12 / 495
チャプター2:タブル・カラー・ティーブレイクウォー
スペシャルランク・グリーンティー・アドベント
しおりを挟む
再誕歴7700年ノーベンバー27日。
ベルモンド伯爵邸3階ベルモンド伯爵の執務室。
ベルモンド伯爵は自分の椅子に座る。
机を挟んでフェザーとサン、 そしてキャタラとピラ。
フローラ、 アンテイア、 クローリス、 マルガレーテが並んでいた。
「役所から連絡は来たから大体の事情は知って居る、 が決闘の前に一言欲しかった」
「それは申し訳ありませんでした父上
ですが挑発されたのです誇りの為にも決闘を受けましょう」
「そうだな・・・最近はジョンの弟のジャンが何やら悪だくみをしているようだから牽制になるだろう
フェザー、 殺さない程度に力を見せつけてやれ」
「了解しました、 所で何だか人が多く無いですか?」
「それか・・・まぁ私も色々と考えている訳だよ」
「?」
首を傾げるフェザー。
「我が家の誇りを守ってくれる者に対して何もしないと言うのも罰が悪い
それ故にだな、 その・・・何だ・・・私の口はよう言えん
マルガレーテ、 言ってやれ」
「あれですよ、 この地方に伝わる女を突くとツキが上がるって言う
言い伝え? 習わし? があるんですよ」
「女を突く?※1」
※1:言わせんな恥ずかしい
「えぇ、 まぁ言って見れば女と一晩を共にするって奴ですね
ここに居る女達は貴方と一晩を共にしても良いかなぁって思っています、 私を含めて
キャタラさんは付き添いです」
「・・・・・うーん、 何をするか分かってここにいるんですか?」
「【女性が言ってはいけない単語】ですよね!!」
ぺしり、 と叫んだフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。
「私としても君は凄い男だし、 そういう男の子供が生まれるのは良いと思う」
「伯爵、 優生学※2は今時流行りませんよ」
※2:凄い人間は生まれから凄く、 生まれた子も凄いと言う考え方。
「そもそも、 私はショートカットは好きじゃない
髪型じゃなくて、 もう少し段階を踏んだ方が良いでしょう」
「私の娘が気に食わんと言うのか!!」
ダン、 と机を叩くベルモンド。
「そうじゃないんですよ、 そもそも『女を突くとツキが上がる』と言う事ならば
尚更断らないといけない状況なんですよ」
「ツキが上がると不味いのか? ツキとは運の事だぞ?
運が良くなるのは良いんじゃないのか?」
「私はS級決闘者の腕前を持つんですよ、 失礼ながら貴族の子弟
武家の家柄であっても腕に差があり過ぎる
勝ちは確定的に明らか、 そこに運が追加されればやり過ぎて殺してしまう」
「・・・・・」
ちらり、 とサンを見るベルモンド。
『完璧な理論武装だ、 最早どうにもならん』
『女を突くとツキが上がる、 と言うのは無理がありましたかね』
サンとベルモンドはアイコンタクトで会話を始めた。※3
※3:ベルモンド伯爵家に伝わる目線のみの会話手法
他の貴族でもこういう暗号符丁は存在する。
『だから私の命令でお前を抱かせればよかったんだ』
『いや、 それは流石に私のプライドが許さない』
『妙なプライドを持ちおって・・・』
『女を突くとツキが上がる』と言うのは半ばでっち上げである。
そういう風習は有るがほぼ有名無実化している。
今回のこの集まりはフェザーしゅきしゅき状態のサンが
合法的にキャッキャウフフ出来る口実作りでもある。
態々フェザーに好意を持って居る面々を入れたのは
フェザーが自分を選んで欲しいと言うサンのプライドだった。
「ん-・・・だがこのままと言うのもバツが悪い
何か欲しい物とかないか?」
話題を逸らすベルモンド。
「それだったら宇治の特級茶を一杯」
「!!?」
フェザーの言葉に驚愕し目を見開くベルモンド。
「特級!? ば、 馬鹿な実在するのか!?」
驚愕するキャタラ。
「・・・何故この家に宇治の特級茶が有ると知って居る」
真剣な表情になるベルモンド。
「4階から凄い圧を感じます」
「この圧を感じられるのか・・・」
瞑目するベルモンド。
「あのー・・・うじのとっきゅうちゃって何です?」
空気に耐えられずにフローラが尋ねる。
「宇治と言うのは地名だ、 日本の茶の名産地、 そして特級茶と言うのは
茶葉の等級だ、 特級は一番良い茶葉だ」
「え、 じゃあ私達お茶1杯に負けてると!?」
「1杯に数万ユーロ※4 だとしてもか?」
※4:ヨーロッパ連合の通貨単位。
1ユーロは大体レートの変動もあるが100円程である。
「お茶一杯に!?」
「あぁ、 だからこそ秘匿していたのだが・・・まさか茶圧※5を感じられるとは」
※5:お茶が発する力場の圧の事。
茶道の心得が無い者には感知出来ない。
「世話になった人に何度かお茶を御馳走になりまして」
「・・・・・」
ベルモンドは茶を飲んだだけで茶道の心を知ったのかとフェザーを再評価した、 だが。
「だがしかし、 お前は特級を味わった事が無いだろう」
「えぇ、 まだ早い、 と」
「止めて置け、 死ぬぞ」
「覚悟の上です」
「いや、 お茶を飲むだけで死ぬ訳無いでしょ」
ぺしり、 とフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。
「良いだろう!! フェザーよ、 お前はまだ若い!!
お前の無謀を茶道ファイブ・マスターである私が受けてたとう!!」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるフェザー。
「ちょっと待った」
そこに待ったをかけるキャタラ。
「ここで特級茶葉で茶を点てるのは危険でしょう」
「安心したまえ、 4階は茶室になっている
特級茶葉にも耐えられる様に宮大工にも施工して貰った」
「・・・・・大丈夫ですね?」
「くどい」
画して4階の入り口にやって来た一同。
入口の鍵を開けるベルモンド。
「ここからは付いて来れる物だけ付いて来い」
「いや、 お茶を飲むだけでこんな」
ぺしり、 とフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。
「フローラよ、 これを見てから言うのだな」
ベルモンドが入口のドアを開けた。
瞬間、 まるで森の中に迷い込んだかの様な感覚に襲われる。
「こ、 これは!?」
「特級茶葉の香り・・・!? 馬鹿な・・・」
「う、 うぅ・・・」
ばたりと倒れるピラ。
「くっ、 耐えられなかったか!! 外の空気吸わせて来る!!」
ピラを抱えてキャタラが避難する。
「階層を跨いでもこの圧倒的な香り・・・!! これが特級・・・!!」
「名物※6 と名高い 二十茄子※7 に入れているのにこの香りよ、 お前に特級が飲めるか?」
※6:茶道具においては格付けの一種類。
茶道のマスター階位で無ければ購入所か見る事すら不可能とされ
特級茶葉で茶を点てる際には名物以上の茶道具で無ければ茶圧に耐え兼ね
木端微塵になってしまう。
※7:天下三茄子と謳われる最大名物級茶器の一つ九十九髪茄子を作る迄に作られた九十八の習作の一つ。
二十番目に作られた作品だがそれでも並の茶器とは一線を隔する。
「飲みましょう」
「ならば付いて来い」
ベルモンドが階段を上がる、 フェザーも後に続く。
「う!?」
クローリスが後に続こうとするも異変に気が付く。
「ど、 どうしたの?」
「す、 進めない・・・」
「え・・・」
クローリスが前に進もうとしてもまるで動かない。
「お父様が言っていた特級茶葉の茶圧と言う事ね」
サンがクローリスの横を通ろうとする、 まるで鉛の海を横切るかの様な重圧を感じる。
「お、 お嬢様・・・大丈夫ですか?」
「これも経験よ・・・行ってみる!!」
サンが階段を上る。
「ぐ、 ぐっ!!」
階段を上る度にまるで万力で押し潰されるような感覚を味わうサン。
「お嬢様!! 危険です!! 帰って来て下さい!!」
マルガレーテが叫ぶ。
「・・・・・すぅー、 はぁー・・・」
息を一息するサン。
「たかが圧!! 乗り切れずにどうするか!! たあああああああああああああああ!!!」
全力で階段を上るサンだった。
サンの叫び声を後ろに聞きながら登るフェザーとベルモンド。
「愚女※8 がすまんな」
※8:娘をへりくだっていう言葉。
「いえ」
「まぁこんな事を言うのもなんだが、 どうだサンとは上手くやっていけてるか?」
「最初は少し苦手でしたが慣れて来ましたよ」
「そうか・・・」
階段を上る二人。
「正直な話、 サンに御付きを付けるのは5度目なんだ」
「あのメイド3人娘は?」
「彼女等は・・・まぁここを追い出されたら行く所が無いからな
結構長い事やってくれているよ」
「?」
「ところで君は娘の事を如何思っている?」
「確かに性格は少し変ですがそれも個性ですよ」
「そうじゃなくて女性として如何かと言う話だよ」
「女性として?」
「S級決闘者ならば貴族令嬢の嫁を貰っても可笑しく無いだろう?」
「まだ結婚とか考えてませんから」
「そうか、 娘と交際するのならば私は喜んで許可するぞ」
「御冗談を」
「・・・・・」
これは娘の恋路は険しそうだな、 と思うベルモンドだった。
「さてと、 着いたぞ」
4階に辿り着いた二人。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
サンも後からやって来た。
「大丈夫ですか?」
「平気よ・・・・・!?」
4階は宮大工が作った階層、 その階層のど真ん中に庵※9 。
※9:質素な佇まいの小屋を指す言葉だが”サウザンドマスター”利休が茶の席に庵を多用した事から
茶を点てる小屋と言う意味合いが強くなっている。
「これは・・・この庵は・・・!?」
「感じるか、 この圧力・・・この庵は彼の大茶人利休その人が建てた庵だ」
「な、 なんと!?」
「嘗て利休は”豊国大明神”秀吉に迫害された際に大量に庵を建築し上空に射出し
風に乗って世界中に飛ばして3階を建て終わり、 4階建築中のこの邸に辿り着いた
と言う事だ」
庵は普通の建築物よりも素材を使わないから軽量である。
そこまで計算に入れているとは恐るべし利休!!
「なるほど・・・この庵ならば特級茶葉にも耐えられる・・・」
「そう言う事だ、 それでは中に入ろう」
フェザーとベルモンドは庵の中に進む。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ふるふると震えるサン。
「この私が・・・あの庵に完全に屈服していると!?」
前に進めない、 利休が作りし庵の圧倒的侘び寂び※10 の前に屈服している!!
※10:解説するには筆者の語彙が足りない。
「はぁ・・・はぁ・・・」
必死に前に進もうとするが動けないサンであった。
庵の中の二人は圧倒的侘び寂びに包まれていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
特級茶葉が入っている二十茄子を前にする二人。
例えるならばドラゴンの前に立って炎を吹きかけられている状態に等しい。
彼等の身体は茶葉に含まれるカテキンにより完全に殺菌されている。
「覚悟は良いか?」
「勿論です」
二十茄子を開けるベルモンド。
瞬間、 緑の宇宙が展開される。
フェザーの脳内に叩き込まれるカテキン、 カフェイン、 テアニン、 ビタミン、 ミネラル
まさに脳内に流星群が叩き込まれるかの如く。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「流石、 と言う所か・・・」
ベルモンドも辛い、 しかしながら茶道ファイブマスター、 情けない姿は見せない。
因みに庵により特級茶葉の効力は庵内に留まっているので庵の外のサンには害は無かった。
「それでは行くぞ」
ここからが本番である。
特級茶葉粉末を茶碗に入れる、 そして超高温の熱湯を湧かす。
水は湧き水を使用している、 特級茶葉の傍に置いてある為、 劣化どころか寧ろ新鮮になっている。
「・・・・・」
茶釜に水を注ぎ火を付ける。
特級茶葉は100℃では融解しない。
その為茶道マスターの技術と茶釜のパワーにより水の沸点を超えた温度まで湯を沸かすのだ。
その温度、 軽く500℃を越す、 茶道、 恐るべし。
そして茶碗に湯を注ぐ、 そして茶筅で茶をかき混ぜる。
特級茶葉を混ぜるとなるとその重量は計り知れない、 感覚的にはまるで岩をかき混ぜている感触である。
しかしながら茶道マスター階位ともなるとこの程度の事は簡単に出来る
訳が無い、 まるでフルマラソンを走り切るが如き苦行!!
