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第一章 双星(小型浸透怪獣ギラル 突撃衝角怪獣ザンダ 近接火砲怪獣ガンガル 登場)
接触~あるいは果たしてニューナンブで殺せる生き物は怪獣と呼べるのだろうかと言う疑問は残る~
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派出所から出た先で目に映るのは、ジャージ姿で歩道に座り込んでいる中学生か高校生程度の女の子と、その子を守るように吠え立てているリード付きの犬。
その犬が吠える先にそれはいた。
発達した肩を軸にするようにして、異常に大きく膨らんだ上半身とそれとは対照的にどこか貧相な下半身のシルエット。
全身はうろこと毛皮でまばらに覆われ、顔には目も耳も無く、ただ鋭い牙が不揃いに並ぶ巨大な口だけが開いている。
そして何よりも長く伸びた両手の先の鋭い爪が、本能に訴えかける危険性を放っている。
「な……何、あの生き物は……?」
亜美は唖然とした、半ば怯えたような表情でそう呟いた。
目の前のこの生物は確かに今の人類にとっては当然未知の存在だが、和樹は無論この生物を知っている。
小型浸透怪獣ギラル。後にそう命名される、人類が初遭遇する事になる怪獣で、この先も幾度となく地上に何体も送り込まれて来る異星人にとっての歩兵に当たる怪獣だ。
その事自体は、和樹は知っている。
だがそれでも、和樹も亜美と同じように驚愕せざるを得なかった。
(どうしてこいつがこのタイミングでここに出るんだ!?こいつが出るのは一時間後、勇と雪奈の通学路でだろ!?)
ゲーム中でそれが人類と怪獣との初接触だと明言されている。
ゲーム中に描写されていない設定でも、それより前に怪獣がこの街に出現していた、などと言う事実は無かったはずだ。
正確には遥か有史以前に接触らしきものはあったようだが、今はそれは関係無い。
和樹が知っているよりも、前倒しのタイミングで怪獣が出現してしまったと言う事になる。
(俺が知っているゲームと同じ世界じゃないのか?いや、それよりも……)
一時間掛けてこのギラルを倒す手段を考えて準備するつもりだったのに、何も準備できていない内に突然現れてしまった。
しかも目の前で女の子が襲われている。
一体どうすれば。そう考え込み、一瞬逡巡した和樹よりも、亜美の行動は果敢で、迅速で、そして無謀だった。
「やめ……なさい!」
亜美は特殊警棒を抜き放つと、背後からギラルに勢いよく打ち掛かった。
警察官である以上当然彼女も剣道の有段者である。本気で加減無しで打ち掛かれば、それだけで相手を殺しかねない威力だろう。
相手が人間ならば、だが。
このギラル相手に警棒で背中を殴る程度では、せいぜい気を引く程度の事しか出来ない。
和樹はそれを知っていた。翔がゲーム中でほとんど同じ事をしていたからだ。
亜美に打ち掛かられたギラルが振り向き、獲物を変えるようにして亜美へと爪を振り被る。
全く怯みもしない相手に思わず立ち竦んでしまったのか、亜美は身を固くすると咄嗟に警棒を盾にするように構えた。
警棒程度では、ギラルの爪を防ぐ事は出来ない。警棒がへし折られ、致命傷を受ける事になる。
和樹はそれも知っている。やはりそこまでが翔が取った行動と一緒だからだ。
だからどうにか、ギラルの爪が亜美に届く前に、和樹は横から彼女に飛び付き、それをかわさせる事が出来た。
「危ない亜美さん!」
二人でもつれるようにして道路に転がる。それから和樹は咄嗟に亜美を庇うようにして立ち上がった。
本物の和樹と比べれば、体の動きは恐ろしく軽快だった。元の肉体スペックが違うのだろう。
ギラルは完全にこちらを標的に替えたかのように、不気味な唸り声を上げながら和樹と亜美を睨んでいる。
