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邂逅編
第二十八話 本当の困難はいつだって予測に無い所からやってくる
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忙しい!
エウフェミア先生を引っ張り出し、第四艦隊司令部に戻ってからの私は仕事漬けの毎日だった。
エウフェミア先生を速攻で少佐に昇進させて艦隊の作戦参謀に任命して、分艦隊の事はひとまずエアハルト、クライスト提督、エウフェミア先生の三人に任せられたが、第四艦隊その物の事については私が直接ハンスパパに口を出さないとどうにもならないのだ。
統率25運営9のハンスパパが司令官をやっている第四艦隊の内情は見れば見るほどボロボロだった。
いくら私が直接率いる訳ではないと言っても本隊がこれでは分艦隊にも悪影響が出る。
「何で半年前に発注したはずの6万人分の医薬品が消えてるのよ!?」
軍需物資の在庫管理を一斉に始めたのだが、帳簿と合う所の方が少なかった。
倉庫一個分の物資が丸々ない、なんて事もザラだ。
「い、いえそう言われましても確かに発注したはずでして、少し前には確かに……」
思わずヒステリックに叫んでしまった私に対し、担当の主計士官が汗を拭いながら弁解する。
……空発注しやがったなてめー。
それにしたって倉庫一個分丸々を良く誤魔化せると思った物だ。
「エアハルト」
「はい」
「深刻な背任の疑惑があるわ。連行して憲兵に取り調べさせるように。それとすぐに不足分の医薬品の発注を」
こやつの首をはねい、と言う言葉を飲み込んで、私はそう命じた。
「はっ」
エアハルトが粛々と主計士官の逮捕に掛かった。
「……これで何人ぐらい士官を逮捕したっけ」
彼が連行された後、私はがっくりと首を垂れながらエアハルトに訪ねた。
「ちょうどこれで二〇人目ですね」
エアハルトが淡々と答えた。
「この世は腐っている!」
私は空に向かって吼えた。マールバッハ星系の恒星は地球の太陽と比べれば随分小さく、日光は人工衛星軌道にある複数の人工光源で補助されている。
どこを切っても汚職と不正で穴だらけのレンコン状態だった。
良くこんな有様でハーゲンベック領討伐戦無事にこなせたなあ……
二〇人も士官を逮捕するとそれはそれでさすがに当座の艦隊の運営に支障が出そうだったが仕方ない。最悪で私の分艦隊だけ機能すれば良かった。
「ここまで来ると個人のモラルの問題ではなく組織の問題ですね。抜本的な改革が必要でしょう」
「さすがにそれはすぐには手が回らないかな。パパはどれだけ叩いても動かないし」
ハンスパパは屋敷に帰らず、ずっと仕事をしている私の心配をするだけだった。
私が改革の大ナタを振るうにしてもパパ越しでは限界がある。
私が第四艦隊の司令官かあるいは公爵家の当主になるまで待つしかないだろう。
ああ、私だってこんなに仕事ばかりしたくないのに。せっかく公爵家の令嬢になったんだから少しぐらいは優雅な生活を楽しみたい。
後時間が許すならエアハルトやクライスト提督から艦隊指揮に付いて教わったり、エウフェミア先生に戦略論について教わったりしたいのに。
何で公爵令嬢が寝る間も惜しんでレーションかじりながら帳簿片手に倉庫を検品しなきゃ行けないのよ!
これじゃブラック企業の中間管理職じゃない!
