21 / 34
3
6
しおりを挟む名前が同じだけで違う店だろう、と振り返りニュースの続きを確認したがやはり理事長のお店だった。
ニュースによると「都内の病院から同じような症状を訴える患者が複数人いる」と保健所に連絡があり調べたところ、鳥夜亭で食事をとっていたことがわかったらしい。
保健所の調査によると患者と従業員一名からノロウイルスが検出され、ノロウイルスが原因の食中毒だと判明した。
『その上、鳥夜亭の鳥は全て国産ということで知られていますが全て中国産だったことが分かりました』
「え?」
優一の手から箸が落ちて店の注目を集めてしまう。
「知り合い?」
優一の動揺が正樹に伝わってしまったのだろう。
正樹の問いかけに何と言えば良いのかわからなくて言葉に詰まって首を振った。
知り合い、という簡単な関係じゃなかった。
でも今は知り合いとさえ言うのは許されていない。
大丈夫なのだろうか。
国産というのが売りだったのが偽造していたと知られれば潰れてしまうのでは?
今回のことで学校やその他の経営にも打撃を受けるだろう。
奏多は大丈夫なのか?
テレビの中では理事長に群がるマスコミが映されている。
産地偽造で食中毒、どれほどの影響が出るのだろうか。
「死人が出た訳じゃないし大丈夫…だよな?」
「死人?」
気づかないうちに口から出てしまっていたらしい。
「いや、食中毒っていうからさ」
「ああ、テレビ。ホント、大変そうですね」
正樹のなんてことなさそうな平坦な口調に優一も我に返った。
そうだ。
関係のない人ならこんな反応をするはずだ。
自分が動揺しているのはおかしいとわかっているのに奏多を心配する気持ちは止まらない。
いつもは美味しくて止まらない箸が全然進まず、優一がやっと半分食べ終わった頃には正樹は完食していた。
ニュースを聞くまではあれほど減っていたお腹にももう入りそうにない。
「食べてくれない?」
「え!いいの?」
残すことは出来ないので正樹に頼むと喜んで食べてくれた。
いつものように頬に詰め込む正樹を見てホッと息を吐いてテレビに視線を戻した。
『食中毒はノロウイルスが原因だから産地は関係ないにしてもこれは問題ですね』
『そうですね。広告にも大きく国産だと出してしまっていますから』
ニュースキャスターが話しを進めていくが優一が気になっている学校のことや奏多のことは話しに出てこなかった。
どういう状況なのか不安はあるが話題になっていないとなると飲食店以外はそこまで巻き込まれていないのかもしれない。
「俺、ちょっと電話してくるよ」
頬張っている正樹は指を立ててグッとサインを出したので店を出ていつぶりかに携帯に電源を入れた。
着信履歴の一番上にあった電話番号にかけると相手も待っていたのかすぐに繋がった。
「和弘、大丈夫か?」
「久しぶり。今はまだ、な」
そうか。
今ニュースに出たところだから生徒たちが騒がしくなるのはこれからだろう。
和弘含む、教師たちはその対応に追われるはずだ。
「あのさ、」
全ての経緯を知っている和弘に奏多のことを聞くのは憚られて口篭っているとため息が電話口から聞こえた。
「はぁ、わかってる。藍沢だろ。今は何もないけど注意深く見とくよ」
「ごめん…ありがとう…」
「気にすんなよ」
その後は最近の優一の暮らしや和弘の話を軽く話して電話が切れた。
携帯の画面をスライドしてある番号で指が止まった。
登録もされてないけど一度だけかけたことがある。
相手は出たが何も言わずに切ってしまった。
きっと迷惑電話だと思われて拒否されているだろう。
「大丈夫なのか」
繋がってもいないのについ問いかけてしまう。
すぐに収集されて収まるはずだと分かっていても胸騒ぎが止まらない。
奏多には無理かもしれないけどずっと幸せで楽しくいて欲しい。
今回のことで学校で何か言われたりしないだろうか…。
どれほど優一が心配しても意味はない。
「優一さん!終わりました?」
正樹が“幸”から出てきて優一の肩を叩いた。
「ビックリした…」
「すみません。けど電話したなかったから終わったのかなと思って。暗くなったしそろそろ帰りましょう」
もう二十一時前になる。
真っ暗になった山の中を車で上がっていくのは危険すぎるしまだメールのチェックなどが出来ていない。
「どこかに泊まろう」
「ええっ!それはまずい!!」
「明日仕事休みだろ?」
他に何か用があるのか、と聞くとないと言うのに泊まりはなぁ、と一人でぶつぶつ喋っている。
「お金は勿論、俺が出すよ。幸の食事代も」
財布からお金を出そうとすると正樹に止められる。
「いいです。いつも食べさせてもらってるのでこれくらい。それよりも、泊まりが。うーん」
正樹は頭を抱えていいのか?いいよな?暗すぎて事故して優一さんが怪我する方がヤバいよな?と一人で会話を続けている。
33
お気に入りに追加
2,926
あなたにおすすめの小説
巣作りΩと優しいα
伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。
そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……
執着もの短編集
円みやび
BL
色んな執着ものBLの短編集です。
大体1話、10,000文字くらいだと思います。
書きたいと思ったものをバッーと書いてます。
リクエストで増やす場合もあります。
・運命じゃない君が運命だった
運命の番に振られたΩ×なんとしても逃がさないα
・悪魔に魂を売った日
ネグレクトされてる少年×美しいヤクザ
・眠っている間に
お馬鹿な流され×幼馴染
中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています
橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが……
想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。
※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。
更新は不定期です。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
オメガの騎士は愛される
マメ
BL
隣国、レガラド国との長年に渡る戦に決着が着き、リノのいるリオス国は敗れてしまった。
騎士団に所属しているリノは、何度も剣を交えたことのあるレガラドの騎士団長・ユアンの希望で「彼の花嫁」となる事を要求される。
国のためになるならばと鎧を脱ぎ、ユアンに嫁いだリノだが、夫になったはずのユアンは婚礼の日を境に、数ヶ月経ってもリノの元に姿を現すことはなかった……。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる