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第一章 双星(小型浸透怪獣ギラル 突撃衝角怪獣ザンダ 近接火砲怪獣ガンガル 登場)
異変~あるいは計画は実戦では狂う物だがそれでも計画を立てる時間ぐらいは用意して欲しい~
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「そもそも何で兄貴の方になってるんだ。弟の方でいいだろ。いきなり死ぬキャラになって何をしろって言うんだよ……」
これが弟の方なら巨大ロボットで怪獣を蹴散らしつつ合間合間で美少女達との恋愛を楽しむ、苦労は多いが実りも多い青春生活を満喫できたのかもしれないが。
いっそ死亡イベントをスルーして主人公を見殺しにし、自分がその後釜になってロボットのパイロットになってしまうのはどうだろう、と一瞬和樹は考えたが、すぐに思い直した。
「難易度高いんだよなあ、それも……」
まず主人公である勇も兄とは別路線で結構な超人なのだ。初めて乗った巨大ロボットに順応する才能と、どんな困難にぶつかっても諦めない鋼メンタルの持ち主で、パイロットが彼で無ければ勝てなかった、と描写されている場面がゲーム中盤以降は何度もある。
本物の天藤翔ならひょっとしたら涼しい顔で弟の代わりも務めるのかもしれないが、中身は凡人の和樹にはそれをこなす自信は無かった。
そしてメタな視点でのゲーム自体の難易度も全体的に結構シビアだ。スターブレイバーはデータ的にはかなり終盤近くまで無敵と言っていい強さを誇るが、それでも一手間違えれば敗北条件に引っかかって容易くゲームオーバーになるステージが多い。
ゲームオーバーになった後この世界がどうなるのかは分からないが、大抵のステージは大勢の人間の生死が直接関わったミッションが課せられるので出来れば和樹はそんな役目は背負いたくない。
「それになあ……」
護星装甲スターブレイバーはかなり好きなゲームだったのだ。登場人物にも思い入れはある。出来れば主人公やヒロインを見殺しにするような事はしたくない、と言う思いもあった。
となるとやはり自分が死なないようにしながらそれ以外は上手くゲームの本筋のストーリーに乗るように立ち回るしかないか、と和樹はため息を吐いた。
方針を決めたからには具体的な行動計画を立てねばならない。
自分の死亡原因になる予定の小型怪獣だが、特に飛び道具は持っておらず、ゲーム中の設定では自動小銃を持った自衛隊員なら普通に殺せる程度の相手ではある。
自動小銃で殺せる生物を怪獣と呼んでいいのかは置いておいて、つまり正面から殺そうと思えば火力だけが問題な訳で、逆に言えばこれを相手に装弾数五発の警官用拳銃で挑むのは無謀としか言いようがない。
より強力な武器をどうにか用意するか、あるいは事前に同僚達を現場に誘導して数で相手をするか、それとも罠でも仕掛けるか。
勇とそのヒロインを助けるだけなら事件発生時に二人を現場から遠ざけてやればいいのかもしれないが、それをやると代わりに別の人間が犠牲になる可能性が高い。
ゲーム中ではたまたま近くに翔がいたからまだ最低限の犠牲で済んだが、もし人間側に予備知識が皆無な状態で住宅街で好きに暴れられれば、小型怪獣とは言え多大な犠牲で出るだろう。
正直自分に全く関係無いゲーム内のその他大勢の犠牲まで面倒は見てられないが、自分の選択のせいで犠牲者が増える、と言うのはさすがに気分が悪い。
そして何よりそれをした場合この後のゲーム展開にどんな影響が及ぶのかいまいちはっきりしない。
そもそも時間的猶予はどれぐらいあるのだろう、と和樹は時計を見直した。時刻は朝の六時半。
ゲーム内で最初の怪獣が出現するのは勇が幼馴染と共に通学している最中の事だから、後一時間ほどだろうか。
何かあの小型怪獣を楽に倒せる手段は、と考えながら和樹が着替えていると、仮眠室をノックする音と女性の声が同時に聞こえた。
「翔君?目覚ましの音は聞こえたけど起きてる?」
「あ……ああ。大丈夫、起きてるよ。少し待ってくれ」
咄嗟にそう返事しながら自分の中の天藤翔の記憶を呼び起こし、和樹は仮眠室の戸をこちらから開けた。
戸を開けた先には翔と同年代であろう端正で真面目な、しかし優しげな顔つきの女性警官がいた。やや長めの髪をポニーテールにまとめている。
彼女は斎藤亜美。翔の同期の女性警官だ。
普段は署に勤務しているが、今は人手不足を補うためにこの交番に交代要員として来ている。
ゲーム中では翔の死後に交番に行けば会える固有顔グラフィックが付いているだけのモブキャラだったが、翔にとっては当然生身の人間だったらしく、名前を始めとしてゲーム内では明かされなかった情報も記憶として浮かび上がってくる。
見た目通りの真面目かつ優しい性格で、同僚や近隣住人からの評判もいい、翔に負けない理想的な警察官だった。
おまけに美人で良く見ればスタイルも良いと言う、モブキャラにしておくには勿体ない女の子でもある。
同期だけあって翔とも仲が良く、互いに下の名前で呼び合う関係のようだった。
「どうしたの?変な顔をして。翔君が寝坊なんて珍しいけど、何かあった?」
亜美の顔を見て色々と考え込んでいるのがばれたのか、不思議そうに亜美が首を傾げた。普段は年齢相応の落ち着きを見せている彼女だが、この動作を取ると途端に幼い印象を見せる。
「いや、何でもないよ。少し仮眠中におかしな夢を見てただけさ。済まない」
スケジュールに従えばこれから彼女に派出所を任せて、自分は立番として通勤通学を見守る仕事に入る。
さて、このままさっさと立番に入って独力で小型怪獣を倒す準備を整えるか、それともまず彼女をどうにか巻き込んで味方にしてしまうべきか。
少なくとも彼女は人格も能力も信用は出来る人物であるし、今は派出所勤務であるから当然拳銃を携帯してもいる。
いきなり怪獣が出ると言っても信じてはくれないだろうが、何かしら理由を付けて怪獣が出現する現場に居合わせるように仕向ければ、恐らく戦力になってくれるだろう。
二人掛かりで戦えば何とか誰も死なずに済むかもしれない……
和樹がそこまで考えて亜美に次の言葉を発しようとした時、異変は起こった。
つんざくような悲鳴。犬の吠え声。そして犬とは別の何かの唸り声。
何事か、と和樹が思い立ち上がりかけた時には亜美はもうこちらに背を向け外に駆け出していた。
慌てて和樹もそれを追う。
これが弟の方なら巨大ロボットで怪獣を蹴散らしつつ合間合間で美少女達との恋愛を楽しむ、苦労は多いが実りも多い青春生活を満喫できたのかもしれないが。
いっそ死亡イベントをスルーして主人公を見殺しにし、自分がその後釜になってロボットのパイロットになってしまうのはどうだろう、と一瞬和樹は考えたが、すぐに思い直した。
「難易度高いんだよなあ、それも……」
まず主人公である勇も兄とは別路線で結構な超人なのだ。初めて乗った巨大ロボットに順応する才能と、どんな困難にぶつかっても諦めない鋼メンタルの持ち主で、パイロットが彼で無ければ勝てなかった、と描写されている場面がゲーム中盤以降は何度もある。
本物の天藤翔ならひょっとしたら涼しい顔で弟の代わりも務めるのかもしれないが、中身は凡人の和樹にはそれをこなす自信は無かった。
そしてメタな視点でのゲーム自体の難易度も全体的に結構シビアだ。スターブレイバーはデータ的にはかなり終盤近くまで無敵と言っていい強さを誇るが、それでも一手間違えれば敗北条件に引っかかって容易くゲームオーバーになるステージが多い。
ゲームオーバーになった後この世界がどうなるのかは分からないが、大抵のステージは大勢の人間の生死が直接関わったミッションが課せられるので出来れば和樹はそんな役目は背負いたくない。
「それになあ……」
護星装甲スターブレイバーはかなり好きなゲームだったのだ。登場人物にも思い入れはある。出来れば主人公やヒロインを見殺しにするような事はしたくない、と言う思いもあった。
となるとやはり自分が死なないようにしながらそれ以外は上手くゲームの本筋のストーリーに乗るように立ち回るしかないか、と和樹はため息を吐いた。
方針を決めたからには具体的な行動計画を立てねばならない。