「しょ、翔君」
突然飛びつかれて目を回したのか、ふら付きながらそれでも亜美も立ち上がった。
「警棒じゃ無理だ。発砲を躊躇わないで」
そう言って和樹は拳銃を抜いた。
「え、ええ。だけどあの生き物、拳銃が効くかしら」
亜美も拳銃を抜きながらそう呟く。さすがに一度でギラルの危険性を理解したらしい。
「多分熊みたいなものだよ。狙いどころによっては、効く」
翔が戦った時は致命傷を負いながらも至近距離から口の中に何発か撃ち込む事でどうにか殺せた描写があった。
同じ事を狙うしかないだろう。ただこちらが攻撃を受けないようにそれを再現するのは至難の業だ。
「狙うとしたら、口ね。それも至近距離から」
亜美は青ざめた顔で、震えた声で、それでも冷静に呟いた。
「ああ。だけど上手く撃ち込めるかどうか。下手に近付くとこっちが危ない」
「それでも私達でどうにかしないと。こんな怪物を街の中で暴れさせられない」
この女、正体不明の怪物を前にしていると言うのに、警察官としての責任感に溢れすぎている。
翔もそうだったがこの街の警察官には市民を見捨てると言う発想は無いようだ。
こうなると一人で逃げる訳にもいかないので和樹も覚悟を決めた。
ここで拳銃を使ってしまって大丈夫だろうか、とも思ったが、そんな事を気にしていられる状況では無かった。
「とどめは僕が差す。君は隙を作ってくれ」
そう言いながら和樹は射線に女の子を入れないように少し移動した。亜美もそれに倣いながら頷く。
翔も亜美も、射撃の成績は際立って優秀のはずだった。ただ当然、今まで生き物を相手にして撃った事は無い。
ギラルが咆哮を上げると、半ば跳躍するようにして飛び掛かって来た。和樹は一歩前に出て拳銃を構える。しかし、まだ撃つ事はしない。
和樹の横で亜美が連続して引き金を引いた。ぎりぎりまで引き付けてから、しかも頭だけを狙っている。
パニックを起こして無茶苦茶に発砲してもおかしくない状況で、思わず称賛したくなるような冷静さと銃の腕だった。
和樹を爪で薙ぎ払おうとしたギラルが、頭部に銃弾を受けてのけぞった。
拳銃を頭に数発撃ち込まれてもギラルには致命傷にならないが、それでもさすがに怯みはする。
そしてギラルが体勢を立て直し、再び頭をこちらに向けた時、和樹はさらに踏み込んでそこに拳銃を突き付けていた。
「上手い、亜美さん」
ギラルが怒りの咆哮を上げるタイミングで引き金を引く。一発、二発、三発。
自分でも驚くほどに冷静に何発撃てばギラルが死ぬかを測っている自分がいた。
(いくらゲームで経験してる世界だからって冷静過ぎないか?俺も。命が掛かってるかもしれないんだぞ)
自分は果たしてここまで肝が据わった人間だったろうか。そう疑問に思いながら、和樹は口から緑色の血を吐き出し、絶叫を上げるギラルの腹を思いっ切り蹴り付けた。
ギラルはそのまま倒れ、ぴくぴくと全身を動かしていたが、それでもやがて力尽きて動きを止める。
「死んだ……の?」
拳銃を握り締めたまま、亜美が呆然とした口調で呟く。ギラルが倒れた事で責任感で覆っていた恐怖が戻って来たのか、足がガクガクと震えていた。
「多分。けど油断しないでくれ。起き上がってくるかもしれないし、この一匹だけじゃないかもしれない」
あまり冷静な態度になり過ぎないように注意しながらそう言い、和樹は拳銃をホルスターに戻した。
「え、ええ。けどこの生き物は一体……」
「分からない。ひとまず署に連絡を取って応援を呼んだ方がいいと思う。多分これは人間を簡単に殺せる生き物だよ。もし他にもいたら大変な事になる」
和樹がそう言うと亜美は慌てて無線で署に連絡を取り始めた。
それを見ながら和樹は襲われていた女の子と犬の方に声を掛ける。幸いどちらも怪我はなかったようだ。
(ひとまず何とかなったか……しかもこれは割と悪い展開じゃないんじゃないか?)
