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最終章 セイギの在り方

第291話 ナノたちの覚悟

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 メアを連れてアルゴーへ向かったタクマは、その間、ナノの兄弟達の住む家にいた。

「あっ! タクマ兄ちゃん! ナノ姉ちゃん!」

 かつて幽霊屋敷と呼ばれていたメアの家は、今では新築同様に綺麗な姿を取り戻し、その大きな部屋の中に総勢30人もの兄弟達を守る家になった。
 
 そして、そんな家の前に、これまた懐かしい顔があった。

「あれ? ブレイクさん、それに、メイジュさんまで!」
 
「ん? おお、タクマじゃねえか! 久しぶりだなぁ!」

 ブレイク、そしてメイジュ。アルゴーに転生してすぐの頃、タクマ達を鍛え上げてくれたアルゴー一の最強の戦士。

 だが、それだけでは終わらなかった。

「少年……久しぶり……だな」

「あっ! おっちゃん、でっかい人!」

「ケンさんも! 皆さん、どうしてここに?」

「オレ……子供達に人気……だから……遊びに来た」

 ケンはそう言って、石像のように大きく立派な腕を持ち上げる。

 そこにはナノの兄弟がぶら下がり、楽しそうな笑みを浮かべていた。

 その様子はまるで、木登りをする子供達のよう。

「ほんまに、こない迷惑かけて……」

「んだよリスの嬢ちゃん!」

「全然迷惑だなんて思ってないよ。むしろ、毎日明るくて、楽しい気分になれる」

 メイジュは言いながら、魔法を使った簡単な手品を披露する。

 それに兄弟達は驚き、そしてまたどっと大きく笑う。

「皆……元気。オレ達……毎日……楽しい」

 ケンの表情は楽しそうではなかったが、口角だけは小さいながらも上がっていた。

 ケンはアルゴーの武器工房で武器を作っている巨人族の大男。

 普段は無口で、図体も大きいために怖がられることも多かったが、今ではその大きな身体と優しい性格から、子供達に人気となっている。

「……どうした、少年? 元気がないな」

「そうだぞ? まさか、この前現れたあのアルファとかいう野郎のことか?」

「ナノちゃんまでそんな暗い顔して……」

 だが、いくら懐かしい面々と出会っても、あのことを思い出すとすぐに落ち込んでしまう。

 α、もといアキラとの闘い。そして、世界の再創世。

 否が応でも、かつての親友と戦わなければならないのだ。

 そしてナノも、家族として受け入れてくれたレンブおじさんの仇を討つために、戦わなければならなかった。

 その闘いの重さは、誰よりも、タクマが一番よく理解していた。

 もしかしたら、自分はこの闘いで死んでしまうかもしれない。

 この闘いに負ければ、アルゴーの人達だけでなく、これまで出会ってきた人達が皆死んでしまう。

 と、その時だった。

「安心しろっての」

 不安に苛まれていたタクマに声をかけたのは、ブレイクだった。

 顔を上げると、ブレイクは胸の前で拳をバシッ! と叩き付けてみせた。

「オレはお前らの師匠である以前に、このアルゴーで一番強い近衛兵だぜ? 一週間後、αとかいう野郎が何しでかすか知らねえけどよぉ! オレ達は逃げねぇし、国の奴ら守るためなら、命だって賭けてやるぜ!」

「ブレイクのおっちゃん……!」

 ブレイクの心意気に、ナノはぽっと頬を赤らめる。

 続いて、メイジュが隣から笑顔で言う。

「そうさ。弟子じゃあなく、一人の友達としてボク達を信頼してくれよ。勿論、命は賭けても、死ぬつもりはないからね?」

 最後に、ケンが子供を肩に乗せたまま言う。

「この国……師匠の愛した国……オレも、本気出す!」

「そうだよ! ナノ姉ちゃん! だからナノ姉ちゃん達も、無事に帰ってきてね!」

「おっちゃん……! 皆……!」

 その言葉に、ナノとタクマはスッキリした気分を覚えた。

 皆が待ってくれている。そして、一緒に戦ってくれるんだ、と。

 最早、迷う理由などなかった。

「はい! ブレイクさん! 俺、絶対に生きて帰ってきます! なので――」

「皆まで言うなよ、タクマ。オレを誰だと思ってんだ?」

「そうさ。ボク達は最強のロード兄弟、だろ?」

「そして……オレは、武器屋……!」

 笑顔を取り戻したタクマとナノは、皆と一緒に笑い合った。

 必ず生きて帰ると、そしてこの世界を守ると約束して。

「……ところで、さっきから後ろで、アリりんは何してるん?」

 と、ナノが言い出した。

 後ろを振り返ると、故郷に帰っていたはずのアリーナが、石を携帯電話のように持って誰かと話していた。

「あっ! アリーナ! 何してんだ!?」

「アリーナ!? アリーナって、あの女大海賊の、あのアリーナかい!?」

 その名前に、メイジュは驚いた。

 すると、アリーナは一度石を耳から離し、タクマの方を振り向く。

「うるせえなあお前ら! ちょっと取り込み中だから静かにしろって!」

「いやいや、お前何してんの! 故郷に帰ったんじゃあないのか?」

「ああ、それなら別にアタシは帰らなくてもいいから、付いてきた」

「付いてきたって。アリりんの家族は寂しくないん?」

「別に。てか、この最強無敵、昇天必至のアリーナ様のお袋と、海賊湊の野郎共だぜ? アタシが警告しに行かんでも、テメェの力でぶっ飛ばすってもんだよ」

「いや昇天必至って意味違うからね?」

 鋭くツッコミを入れつつ、アリーナは「フッ!」と余裕な表情を浮かべて言った。

「だがアタシには、お前らの知らねぇ国の野郎とも面識があんだ! ついさっき、ソイツらに話をつけておいたってワケだ!」

 アリーナは言いながら、魔法石を突きつける。

「で、アリーナさん? その野郎、というのは誰のことなんだい?」

「ここからもっと南、デルガンダルとは別の場所にいる知り合いだよ。確か――『ブランク帝国』とか言ってたかな。そこに一応警告しておいた」

「ブランク帝国……? 聞いたことがないな……」

「魔王様が悪の組織名乗ってる変な国だよ。今度行ってみたらいい」

「行ってみたらいいって。そんな簡単に……」
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