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転生編
プロローグ~女神は石器時代の勇者~
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「日高かなみ。貴様には前世の罪を償ってもらう」
私の前に光と共に現れた女性は開口一番、横柄な口調でそう言った。
「いや、あなた誰ですか?と言うかここはどこ?」
私は首をひねりながら女性を、ついで周囲を見回した。
周りは白く輝くだけで、前後左右どこを見回しても壁も何も無い世界だ。いや、それだけでなく天井も、床すらない。
そして目の前にいるのは金髪で白い肌をして、その肌よりもさらに白い、一体どうやって体に繋ぎとめているのか分からない不思議な服でグラマラスな体を隠した、人間離れした美貌と気品を持つ女性。
目の錯覚なのか、彼女自身が輝いている様にすら見える。
女神と言う者が現実にいるならまさにこのような存在だろう。
しかしその秀麗な顔が作る表情はえらくふてぶてしく、尊大さがありありと見えていて、とても女神らしい慈愛などは皆無だった。
「妾の名はロスヴァイゼ。死後の人間の魂を導く役目を負った女神である」
「えぇ……私死んだの?いつのまに……?」
そう言って私は自分の直前の記憶を思い出そうとしていた。確かバスに乗って学校にいこうとしてたはずだったが……シートに座った所でうとうとしてしまい……
「ああ、貴様は死んだ。乗っていたバスが事故に合い、眠ったまま事故にも気付かずな」
ロスヴァイゼと名乗った女性は淡々とした、しかしどこか意地悪そうな口調で答える。
「そんなあ……私まだ十七ですよ。人生これからって時ですよ。まだまだ読みたい本もやりたいゲームもいっぱいあったんですよ。何とかならないんですか。後、罪ってどういう事ですか。私そんな悪い事した憶えありませんよ?」
「貴様は気付かない内に前世である大罪を犯していたのだ。これからそれを償うためにある世界に行って仕事をしてもらう。最初に言っておくが拒否権はほとんど無いと思え。拒否したらそのまま消滅するだけだからな」
「い、いやいやいや、いくら何でも理不尽過ぎません!?犯した罪の憶えも無いのに償えってどう言う事ですか!?後、ある世界って一体どこですか!?」
「世界の説明はしてやるから少し黙れ」
ロスヴァイゼは半ばバカにするような、そして残りの半分は憐れむような視線をこちらに向け、それから右手で何も無い空間を撫でた。
空間に無数の光点が立体的に浮かぶ。どうやらその光点一つ一つが星を現していて、宇宙の一部を切り取った星図らしい。
それからその星図が赤と青の二色に色分けされた。
「人類が太陽系外に進出してからはや幾星霜。宇宙は地球から遠く離れた開拓惑星で誕生した新興の専制君主国家、神聖ルッジイタ帝国と、太陽系を中心とした星系連盟の二大勢力に二分されておる」
「どっかで聞いたような設定ですね……」
「そしてそれぞれの勢力に時同じくして一人ずつ天才が現れた」
「どっかで聞いたような設定ですね!?」
「だから少し黙っておれ」
ロスヴァイゼはもう一度、今度は苛立たし気にそう言う。私はあわてて口を閉じた。
私が黙ったのを確認してからロスヴァイゼはまた指で何も無い空間をなぞる。
「これが帝国歴三四〇年の情勢だ」
ロスヴァイゼの声に合わせて、星系図の光点の色が激しく変わり始めた。星の色が赤になったり青になったりしている。時に赤が広がり、また時に青がそれを押し返す。赤と青以外に黄色や緑と言う色が現れて星々を染める事もあったが、それらは赤と青に押しつぶされて最後には消えていく。
宇宙が二色に戻った後も、どちらの色も激しく相手の星を取り合いながら、それでも互いに決め手を欠き、膠着状態が続く。