これで怪獣の存在もその危険性も最低限はこの街の警察に伝えられる。
怪獣の存在を知り、銃を持った警官が街に何人もいれば、多少の犠牲は出るかも知れないが、仮に次のギラルが出たとしても倒せる可能性は高いだろう。それに、和樹も予備の弾丸を支給してもらえるかもしれない。
翔の記憶の中のこの街の警察署長は、少なくとも頑迷だったり無能だったりする人物ではなかった。
ここは残り時間でこの街の警察を出来る限り動かして、彼らに勇と雪奈を守ってもらう方針で行こう……
和樹がそう思った時、その考えを嘲笑うようにして次の異変が起こった。
その犬が吠える先にそれはいた。
発達した肩を軸にするようにして、異常に大きく膨らんだ上半身とそれとは対照的にどこか貧相な下半身のシルエット。
全身はうろこと毛皮でまばらに覆われ、顔には目も耳も無く、ただ鋭い牙が不揃いに並ぶ巨大な口だけが開いている。
そして何よりも長く伸びた両手の先の鋭い爪が、本能に訴えかける危険性を放っている。
「な……何、あの生き物は……?」
亜美は唖然とした、半ば怯えたような表情でそう呟いた。
目の前のこの生物は確かに今の人類にとっては当然未知の存在だが、和樹は無論この生物を知っている。
小型浸透怪獣ギラル。後にそう命名される、人類が初遭遇する事になる怪獣で、この先も幾度となく地上に何体も送り込まれて来る異星人にとっての歩兵に当たる怪獣だ。
その事自体は、和樹は知っている。
だがそれでも、和樹も亜美と同じように驚愕せざるを得なかった。
(どうしてこいつがこのタイミングでここに出るんだ!?こいつが出るのは一時間後、勇と雪奈の通学路でだろ!?)
ゲーム中でそれが人類と怪獣との初接触だと明言されている。
ゲーム中に描写されていない設定でも、それより前に怪獣がこの街に出現していた、などと言う事実は無かったはずだ。
正確には遥か有史以前に接触らしきものはあったようだが、今はそれは関係無い。
和樹が知っているよりも、前倒しのタイミングで怪獣が出現してしまったと言う事になる。
(俺が知っているゲームと同じ世界じゃないのか?いや、それよりも……)
一時間掛けてこのギラルを倒す手段を考えて準備するつもりだったのに、何も準備できていない内に突然現れてしまった。
しかも目の前で女の子が襲われている。
一体どうすれば。そう考え込み、一瞬逡巡した和樹よりも、亜美の行動は果敢で、迅速で、そして無謀だった。
「やめ……なさい!」
亜美は特殊警棒を抜き放つと、背後からギラルに勢いよく打ち掛かった。
警察官である以上当然彼女も剣道の有段者である。本気で加減無しで打ち掛かれば、それだけで相手を殺しかねない威力だろう。
相手が人間ならば、だが。
このギラル相手に警棒で背中を殴る程度では、せいぜい気を引く程度の事しか出来ない。
和樹はそれを知っていた。翔がゲーム中でほとんど同じ事をしていたからだ。
亜美に打ち掛かられたギラルが振り向き、獲物を変えるようにして亜美へと爪を振り被る。
全く怯みもしない相手に思わず立ち竦んでしまったのか、亜美は身を固くすると咄嗟に警棒を盾にするように構えた。
警棒程度では、ギラルの爪を防ぐ事は出来ない。警棒がへし折られ、致命傷を受ける事になる。
和樹はそれも知っている。やはりそこまでが翔が取った行動と一緒だからだ。
だからどうにか、ギラルの爪が亜美に届く前に、和樹は横から彼女に飛び付き、それをかわさせる事が出来た。
「危ない亜美さん!」
二人でもつれるようにして道路に転がる。それから和樹は咄嗟に亜美を庇うようにして立ち上がった。
本物の和樹と比べれば、体の動きは恐ろしく軽快だった。元の肉体スペックが違うのだろう。
ギラルは完全にこちらを標的に替えたかのように、不気味な唸り声を上げながら和樹と亜美を睨んでいる。
「しょ、翔君」
突然飛びつかれて目を回したのか、ふら付きながらそれでも亜美も立ち上がった。
「警棒じゃ無理だ。発砲を躊躇わないで」
そう言って和樹は拳銃を抜いた。
「え、ええ。だけどあの生き物、拳銃が効くかしら」
亜美も拳銃を抜きながらそう呟く。さすがに一度でギラルの危険性を理解したらしい。