だがしかしその辛さを見せない!! 何と言う奥ゆかしさか!! まさに侘び寂び!!
出来上がったお茶をフェザーに渡すベルモンド。
「お点前ちょうだいいたします」
御辞儀の後に右手で茶碗を取り左手の上に乗せる
茶碗を90度ほど回し正面を避けてお茶を飲む。
先程混ぜた事により熱も逃げて温度は下がった、 とは言え100℃前後である。
その状態でもきちんと礼儀作法が出来るとは・・・
「素晴らしい・・・」
思わず感嘆の声を挙げるベルモンド。
そしてフェザーは最後の一口では、泡を残さず飲み切る。
完全な茶道の作法に沿っている。
飲み終わった後に茶碗を畳の上に置き、 低い位置から鑑賞する事も忘れない。
「・・・・・」
体の中で特級茶葉の成分が染み渡る。
体の中で宇宙が構築され崩壊するまでの超体験がフェザーを襲う。
通常の人間ならば自我が崩壊するがフェザーは茶を満喫したのだった。
「大変美味しゅうございました」
「特級茶葉を飲み干すか・・・見事!!」
ベルモンド伯爵邸3階ベルモンド伯爵の執務室。
ベルモンド伯爵は自分の椅子に座る。
机を挟んでフェザーとサン、 そしてキャタラとピラ。
フローラ、 アンテイア、 クローリス、 マルガレーテが並んでいた。
「役所から連絡は来たから大体の事情は知って居る、 が決闘の前に一言欲しかった」
「それは申し訳ありませんでした父上
ですが挑発されたのです誇りの為にも決闘を受けましょう」
「そうだな・・・最近はジョンの弟のジャンが何やら悪だくみをしているようだから牽制になるだろう
フェザー、 殺さない程度に力を見せつけてやれ」
「了解しました、 所で何だか人が多く無いですか?」
「それか・・・まぁ私も色々と考えている訳だよ」
「?」
首を傾げるフェザー。
「我が家の誇りを守ってくれる者に対して何もしないと言うのも罰が悪い
それ故にだな、 その・・・何だ・・・私の口はよう言えん
マルガレーテ、 言ってやれ」
「あれですよ、 この地方に伝わる女を突くとツキが上がるって言う
言い伝え? 習わし? があるんですよ」
「女を突く?※1」
※1:言わせんな恥ずかしい
「えぇ、 まぁ言って見れば女と一晩を共にするって奴ですね
ここに居る女達は貴方と一晩を共にしても良いかなぁって思っています、 私を含めて
キャタラさんは付き添いです」
「・・・・・うーん、 何をするか分かってここにいるんですか?」
「【女性が言ってはいけない単語】ですよね!!」
ぺしり、 と叫んだフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。
「私としても君は凄い男だし、 そういう男の子供が生まれるのは良いと思う」
「伯爵、 優生学※2は今時流行りませんよ」
※2:凄い人間は生まれから凄く、 生まれた子も凄いと言う考え方。
「そもそも、 私はショートカットは好きじゃない
髪型じゃなくて、 もう少し段階を踏んだ方が良いでしょう」
「私の娘が気に食わんと言うのか!!」
ダン、 と机を叩くベルモンド。
「そうじゃないんですよ、 そもそも『女を突くとツキが上がる』と言う事ならば
尚更断らないといけない状況なんですよ」
「ツキが上がると不味いのか? ツキとは運の事だぞ?