まるでストラテジーゲームの全体図を早送りで見ているようだった。いや、これは恐らく実際に、宇宙での星の奪い合いと言う形を取った戦争の記録なのだろう。
そしてそれは突然に現れた。
宇宙の中心近くに一点の黒い色が現れ、赤も青も関係無く、侵食し、呑み込んで行く。
赤と青もたまに星を取り返しているが、全体的に圧倒的な黒の勢いの前にはその抵抗は無に等しい。
そして宇宙が黒一色に染まった所で、星図の動きは止まった。
「どう見た?」
ロスヴァイゼがこちらを試すように訪ねて来る。
「えーっと、帝国と連盟が戦って途中で双方大規模な内戦が起きたりもしたけど、結局泥沼の戦いが長く続いて、どちらも疲弊した所で突然現れた第三勢力が漁夫の利で勝ち残った?」
「うむ。概ね正解だ」
「あの黒い第三勢力は何だったんです?」
「分からん」
「えっ」
「妾の力で未来を覗いてみても、この辺りははっきりした事は分からんのだ。ただ、人類ではない、別の何か危機となる存在が帝国歴三四五年頃に現れる事は確かだ。何しろ黒い勢力が宇宙を統一した時点で人類は滅びているのだからな」
「つまり異星人とか?」
「かも知れん」
「二人の天才はどうなったんです?」
「巡り合わせが悪かったのか、同時に二人現れたのがまずかったのか、卓越した戦果を残した物の、どちらも十全に実力を発揮し得る事は出来ず、それぞれ途中で若くして死んだ。危機が現れる時まで生きておれば、また何か変わったのかも知れんがな」
「そっかあ……」
寂しい物だが歴史とはそう言う物かもしれない。
「そこで貴様にはこれからこの世界に転生し、その二人を始めとした両勢力の有能な人材をなるべく死なせず、国力も温存したまま、最長でも五年でこの宇宙が危機を迎え撃てる態勢を作ってもらう。それが出来なければ恐らく人類はやって来る危機を乗り切れん」
「ええええ……それって普通に武力統一するより難しくありません?しかも五年って……」
あのチートで有名な光武帝だって独立してから中華を統一するのに十三年も掛かったのだ。中国大陸が広いと言うのなら宇宙はなお広いではないか。
「貴様ぶっちゃけ好きであろう?こう言うの」
「いや、まあ好きですけど……」
私は何故か子どもの頃から戦争に関わる歴史や戦略論が好きだった。
小学生の頃から歴史小説や架空戦記小説を読み漁り、それから古典の兵法や現代の軍事思想へと興味を段々とシフトさせていった。
多分あまりいないんじゃないかな。毎月のお小遣いの大半を中央×論新社や原×房や芙×書房の本を買い込む事に費やしてる女子高生とか(分かる人だけ笑ってやってください)。
ストラテジーゲームも大好きだし、自分で軍隊を指揮する妄想をする事だってしょっちゅうだ……こう書くとだいぶ変な女の子だな私。
でもだからと言って銀河を股にかけた宇宙戦争の世界に乗り込んで無双出来ると思うほど私は自分にうぬぼれてはいなかった。
「ちなみに貴様が転生するのは本来ならこの世界の歴史を悪い方にしか転がさない帝国史上最凶最悪の令嬢との異名を持つ悪女だ。地位と影響力だけは無駄にあるから、まあやりようはあるだろう」
「それってつまり他人の体を乗っ取るって事ですか?何か気が咎めるんですけど」
「どうせこのまま生きていても世の役に立たないどころか周りに迷惑をかけるだけ掛けて、遠からず破滅する事が決まっておる最低の女だ。気にする事は無い」
散々な言われようだった。それはそれで、そんな相手に転生して大丈夫なのだろうか。
「それから妾も鬼ではない。やるのであれば貴様に二つほど助けとなる物を授けてやろう」
「お、何ですか?」
「まずは妾の未来視の力を応用して、貴様が転生する相手が本来死ぬまでの間の記憶を授けてやる。つまり貴様はこれから転生する相手が知っている限り、世界で何が起こるか事前に知る事が出来る。それをどれほど活かせるかは貴様次第だがな。それともう一つ」