「多分熊みたいなものだよ。狙いどころによっては、効く」
翔が戦った時は致命傷を負いながらも至近距離から口の中に何発か撃ち込む事でどうにか殺せた描写があった。
同じ事を狙うしかないだろう。ただこちらが攻撃を受けないようにそれを再現するのは至難の業だ。
「狙うとしたら、口ね。それも至近距離から」
亜美は青ざめた顔で、震えた声で、それでも冷静に呟いた。
「ああ。だけど上手く撃ち込めるかどうか。下手に近付くとこっちが危ない」
「それでも私達でどうにかしないと。こんな怪物を街の中で暴れさせられない」
この女、正体不明の怪物を前にしていると言うのに、警察官としての責任感に溢れすぎている。
翔もそうだったがこの街の警察官には市民を見捨てると言う発想は無いようだ。
こうなると一人で逃げる訳にもいかないので和樹も覚悟を決めた。
ここで拳銃を使ってしまって大丈夫だろうか、とも思ったが、そんな事を気にしていられる状況では無かった。
「とどめは僕が差す。君は隙を作ってくれ」
そう言いながら和樹は射線に女の子を入れないように少し移動した。亜美もそれに倣いながら頷く。
翔も亜美も、射撃の成績は際立って優秀のはずだった。ただ当然、今まで生き物を相手にして撃った事は無い。
ギラルが咆哮を上げると、半ば跳躍するようにして飛び掛かって来た。和樹は一歩前に出て拳銃を構える。しかし、まだ撃つ事はしない。
和樹の横で亜美が連続して引き金を引いた。ぎりぎりまで引き付けてから、しかも頭だけを狙っている。
パニックを起こして無茶苦茶に発砲してもおかしくない状況で、思わず称賛したくなるような冷静さと銃の腕だった。
和樹を爪で薙ぎ払おうとしたギラルが、頭部に銃弾を受けてのけぞった。
拳銃を頭に数発撃ち込まれてもギラルには致命傷にならないが、それでもさすがに怯みはする。
そしてギラルが体勢を立て直し、再び頭をこちらに向けた時、和樹はさらに踏み込んでそこに拳銃を突き付けていた。
「上手い、亜美さん」
ギラルが怒りの咆哮を上げるタイミングで引き金を引く。一発、二発、三発。
自分でも驚くほどに冷静に何発撃てばギラルが死ぬかを測っている自分がいた。
(いくらゲームで経験してる世界だからって冷静過ぎないか?俺も。命が掛かってるかもしれないんだぞ)
自分は果たしてここまで肝が据わった人間だったろうか。そう疑問に思いながら、和樹は口から緑色の血を吐き出し、絶叫を上げるギラルの腹を思いっ切り蹴り付けた。
ギラルはそのまま倒れ、ぴくぴくと全身を動かしていたが、それでもやがて力尽きて動きを止める。
「死んだ……の?」
拳銃を握り締めたまま、亜美が呆然とした口調で呟く。ギラルが倒れた事で責任感で覆っていた恐怖が戻って来たのか、足がガクガクと震えていた。
「多分。けど油断しないでくれ。起き上がってくるかもしれないし、この一匹だけじゃないかもしれない」
あまり冷静な態度になり過ぎないように注意しながらそう言い、和樹は拳銃をホルスターに戻した。
「え、ええ。けどこの生き物は一体……」
「分からない。ひとまず署に連絡を取って応援を呼んだ方がいいと思う。多分これは人間を簡単に殺せる生き物だよ。もし他にもいたら大変な事になる」
和樹がそう言うと亜美は慌てて無線で署に連絡を取り始めた。
それを見ながら和樹は襲われていた女の子と犬の方に声を掛ける。幸いどちらも怪我はなかったようだ。
(ひとまず何とかなったか……しかもこれは割と悪い展開じゃないんじゃないか?)
これで怪獣の存在もその危険性も最低限はこの街の警察に伝えられる。
怪獣の存在を知り、銃を持った警官が街に何人もいれば、多少の犠牲は出るかも知れないが、仮に次のギラルが出たとしても倒せる可能性は高いだろう。それに、和樹も予備の弾丸を支給してもらえるかもしれない。
翔の記憶の中のこの街の警察署長は、少なくとも頑迷だったり無能だったりする人物ではなかった。
ここは残り時間でこの街の警察を出来る限り動かして、彼らに勇と雪奈を守ってもらう方針で行こう……
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