運が良くなるのは良いんじゃないのか?」
「私はS級決闘者の腕前を持つんですよ、 失礼ながら貴族の子弟
武家の家柄であっても腕に差があり過ぎる
勝ちは確定的に明らか、 そこに運が追加されればやり過ぎて殺してしまう」
「・・・・・」
ちらり、 とサンを見るベルモンド。
『完璧な理論武装だ、 最早どうにもならん』
『女を突くとツキが上がる、 と言うのは無理がありましたかね』
サンとベルモンドはアイコンタクトで会話を始めた。※3
※3:ベルモンド伯爵家に伝わる目線のみの会話手法
他の貴族でもこういう暗号符丁は存在する。
『だから私の命令でお前を抱かせればよかったんだ』
『いや、 それは流石に私のプライドが許さない』
『妙なプライドを持ちおって・・・』
『女を突くとツキが上がる』と言うのは半ばでっち上げである。
そういう風習は有るがほぼ有名無実化している。
今回のこの集まりはフェザーしゅきしゅき状態のサンが
合法的にキャッキャウフフ出来る口実作りでもある。
態々フェザーに好意を持って居る面々を入れたのは
フェザーが自分を選んで欲しいと言うサンのプライドだった。
「ん-・・・だがこのままと言うのもバツが悪い
何か欲しい物とかないか?」
話題を逸らすベルモンド。
「それだったら宇治の特級茶を一杯」
「!!?」
フェザーの言葉に驚愕し目を見開くベルモンド。
「特級!? ば、 馬鹿な実在するのか!?」
驚愕するキャタラ。
「・・・何故この家に宇治の特級茶が有ると知って居る」
真剣な表情になるベルモンド。
「4階から凄い圧を感じます」
「この圧を感じられるのか・・・」
瞑目するベルモンド。
「あのー・・・うじのとっきゅうちゃって何です?」
空気に耐えられずにフローラが尋ねる。
「宇治と言うのは地名だ、 日本の茶の名産地、 そして特級茶と言うのは
茶葉の等級だ、 特級は一番良い茶葉だ」
「え、 じゃあ私達お茶1杯に負けてると!?」
「1杯に数万ユーロ※4 だとしてもか?」
※4:ヨーロッパ連合の通貨単位。
1ユーロは大体レートの変動もあるが100円程である。
「お茶一杯に!?」
「あぁ、 だからこそ秘匿していたのだが・・・まさか茶圧※5を感じられるとは」
※5:お茶が発する力場の圧の事。
茶道の心得が無い者には感知出来ない。
「世話になった人に何度かお茶を御馳走になりまして」
「・・・・・」
ベルモンドは茶を飲んだだけで茶道の心を知ったのかとフェザーを再評価した、 だが。
「だがしかし、 お前は特級を味わった事が無いだろう」
「えぇ、 まだ早い、 と」
「止めて置け、 死ぬぞ」
「覚悟の上です」
「いや、 お茶を飲むだけで死ぬ訳無いでしょ」
ぺしり、 とフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。
「良いだろう!! フェザーよ、 お前はまだ若い!!