ロスヴァイゼは手を伸ばし私の瞼へと二本の指で触れた。
静電気のような、いやそれよりもずっと強く深い痛みが一瞬頭に走り、私はうめき声を上げる。
「い、今のは何を……」
「貴様に特別な目を授けてやった。人の能力を数字にして見る事が出来る。人間の頭の上辺りを見て意識を集中してみろ。モニターなどを通しても有効だから、あの世界で生きていくには役に立つであろう」
「ほえー、つまり誰が有能で無能か一目で分かるって事ですね」
「うむ。まずは試しに自分を見てみよ」
ロスヴァイゼが手を広げるとその手がわずかに輝き、小さな鏡が出現した。
鏡に私の顔が映る。私はその自分の顔の頭上に意識を集中してみた。
言われた通り、私の頭上に文字と数字が並ぶ。
統率39 戦略74 政治30
運営28 情報29 機動28
攻撃24 防御32 陸戦37
空戦19 白兵7 魅力75
「これって上限100ですか?」
「最大表記は255だが、人類の限界は100だな。70以上あれば一応はその道の専門家、80以上であればまず優秀な人材、90を超えれば稀有な才能だと思ってよい」
うーんなんか戦乱の世を生き抜くには微妙な能力。
ちゃんと体系だって軍事理論を学んだ訳でもないのにこれだけ戦略の数字があるのなら、ひょっとして凄いのかも知れないが。
それと魅力が75もあるのはちょっと嬉しい。
「まあ、あくまで今の時点の能力であって教育や経験でも伸びる物であるからあまり絶対視もするな。それでも誰の助言を聞き、誰を重用すべきかの目安にはなるであろう」
自分で宇宙艦隊を率いて大活躍、と言うのは取り敢えずは難しそうだった。
それから私は目の前のロスヴァイゼの頭上にも意識を集中してみた。
統率9 戦略5 政治3
運営8 情報9 機動8
攻撃4 防御12 陸戦17
空戦15 白兵255 魅力125
「……」
石器時代の勇者だった。
いや、白兵が個人の強さで陸戦が陸戦指揮能力だとするとこれはそれ以下か……
ただの女子高生でしかない私よりも統率や政治や運営が低いって言うのは神様としてどうなんだ。
と言うか政治3って……3って……
そして魅力125もあるのかよ。
「それと妾も貴様の事は一応見守ってやってやる。困った事があれば呼び掛けてみよ。物によっては相談に乗ってやる」
「はーい……」
取り敢えず戦略とかに関しては彼女に相談はすまい、と私は心に決めた。
「さて、一応聞いておいてやるが、やると言う事で良いな?」
ロスヴァイゼがそう言うと星図が消え、代わりに彼女の横に直径2mほどの渦巻く光の円が現れた。
「やらなきゃ消えるんじゃ仕方ないでしょー……失敗しても向こうの人類と一緒に消えるだけならやって見るだけ得ですし」
「前向きなのは良い事だ。そしてもう一つだけ教えておいてやろう。もし貴様が自分の罪を思い出し、そして罪を償うだけの働きをした時は、この私が貴様の願いを可能な限り一つだけ叶えてやろう」
「それは、例えば、元の世界に戻りたい、とかでも?」
「貴様が望むなら貴様が死んだ事を無かった事にして、元の世界に送り返してやる。やるべき事を全てやった後でなら、だが」
「だいぶやる気出て来ました」
一度死んでしまったのに、異世界でもう一度生きられ、しかもそこで自分の役目を上手くこなせれば元の世界で生き返れるかもしれない。
憶えてもいない罪の償いをしろと言うのは納得は行かないが、しかしそこに目を瞑ればあまりひどい目に合っている訳ではないのではないか。
ここは、自分が置かれた状況をまずは楽しむ事を目指してみよう。いつだって前向きなのが私の取り柄だ。
そう思い、私は光の円に向かって踏み出す。