と言っても、かなり身分の高い士官も汚職に手を染めているので、これの摘発はエアハルトを始めとした部下だけに任せる事も出来ない。
そこで通信が入った。エウフェミア先生からだ。
「やあ、調子はどうだい、ヒルト」
3Dディスプレイに軍服姿の先生が映る。
「人間の愚かさと汚さを散々見せつけられて心が沈んでいる所ですよ。そっちはどうですか」
「中々酷い物だが、分艦隊は規模が小さいからな。クライスト提督が訓練の傍ら、鉄の規律で引き締めに掛かっているよ。この分なら何とかマトモに戦えるようにはなりそうだ。私は帳簿とにらめっこしている最中だよ」
「取り敢えず分艦隊に関してはどうにかなりそうですね」
普通の仕事はしない、と宣言してた先生だが、私のあまりの多忙ぶりに同情したのかすぐに艦隊内部の事務仕事でも手腕を見せてくれるようになった。
役職は作戦参謀だけど、正直何をやらせても他のどの参謀よりも優秀である。
この人も早く艦隊参謀長にしたいなあ……
「それで、何かありましたか?」
「いや、それが統合参謀総監部の友人から情報が入ってね。新しい出兵計画が提案されているらしい」
「どこにです?」
「シュテファンだよ。今年二回目の出兵だな」
「どこでしたっけ、そこ」
私の返事に先生は目を覆った。
「ツェトデーエフ三星系に繋がるエーテル航路に重なる帝国側の星系の一つで、豊富な資源惑星が存在すると言う事でここしばらく取り合いが続いている。ここ三年で七回ほど取ったり取られたりを繰り返しているな。前回の戦いで取られ、今は連盟側の支配下にある」
エアハルトが端末を操作し、星系とそこで行われた会戦の情報を見せてくれた。
「あー……」
それを見て私も思い出した。
確かここが次にティーネが戦う事になる戦場だ
確か帝国側は三個艦隊、連盟側は二個艦隊で戦闘になって、帝国は二個艦隊を失うんだけど、ティーネの反撃が成功して星系自体は奪回に成功するんだったかな。
犠牲は大きかったけどティーネは星系奪回と奮戦の功績を認められてここで大将に昇進したはず。
そして連盟側の天才も、この戦いで初めてティーネと激突し、帝国側にその存在が認識される事になる。
「ある試算によるとここの争奪戦のために双方が今まで消費した資源はすでにこの先五十年でシュテファンで採掘出来る見込みの資源量を超えているらしい。だがそれが分かっていても双方今までに出した犠牲を考えると後に引けない意地の張り合いだ。全く、戦争は一度間違えると金と人命を掛けた我慢大会になるな」
「それでその出兵に何か気になる事が?」
ティーネ艦隊の出撃が決まりそうだから教えてくれたんだろうな、と予想しながら私は尋ねた。
「出撃させる艦隊についての協議が行われているそうだが、エーベルス艦隊に加えてウチの分艦隊を出そうと言う話が出ているみたいだ」
「ええええええっ!?」
予想外の情報に大声で叫んでしまった。
エウフェミア先生を引っ張り出し、第四艦隊司令部に戻ってからの私は仕事漬けの毎日だった。
エウフェミア先生を速攻で少佐に昇進させて艦隊の作戦参謀に任命して、分艦隊の事はひとまずエアハルト、クライスト提督、エウフェミア先生の三人に任せられたが、第四艦隊その物の事については私が直接ハンスパパに口を出さないとどうにもならないのだ。
統率25運営9のハンスパパが司令官をやっている第四艦隊の内情は見れば見るほどボロボロだった。
いくら私が直接率いる訳ではないと言っても本隊がこれでは分艦隊にも悪影響が出る。
「何で半年前に発注したはずの6万人分の医薬品が消えてるのよ!?」
軍需物資の在庫管理を一斉に始めたのだが、帳簿と合う所の方が少なかった。
倉庫一個分の物資が丸々ない、なんて事もザラだ。
「い、いえそう言われましても確かに発注したはずでして、少し前には確かに……」
思わずヒステリックに叫んでしまった私に対し、担当の主計士官が汗を拭いながら弁解する。
……空発注しやがったなてめー。
それにしたって倉庫一個分丸々を良く誤魔化せると思った物だ。
「エアハルト」
「はい」
「深刻な背任の疑惑があるわ。連行して憲兵に取り調べさせるように。それとすぐに不足分の医薬品の発注を」
こやつの首をはねい、と言う言葉を飲み込んで、私はそう命じた。
「はっ」
エアハルトが粛々と主計士官の逮捕に掛かった。
「……これで何人ぐらい士官を逮捕したっけ」
彼が連行された後、私はがっくりと首を垂れながらエアハルトに訪ねた。
「ちょうどこれで二〇人目ですね」
エアハルトが淡々と答えた。
「この世は腐っている!」
私は空に向かって吼えた。マールバッハ星系の恒星は地球の太陽と比べれば随分小さく、日光は人工衛星軌道にある複数の人工光源で補助されている。
どこを切っても汚職と不正で穴だらけのレンコン状態だった。
良くこんな有様でハーゲンベック領討伐戦無事にこなせたなあ……
二〇人も士官を逮捕するとそれはそれでさすがに当座の艦隊の運営に支障が出そうだったが仕方ない。最悪で私の分艦隊だけ機能すれば良かった。
「ここまで来ると個人のモラルの問題ではなく組織の問題ですね。抜本的な改革が必要でしょう」
「さすがにそれはすぐには手が回らないかな。パパはどれだけ叩いても動かないし」
ハンスパパは屋敷に帰らず、ずっと仕事をしている私の心配をするだけだった。
私が改革の大ナタを振るうにしてもパパ越しでは限界がある。
私が第四艦隊の司令官かあるいは公爵家の当主になるまで待つしかないだろう。
ああ、私だってこんなに仕事ばかりしたくないのに。せっかく公爵家の令嬢になったんだから少しぐらいは優雅な生活を楽しみたい。
後時間が許すならエアハルトやクライスト提督から艦隊指揮に付いて教わったり、エウフェミア先生に戦略論について教わったりしたいのに。
何で公爵令嬢が寝る間も惜しんでレーションかじりながら帳簿片手に倉庫を検品しなきゃ行けないのよ!
