婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

文字の大きさ
上 下
25 / 34
4

1

しおりを挟む


優一の家にはテレビもないし携帯も繋がらない。
世間と離れてうるさくないのが気に入っていたのだがここ二日は後悔している。

あれから理事長はどうなっているのか気になるのに情報を知る術がなく不安ばかりが増幅されていく。

ここに引っ越してきてから二十二時にはぐっすり眠れるようになっていたのに奏多が傷ついているところばかりを想像してしまい眠れない。

街に行きたいのだが正樹が忙しいと出て行ったきり戻ってこない。
理事長の状況を聞きたくて数時間ごとに正樹の家に行っているのだが帰ってくる様子はない。

もどかしい。

今まで気にしないようにしていたが二日前から奏多のことが頭から離れない。
高校は卒業しているはずだが大学で虐められたりしていないだろうか。
ご飯はしっかり食べているのか。

「優一くん、ちょっと手伝ってほしいんだけど」
「あっ、はい」
家の中を落ち着きなくウロウロしていると町長に声をかけられた。

一人でいるより何かをしていた方が気が紛れていい。
「引っ越ししてくる人がいてね。家の掃除をたのみたいんだ」
引っ越し?家がないと言うことは誰かの家族でも無さそうだし珍しいな。

「優一くんが来てから随分と賑やかになったよ。ありがとう」
優一が来てからは誰も引っ越してきていない気がするのでお礼を言われるのはおかしいと思ったがわざわざ指摘するのも良くないと曖昧に笑って誤魔化した。

隅さんの家の隣にある平屋は何年も人が住んでいないがそ綺麗なままだ。
元は隅さんの息子家族が住む予定だったらしいのだが色々あってなしになったらしい。

ギィとドアを開けると埃が降ってきた。
定期的に掃除しているとはいえ数ヶ月に一度のペースではだいぶ汚れてしまっている。

なかなか手強そうだが掃除している間は奏多のことを考えなくてすむ。
「僕も一緒にやるから早く終わらそう!」
「一人でやりますよ!町長は忙しいでしょう」
いや、でもな、と口籠もる町長に気を遣わせたくない。
「いつも沢山お世話になっているのでこれくらいやらせてください」

優一の言葉に渋々、町長は頷いてくれて埃っぽい家の中に一人になった。
「さぁ、やるか」

上から下に、奥から前に、出来る限り効率的に掃除していく。
初めは色々考えてしまっていたがやっていくうちに夢中になる。

といっても数年前に建て直して以来、人が住んでいない家は埃やよく分からない汚れはあってもそんなには手がかからなかった。

二時間、玄関までノンストップで進んで行くと後は外にある庭の草むしりくらいになった。

「ふぅ」
ずっと腰を曲げた姿勢だったので立ち上がって伸びをしながらピカピカになった廊下を見ると気持ちがスッキリした。

このまま庭も綺麗にしてしまいたいが外が暗くなってきてしまっているので明日に回すことにして掃除道具を片付けた。

せっかくなので隣の隅さんの家を覗いてみたが珍しくいない。
今日も一人で夜ご飯か。
寂しいな。

もう少し時間がたてばもしかしたら正樹が夕飯を食べに来てくれるかもしれないとノロノロと歩いていると優一の家の前に人影が見えた。

正樹かもしれない!と舞い上がったが正樹なら家の中に勝手に入っていることに気づくと一瞬で気持ちが沈んだ。

正樹に限らずこの村の人なら勝手に中に入っているはずだ。
誰だろう?と少し小走りで近づいて行き顔が見える距離で足が止まった。

「ゆうちゃん、おかえりっ」

昔と同じように呼びかけてくる奏多に声が出ない。
ここ数年の微妙な関係など無かったかのように過去に引き戻されたような錯覚に陥った。



しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

運命の番から逃げたいです 【αとΩの攻防戦】

円みやび
BL
【αとΩの攻防戦】 オメガバースもの ある過去から人が信じられず、とにかく目立ちたくないがないために本来の姿を隠している祐也(Ω)と外面完璧なとにかく目立つ生徒会長須藤(α)が出会い運命の番だということがわかる。 はじめは暇つぶしがてら遊ぼうと思っていた須藤だったが、だんたん遊びにできなくなっていく。 表紙は柾さんに書いていただきました! エブリスタで過去投稿していた物を少しだけ修正しつつ投稿しています。 初めての作品だった為、拙い部分が多いとおもいますがどうか暖かい目で見てください。 モッテモテの自信ありまくりの俺様が追いかけるというのが好きでできた作品です。

中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが…… 想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。 ※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。 更新は不定期です。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

処理中です...