お前の無謀を茶道ファイブ・マスターである私が受けてたとう!!」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるフェザー。
「ちょっと待った」
そこに待ったをかけるキャタラ。
「ここで特級茶葉で茶を点てるのは危険でしょう」
「安心したまえ、 4階は茶室になっている
特級茶葉にも耐えられる様に宮大工にも施工して貰った」
「・・・・・大丈夫ですね?」
「くどい」
画して4階の入り口にやって来た一同。
入口の鍵を開けるベルモンド。
「ここからは付いて来れる物だけ付いて来い」
「いや、 お茶を飲むだけでこんな」
ぺしり、 とフローラの両サイドに居たメイド二人が額を叩く。
「フローラよ、 これを見てから言うのだな」
ベルモンドが入口のドアを開けた。
瞬間、 まるで森の中に迷い込んだかの様な感覚に襲われる。
「こ、 これは!?」
「特級茶葉の香り・・・!? 馬鹿な・・・」
「う、 うぅ・・・」
ばたりと倒れるピラ。
「くっ、 耐えられなかったか!! 外の空気吸わせて来る!!」
ピラを抱えてキャタラが避難する。
「階層を跨いでもこの圧倒的な香り・・・!! これが特級・・・!!」
「名物※6 と名高い 二十茄子※7 に入れているのにこの香りよ、 お前に特級が飲めるか?」
※6:茶道具においては格付けの一種類。
茶道のマスター階位で無ければ購入所か見る事すら不可能とされ
特級茶葉で茶を点てる際には名物以上の茶道具で無ければ茶圧に耐え兼ね
木端微塵になってしまう。
※7:天下三茄子と謳われる最大名物級茶器の一つ九十九髪茄子を作る迄に作られた九十八の習作の一つ。
二十番目に作られた作品だがそれでも並の茶器とは一線を隔する。
「飲みましょう」
「ならば付いて来い」
ベルモンドが階段を上がる、 フェザーも後に続く。
「う!?」
クローリスが後に続こうとするも異変に気が付く。
「ど、 どうしたの?」
「す、 進めない・・・」
「え・・・」
クローリスが前に進もうとしてもまるで動かない。
「お父様が言っていた特級茶葉の茶圧と言う事ね」
サンがクローリスの横を通ろうとする、 まるで鉛の海を横切るかの様な重圧を感じる。
「お、 お嬢様・・・大丈夫ですか?」
「これも経験よ・・・行ってみる!!」
サンが階段を上る。
「ぐ、 ぐっ!!」
階段を上る度にまるで万力で押し潰されるような感覚を味わうサン。
「お嬢様!! 危険です!! 帰って来て下さい!!」
マルガレーテが叫ぶ。
「・・・・・すぅー、 はぁー・・・」
息を一息するサン。
「たかが圧!! 乗り切れずにどうするか!! たあああああああああああああああ!!!」
全力で階段を上るサンだった。
サンの叫び声を後ろに聞きながら登るフェザーとベルモンド。
「愚女※8 がすまんな」
※8:娘をへりくだっていう言葉。
「いえ」
「まぁこんな事を言うのもなんだが、 どうだサンとは上手くやっていけてるか?」
「最初は少し苦手でしたが慣れて来ましたよ」
「そうか・・・」
階段を上る二人。
「正直な話、 サンに御付きを付けるのは5度目なんだ」
「あのメイド3人娘は?」
「彼女等は・・・まぁここを追い出されたら行く所が無いからな
結構長い事やってくれているよ」
「?」
「ところで君は娘の事を如何思っている?」
「確かに性格は少し変ですがそれも個性ですよ」
「そうじゃなくて女性として如何かと言う話だよ」
「女性として?」
「S級決闘者ならば貴族令嬢の嫁を貰っても可笑しく無いだろう?」
「まだ結婚とか考えてませんから」
「そうか、 娘と交際するのならば私は喜んで許可するぞ」
「御冗談を」
「・・・・・」
これは娘の恋路は険しそうだな、 と思うベルモンドだった。
「さてと、 着いたぞ」
4階に辿り着いた二人。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
サンも後からやって来た。
「大丈夫ですか?」
「平気よ・・・・・!?」
4階は宮大工が作った階層、 その階層のど真ん中に庵※9 。
※9:質素な佇まいの小屋を指す言葉だが”サウザンドマスター”利休が茶の席に庵を多用した事から
茶を点てる小屋と言う意味合いが強くなっている。
「これは・・・この庵は・・・!?」
「感じるか、 この圧力・・・この庵は彼の大茶人利休その人が建てた庵だ」
「な、 なんと!?」
「嘗て利休は”豊国大明神”秀吉に迫害された際に大量に庵を建築し上空に射出し
風に乗って世界中に飛ばして3階を建て終わり、 4階建築中のこの邸に辿り着いた
と言う事だ」
庵は普通の建築物よりも素材を使わないから軽量である。
そこまで計算に入れているとは恐るべし利休!!