これじゃブラック企業の中間管理職じゃない!
と言っても、かなり身分の高い士官も汚職に手を染めているので、これの摘発はエアハルトを始めとした部下だけに任せる事も出来ない。
そこで通信が入った。エウフェミア先生からだ。
「やあ、調子はどうだい、ヒルト」
3Dディスプレイに軍服姿の先生が映る。
「人間の愚かさと汚さを散々見せつけられて心が沈んでいる所ですよ。そっちはどうですか」
「中々酷い物だが、分艦隊は規模が小さいからな。クライスト提督が訓練の傍ら、鉄の規律で引き締めに掛かっているよ。この分なら何とかマトモに戦えるようにはなりそうだ。私は帳簿とにらめっこしている最中だよ」
「取り敢えず分艦隊に関してはどうにかなりそうですね」
普通の仕事はしない、と宣言してた先生だが、私のあまりの多忙ぶりに同情したのかすぐに艦隊内部の事務仕事でも手腕を見せてくれるようになった。
役職は作戦参謀だけど、正直何をやらせても他のどの参謀よりも優秀である。
この人も早く艦隊参謀長にしたいなあ……
「それで、何かありましたか?」
「いや、それが統合参謀総監部の友人から情報が入ってね。新しい出兵計画が提案されているらしい」
「どこにです?」
「シュテファンだよ。今年二回目の出兵だな」
「どこでしたっけ、そこ」
私の返事に先生は目を覆った。
「ツェトデーエフ三星系に繋がるエーテル航路に重なる帝国側の星系の一つで、豊富な資源惑星が存在すると言う事でここしばらく取り合いが続いている。ここ三年で七回ほど取ったり取られたりを繰り返しているな。前回の戦いで取られ、今は連盟側の支配下にある」
エアハルトが端末を操作し、星系とそこで行われた会戦の情報を見せてくれた。
「あー……」
それを見て私も思い出した。
確かここが次にティーネが戦う事になる戦場だ
確か帝国側は三個艦隊、連盟側は二個艦隊で戦闘になって、帝国は二個艦隊を失うんだけど、ティーネの反撃が成功して星系自体は奪回に成功するんだったかな。
犠牲は大きかったけどティーネは星系奪回と奮戦の功績を認められてここで大将に昇進したはず。
そして連盟側の天才も、この戦いで初めてティーネと激突し、帝国側にその存在が認識される事になる。
「ある試算によるとここの争奪戦のために双方が今まで消費した資源はすでにこの先五十年でシュテファンで採掘出来る見込みの資源量を超えているらしい。だがそれが分かっていても双方今までに出した犠牲を考えると後に引けない意地の張り合いだ。全く、戦争は一度間違えると金と人命を掛けた我慢大会になるな」
「それでその出兵に何か気になる事が?」
ティーネ艦隊の出撃が決まりそうだから教えてくれたんだろうな、と予想しながら私は尋ねた。
「出撃させる艦隊についての協議が行われているそうだが、エーベルス艦隊に加えてウチの分艦隊を出そうと言う話が出ているみたいだ」
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予想外の情報に大声で叫んでしまった。
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