自分の死亡原因になる予定の小型怪獣だが、特に飛び道具は持っておらず、ゲーム中の設定では自動小銃を持った自衛隊員なら普通に殺せる程度の相手ではある。
自動小銃で殺せる生物を怪獣と呼んでいいのかは置いておいて、つまり正面から殺そうと思えば火力だけが問題な訳で、逆に言えばこれを相手に装弾数五発の警官用拳銃で挑むのは無謀としか言いようがない。
より強力な武器をどうにか用意するか、あるいは事前に同僚達を現場に誘導して数で相手をするか、それとも罠でも仕掛けるか。
勇とそのヒロインを助けるだけなら事件発生時に二人を現場から遠ざけてやればいいのかもしれないが、それをやると代わりに別の人間が犠牲になる可能性が高い。
ゲーム中ではたまたま近くに翔がいたからまだ最低限の犠牲で済んだが、もし人間側に予備知識が皆無な状態で住宅街で好きに暴れられれば、小型怪獣とは言え多大な犠牲で出るだろう。
正直自分に全く関係無いゲーム内のその他大勢の犠牲まで面倒は見てられないが、自分の選択のせいで犠牲者が増える、と言うのはさすがに気分が悪い。
そして何よりそれをした場合この後のゲーム展開にどんな影響が及ぶのかいまいちはっきりしない。
そもそも時間的猶予はどれぐらいあるのだろう、と和樹は時計を見直した。時刻は朝の六時半。
ゲーム内で最初の怪獣が出現するのは勇が幼馴染と共に通学している最中の事だから、後一時間ほどだろうか。
何かあの小型怪獣を楽に倒せる手段は、と考えながら和樹が着替えていると、仮眠室をノックする音と女性の声が同時に聞こえた。
「翔君?目覚ましの音は聞こえたけど起きてる?」
「あ……ああ。大丈夫、起きてるよ。少し待ってくれ」
咄嗟にそう返事しながら自分の中の天藤翔の記憶を呼び起こし、和樹は仮眠室の戸をこちらから開けた。
戸を開けた先には翔と同年代であろう端正で真面目な、しかし優しげな顔つきの女性警官がいた。やや長めの髪をポニーテールにまとめている。
彼女は斎藤亜美。翔の同期の女性警官だ。
普段は署に勤務しているが、今は人手不足を補うためにこの交番に交代要員として来ている。
ゲーム中では翔の死後に交番に行けば会える固有顔グラフィックが付いているだけのモブキャラだったが、翔にとっては当然生身の人間だったらしく、名前を始めとしてゲーム内では明かされなかった情報も記憶として浮かび上がってくる。
見た目通りの真面目かつ優しい性格で、同僚や近隣住人からの評判もいい、翔に負けない理想的な警察官だった。
おまけに美人で良く見ればスタイルも良いと言う、モブキャラにしておくには勿体ない女の子でもある。
同期だけあって翔とも仲が良く、互いに下の名前で呼び合う関係のようだった。
「どうしたの?変な顔をして。翔君が寝坊なんて珍しいけど、何かあった?」
亜美の顔を見て色々と考え込んでいるのがばれたのか、不思議そうに亜美が首を傾げた。普段は年齢相応の落ち着きを見せている彼女だが、この動作を取ると途端に幼い印象を見せる。
「いや、何でもないよ。少し仮眠中におかしな夢を見てただけさ。済まない」
スケジュールに従えばこれから彼女に派出所を任せて、自分は立番として通勤通学を見守る仕事に入る。
さて、このままさっさと立番に入って独力で小型怪獣を倒す準備を整えるか、それともまず彼女をどうにか巻き込んで味方にしてしまうべきか。
少なくとも彼女は人格も能力も信用は出来る人物であるし、今は派出所勤務であるから当然拳銃を携帯してもいる。
いきなり怪獣が出ると言っても信じてはくれないだろうが、何かしら理由を付けて怪獣が出現する現場に居合わせるように仕向ければ、恐らく戦力になってくれるだろう。
二人掛かりで戦えば何とか誰も死なずに済むかもしれない……
和樹がそこまで考えて亜美に次の言葉を発しようとした時、異変は起こった。
つんざくような悲鳴。犬の吠え声。そして犬とは別の何かの唸り声。
何事か、と和樹が思い立ち上がりかけた時には亜美はもうこちらに背を向け外に駆け出していた。
慌てて和樹もそれを追う。
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