「お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください。でもきっと帰ってくるので、少しの間だけ待っててね」
その言葉を残して、光の円をくぐった。
私の前に光と共に現れた女性は開口一番、横柄な口調でそう言った。
「いや、あなた誰ですか?と言うかここはどこ?」
私は首をひねりながら女性を、ついで周囲を見回した。
周りは白く輝くだけで、前後左右どこを見回しても壁も何も無い世界だ。いや、それだけでなく天井も、床すらない。
そして目の前にいるのは金髪で白い肌をして、その肌よりもさらに白い、一体どうやって体に繋ぎとめているのか分からない不思議な服でグラマラスな体を隠した、人間離れした美貌と気品を持つ女性。
目の錯覚なのか、彼女自身が輝いている様にすら見える。
女神と言う者が現実にいるならまさにこのような存在だろう。
しかしその秀麗な顔が作る表情はえらくふてぶてしく、尊大さがありありと見えていて、とても女神らしい慈愛などは皆無だった。
「妾の名はロスヴァイゼ。死後の人間の魂を導く役目を負った女神である」
「えぇ……私死んだの?いつのまに……?」
そう言って私は自分の直前の記憶を思い出そうとしていた。確かバスに乗って学校にいこうとしてたはずだったが……シートに座った所でうとうとしてしまい……
「ああ、貴様は死んだ。乗っていたバスが事故に合い、眠ったまま事故にも気付かずな」
ロスヴァイゼと名乗った女性は淡々とした、しかしどこか意地悪そうな口調で答える。
「そんなあ……私まだ十七ですよ。人生これからって時ですよ。まだまだ読みたい本もやりたいゲームもいっぱいあったんですよ。何とかならないんですか。後、罪ってどういう事ですか。私そんな悪い事した憶えありませんよ?」
「貴様は気付かない内に前世である大罪を犯していたのだ。これからそれを償うためにある世界に行って仕事をしてもらう。最初に言っておくが拒否権はほとんど無いと思え。拒否したらそのまま消滅するだけだからな」
「い、いやいやいや、いくら何でも理不尽過ぎません!?犯した罪の憶えも無いのに償えってどう言う事ですか!?後、ある世界って一体どこですか!?」
「世界の説明はしてやるから少し黙れ」
ロスヴァイゼは半ばバカにするような、そして残りの半分は憐れむような視線をこちらに向け、それから右手で何も無い空間を撫でた。
空間に無数の光点が立体的に浮かぶ。どうやらその光点一つ一つが星を現していて、宇宙の一部を切り取った星図らしい。
それからその星図が赤と青の二色に色分けされた。
「人類が太陽系外に進出してからはや幾星霜。宇宙は地球から遠く離れた開拓惑星で誕生した新興の専制君主国家、神聖ルッジイタ帝国と、太陽系を中心とした星系連盟の二大勢力に二分されておる」
「どっかで聞いたような設定ですね……」
「そしてそれぞれの勢力に時同じくして一人ずつ天才が現れた」
「どっかで聞いたような設定ですね!?」
「だから少し黙っておれ」
ロスヴァイゼはもう一度、今度は苛立たし気にそう言う。私はあわてて口を閉じた。
私が黙ったのを確認してからロスヴァイゼはまた指で何も無い空間をなぞる。
「これが帝国歴三四〇年の情勢だ」
ロスヴァイゼの声に合わせて、星系図の光点の色が激しく変わり始めた。星の色が赤になったり青になったりしている。時に赤が広がり、また時に青がそれを押し返す。赤と青以外に黄色や緑と言う色が現れて星々を染める事もあったが、それらは赤と青に押しつぶされて最後には消えていく。
宇宙が二色に戻った後も、どちらの色も激しく相手の星を取り合いながら、それでも互いに決め手を欠き、膠着状態が続く。
まるでストラテジーゲームの全体図を早送りで見ているようだった。いや、これは恐らく実際に、宇宙での星の奪い合いと言う形を取った戦争の記録なのだろう。
そしてそれは突然に現れた。