「なるほど・・・この庵ならば特級茶葉にも耐えられる・・・」
「そう言う事だ、 それでは中に入ろう」
フェザーとベルモンドは庵の中に進む。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ふるふると震えるサン。
「この私が・・・あの庵に完全に屈服していると!?」
前に進めない、 利休が作りし庵の圧倒的侘び寂び※10 の前に屈服している!!
※10:解説するには筆者の語彙が足りない。
「はぁ・・・はぁ・・・」
必死に前に進もうとするが動けないサンであった。
庵の中の二人は圧倒的侘び寂びに包まれていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
特級茶葉が入っている二十茄子を前にする二人。
例えるならばドラゴンの前に立って炎を吹きかけられている状態に等しい。
彼等の身体は茶葉に含まれるカテキンにより完全に殺菌されている。
「覚悟は良いか?」
「勿論です」
二十茄子を開けるベルモンド。
瞬間、 緑の宇宙が展開される。
フェザーの脳内に叩き込まれるカテキン、 カフェイン、 テアニン、 ビタミン、 ミネラル
まさに脳内に流星群が叩き込まれるかの如く。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「流石、 と言う所か・・・」
ベルモンドも辛い、 しかしながら茶道ファイブマスター、 情けない姿は見せない。
因みに庵により特級茶葉の効力は庵内に留まっているので庵の外のサンには害は無かった。
「それでは行くぞ」
ここからが本番である。
特級茶葉粉末を茶碗に入れる、 そして超高温の熱湯を湧かす。
水は湧き水を使用している、 特級茶葉の傍に置いてある為、 劣化どころか寧ろ新鮮になっている。
「・・・・・」
茶釜に水を注ぎ火を付ける。
特級茶葉は100℃では融解しない。
その為茶道マスターの技術と茶釜のパワーにより水の沸点を超えた温度まで湯を沸かすのだ。
その温度、 軽く500℃を越す、 茶道、 恐るべし。
そして茶碗に湯を注ぐ、 そして茶筅で茶をかき混ぜる。
特級茶葉を混ぜるとなるとその重量は計り知れない、 感覚的にはまるで岩をかき混ぜている感触である。
しかしながら茶道マスター階位ともなるとこの程度の事は簡単に出来る
訳が無い、 まるでフルマラソンを走り切るが如き苦行!!
だがしかしその辛さを見せない!! 何と言う奥ゆかしさか!! まさに侘び寂び!!
出来上がったお茶をフェザーに渡すベルモンド。
「お点前ちょうだいいたします」
御辞儀の後に右手で茶碗を取り左手の上に乗せる
茶碗を90度ほど回し正面を避けてお茶を飲む。
先程混ぜた事により熱も逃げて温度は下がった、 とは言え100℃前後である。
その状態でもきちんと礼儀作法が出来るとは・・・
「素晴らしい・・・」
思わず感嘆の声を挙げるベルモンド。
そしてフェザーは最後の一口では、泡を残さず飲み切る。
完全な茶道の作法に沿っている。
飲み終わった後に茶碗を畳の上に置き、 低い位置から鑑賞する事も忘れない。
「・・・・・」
体の中で特級茶葉の成分が染み渡る。
体の中で宇宙が構築され崩壊するまでの超体験がフェザーを襲う。
通常の人間ならば自我が崩壊するがフェザーは茶を満喫したのだった。
「大変美味しゅうございました」
「特級茶葉を飲み干すか・・・見事!!」
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる