲しくなっただけで奏多に対して怒りを感じるのはおかしいと思いながらも割り切れない。
それでも優一のどうして、の答えは奏多にしか答えられない。
「嫌だな…」
その疑問たちを奏多に聞いても自分が傷つくだけだと分かっているのに気になってしょうがない。
どうしたらいいのだ。
奏多がここに来ていることは理事長は知っているのだろうか。
奏多に近づかない、とサインした書類はまだ有効だろうが奏多は知っているのか。
聞きたいことが多すぎて頭の中がパンクしそうだ。
「おーい!優一さん!!何してんの?」
道の奥から走りながら手を振っているのは優一が待ちに待っていた正樹だ。
やっと帰ってきたのか。
奏多には聞けないことを正樹に聞こう。
「遅い。どこ行ってたんだ…」
「え。待ってた?仕事だよー」
優一は正樹が何の仕事をしているのか詳しくは知らない。
便利屋みたいなものだと言っていたが二日も家を空けるとは何をやっているんだか。
「それよりうずくまって何してんの?」
「何もしてない!早く晩御飯食べるぞ」
正樹のおかげでやっとその場を動く気になり立ち上がった。
正樹が声を上げて喜んでいるのを見ると乱された心が落ち着いてくる。
正樹は優一の癒しだな、とふと笑った。
「何があった?」
奏多のことを正樹に言ってしまおうか、と一瞬悩んだが何もかもを打ち明けてしまわないといけなくなりそうなので辞めておいた。
歳下に相談することじゃない。
「今日は茄子づくしだ」
「やったー!!!」
素直に喜んでいる正樹には何かしてやりたくなる。
そうすることで自分が救われている気がする。
奏多のことは考えても仕方がないことなので頭の中から追い出して夜ご飯を作ることに集中する。
もう自分と奏多は他人なんだ。
気にしたところで出来ることなんて何もない。
明日、奏多に会えたら言おう。
自分はもう関係のない人だから巻き込まないでくれ、と。
もう二度とあんな思いをするのは御免だ。
今あるこの暮らしを守ってひっそりと生きていきたい。
絶対に言うぞ!と強く決心した。
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