宇宙の中心近くに一点の黒い色が現れ、赤も青も関係無く、侵食し、呑み込んで行く。
赤と青もたまに星を取り返しているが、全体的に圧倒的な黒の勢いの前にはその抵抗は無に等しい。
そして宇宙が黒一色に染まった所で、星図の動きは止まった。
「どう見た?」
ロスヴァイゼがこちらを試すように訪ねて来る。
「えーっと、帝国と連盟が戦って途中で双方大規模な内戦が起きたりもしたけど、結局泥沼の戦いが長く続いて、どちらも疲弊した所で突然現れた第三勢力が漁夫の利で勝ち残った?」
「うむ。概ね正解だ」
「あの黒い第三勢力は何だったんです?」
「分からん」
「えっ」
「妾の力で未来を覗いてみても、この辺りははっきりした事は分からんのだ。ただ、人類ではない、別の何か危機となる存在が帝国歴三四五年頃に現れる事は確かだ。何しろ黒い勢力が宇宙を統一した時点で人類は滅びているのだからな」
「つまり異星人とか?」
「かも知れん」
「二人の天才はどうなったんです?」
「巡り合わせが悪かったのか、同時に二人現れたのがまずかったのか、卓越した戦果を残した物の、どちらも十全に実力を発揮し得る事は出来ず、それぞれ途中で若くして死んだ。危機が現れる時まで生きておれば、また何か変わったのかも知れんがな」
「そっかあ……」
寂しい物だが歴史とはそう言う物かもしれない。
「そこで貴様にはこれからこの世界に転生し、その二人を始めとした両勢力の有能な人材をなるべく死なせず、国力も温存したまま、最長でも五年でこの宇宙が危機を迎え撃てる態勢を作ってもらう。それが出来なければ恐らく人類はやって来る危機を乗り切れん」
「ええええ……それって普通に武力統一するより難しくありません?しかも五年って……」
あのチートで有名な光武帝だって独立してから中華を統一するのに十三年も掛かったのだ。中国大陸が広いと言うのなら宇宙はなお広いではないか。
「貴様ぶっちゃけ好きであろう?こう言うの」
「いや、まあ好きですけど……」
私は何故か子どもの頃から戦争に関わる歴史や戦略論が好きだった。
小学生の頃から歴史小説や架空戦記小説を読み漁り、それから古典の兵法や現代の軍事思想へと興味を段々とシフトさせていった。
多分あまりいないんじゃないかな。毎月のお小遣いの大半を中央×論新社や原×房や芙×書房の本を買い込む事に費やしてる女子高生とか(分かる人だけ笑ってやってください)。
ストラテジーゲームも大好きだし、自分で軍隊を指揮する妄想をする事だってしょっちゅうだ……こう書くとだいぶ変な女の子だな私。
でもだからと言って銀河を股にかけた宇宙戦争の世界に乗り込んで無双出来ると思うほど私は自分にうぬぼれてはいなかった。
「ちなみに貴様が転生するのは本来ならこの世界の歴史を悪い方にしか転がさない帝国史上最凶最悪の令嬢との異名を持つ悪女だ。地位と影響力だけは無駄にあるから、まあやりようはあるだろう」
「それってつまり他人の体を乗っ取るって事ですか?何か気が咎めるんですけど」
「どうせこのまま生きていても世の役に立たないどころか周りに迷惑をかけるだけ掛けて、遠からず破滅する事が決まっておる最低の女だ。気にする事は無い」
散々な言われようだった。それはそれで、そんな相手に転生して大丈夫なのだろうか。
「それから妾も鬼ではない。やるのであれば貴様に二つほど助けとなる物を授けてやろう」
「お、何ですか?」
「まずは妾の未来視の力を応用して、貴様が転生する相手が本来死ぬまでの間の記憶を授けてやる。つまり貴様はこれから転生する相手が知っている限り、世界で何が起こるか事前に知る事が出来る。それをどれほど活かせるかは貴様次第だがな。それともう一つ」
ロスヴァイゼは手を伸ばし私の瞼へと二本の指で触れた。
静電気のような、いやそれよりもずっと強く深い痛みが一瞬頭に走り、私はうめき声を上げる。
「い、今のは何を……」
「貴様に特別な目を授けてやった。人の能力を数字にして見る事が出来る。人間の頭の上辺りを見て意識を集中してみろ。モニターなどを通しても有効だから、あの世界で生きていくには役に立つであろう」
「ほえー、つまり誰が有能で無能か一目で分かるって事ですね」
「うむ。まずは試しに自分を見てみよ」
ロスヴァイゼが手を広げるとその手がわずかに輝き、小さな鏡が出現した。
鏡に私の顔が映る。私はその自分の顔の頭上に意識を集中してみた。
言われた通り、私の頭上に文字と数字が並ぶ。
統率39 戦略74 政治30
運営28 情報29 機動28
攻撃24 防御32 陸戦37
空戦19 白兵7 魅力75
「これって上限100ですか?」
「最大表記は255だが、人類の限界は100だな。70以上あれば一応はその道の専門家、80以上であればまず優秀な人材、90を超えれば稀有な才能だと思ってよい」
うーんなんか戦乱の世を生き抜くには微妙な能力。
ちゃんと体系だって軍事理論を学んだ訳でもないのにこれだけ戦略の数字があるのなら、ひょっとして凄いのかも知れないが。
それと魅力が75もあるのはちょっと嬉しい。
「まあ、あくまで今の時点の能力であって教育や経験でも伸びる物であるからあまり絶対視もするな。それでも誰の助言を聞き、誰を重用すべきかの目安にはなるであろう」
自分で宇宙艦隊を率いて大活躍、と言うのは取り敢えずは難しそうだった。
それから私は目の前のロスヴァイゼの頭上にも意識を集中してみた。
統率9 戦略5 政治3
運営8 情報9 機動8
攻撃4 防御12 陸戦17
空戦15 白兵255 魅力125
「……」
石器時代の勇者だった。
いや、白兵が個人の強さで陸戦が陸戦指揮能力だとするとこれはそれ以下か……
ただの女子高生でしかない私よりも統率や政治や運営が低いって言うのは神様としてどうなんだ。
と言うか政治3って……3って……
そして魅力125もあるのかよ。
「それと妾も貴様の事は一応見守ってやってやる。困った事があれば呼び掛けてみよ。物によっては相談に乗ってやる」
「はーい……」
取り敢えず戦略とかに関しては彼女に相談はすまい、と私は心に決めた。
「さて、一応聞いておいてやるが、やると言う事で良いな?」
ロスヴァイゼがそう言うと星図が消え、代わりに彼女の横に直径2mほどの渦巻く光の円が現れた。
「やらなきゃ消えるんじゃ仕方ないでしょー……失敗しても向こうの人類と一緒に消えるだけならやって見るだけ得ですし」
「前向きなのは良い事だ。そしてもう一つだけ教えておいてやろう。もし貴様が自分の罪を思い出し、そして罪を償うだけの働きをした時は、この私が貴様の願いを可能な限り一つだけ叶えてやろう」
「それは、例えば、元の世界に戻りたい、とかでも?」
「貴様が望むなら貴様が死んだ事を無かった事にして、元の世界に送り返してやる。やるべき事を全てやった後でなら、だが」
「だいぶやる気出て来ました」
一度死んでしまったのに、異世界でもう一度生きられ、しかもそこで自分の役目を上手くこなせれば元の世界で生き返れるかもしれない。
憶えてもいない罪の償いをしろと言うのは納得は行かないが、しかしそこに目を瞑ればあまりひどい目に合っている訳ではないのではないか。
ここは、自分が置かれた状況をまずは楽しむ事を目指してみよう。いつだって前向きなのが私の取り柄だ。
そう思い、私は光の円に向かって踏み出す。
「お父さん、お母さん、先立つ不孝をお許しください。でもきっと帰ってくるので、少しの間だけ待っててね」
その言葉を残して、光の円をくぐった。
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