銀河悪役令嬢伝説~破滅したツンデレ悪役令嬢に転生して二人の天才と渡り合い、二分された銀河をなるべく平和的に統一しろと無茶ぶりされました~

マット岸田

文字の大きさ
上 下
28 / 30
登用編

第二十七話 三人目

しおりを挟む
「ところでほとんど一人、と言いましたけど、ほとんど、と言う事はちょっとは他にもアテはあるんですか?」

 私は言葉尻を捕らえてそう訊ねてみた。

「そりゃ」

 エウフェミア先生はきょとんとした顔をして私を指さした。

「もしエーベルス伯がダメなら後は君が自分でやるしかあるまい。帝位継承権持ちだろ」

「アッハイ」

 それはティーネと競い合わなきゃいけないと言う事で出来ればごめん被りたいんだけどな……
 勝てる気しないし。

「私にそれが出来ると思います?」

「今の私のアドバイスを元に具体的な戦略を組み立て、後はそこの忠実なお付き君の言う事をしっかり聞いていれば何とかならない事はないんじゃないか。それでもエーベルス伯を凌ぐのは難しいかも知れないが。一歩間違えれば帝国内で大規模な内乱が起こっておしまいだな」

「そこまで分かってるんなら、このまま現役復帰して私を助けて下さいよ、先生」

 私は甘えるような声でねだって見た。

「面倒だ。それに私一人が世に出て行った所で何か変わる物でもあるまいさ」

「いいえ、変わります。この国にも、銀河にも、私にも先生は必要です」

 戦略98だろ!

「私は諸葛孔明か」

 苦笑気味の表情を先生は浮かべた。

 はるか遠く離れた星の旧い歴史にやたら詳しいっすね先生。
 と言いつつ私も気分はすっかり劉備だ。

「私はこの下宿に引きこもって歴史や軍事思想の本を読んだりその手のコンピューターゲームをやりながら、現実の世界の戦争に関してあれこれ頭の中で考えるだけの生活が出来ていればそれで満足なんだがな」

 この人私と同じタイプのダメ人間だよ。
 でも同じタイプだからこそ、本当はそれだけでは満足し切れないって言う事が私には分かる。

「先生、どんな偉大な戦略だってそれを理解して実行してくれる人間がいなければ意味は無いんですよ。自分が実際どこまでの事が出来るのか、試してみたくありませんか?こう言っては何ですけど、先生の能力をちゃんと理解して評価する高級軍人なんて多分滅多に現れませんよ」

「……待遇は?」

「少佐への昇進はすぐに。それとお望みならマールバッハ公爵家高級武官の地位も。給料は以前の三倍は堅いですね」

「老後も保証してくれるんだろうな」

「もちろん。私が没落しなければ、ですけど」

「言っておくが私にまともな仕事ぶりは期待するなよ」

「普通の仕事をしてくれる人間が欲しいなら先生に声は掛けませんよ」

「後、間違っても私に艦隊を指揮させようなんて思うなよ。実戦じゃ考え込み過ぎて失敗するタイプだからな私は」

「それは大丈夫です。実戦指揮官は優秀なのを別に確保してますよ」

「そして私を使うからには」

 先生が椅子から立ち上がった。

「何にも遠慮せずとことんまでやるぞ。戦争で忖度ほど有害な物はないからな。それが受け入れられないとなったらさっさと君らを見限る。覚悟しておけ」

「ええ、それぐらいの人を集めないとこの戦争は終わらせられませんし、あのエーベルス伯とも渡り合えません」

 私も椅子から立ち上がって答えた。
 先生がニヤリと笑うと机の上に置きっぱなしだったお酒のコップを掴み、グイ、と一息で呷る。

「仕方ない、さほど可愛くも無い教え子と人類の未来と安寧たる老後のために、頑張ってみますか。よろしく頼むよヒルト、エアハルト」

「はい、お願いします」

 私は笑顔で握手を求め、エアハルトも敬礼で答えた。

 よーし、と私はまた内心でガッツポーズをした。

 名目上の艦隊指揮官としてこの私ヒルトラウト・フォン・マールバッハ。
 統率49戦略79政治50運営38情報39機動33攻撃29防御37陸戦42空戦24白兵12魅力90

 実戦艦隊指揮官としてクルト・フォン・クライスト准将。
 統率80戦略72政治25運営37情報27機動85攻撃93防御67陸戦75空戦91白兵82魅力70

 参謀としてエウフェミア・フロイト大尉。
 統率64戦略98政治95運営88情報92機動60攻撃72防御60陸戦40空戦50白兵27魅力71

 そして万能の副官にして私の切り札、エアハルト・ベルガー大尉。
 統率92戦略89政治75運営88情報79機動83攻撃91防御94陸戦90空戦74白兵93魅力85

 ティーネと比べれば層は薄いし、後トップの私の能力が無茶苦茶劣ってるけど、それでも少数精鋭、粒ぞろいの幕僚が一応は揃った……気がする。

だ、ダメだ。思考が歴史SLG脳だから、人材が揃ったと思うとどうしてもニヤニヤしてしまう……

「ここから『たった一人の予備役大尉の現役復帰がここまで歴史を動かした例は恐らく他になかったであろう』と後世の歴史家に書かれる程度の事をやれればいいんだがね」

 私の考えている事を知ってか知らずか、エウフェミア先生は皮肉げな口調で呟いた。

 やっぱりこの人私と似てるな……

 こうして私は、ヒルトの前世では世に埋もれたまま命を落としてしまった三人目の人材を、表舞台に引っ張り出す事に成功した。

 実際にそれがこの後の歴史にどんな影響を及ぼすのかは、残念ながら今の私にはまだ知る由も無かったのだけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

処理中です...