上 下
201 / 295
第8章 復讐の死神

第200話 皮肉な血戦

しおりを挟む
「あの日を思い出すじゃあねぇか。本気でやり合った日だ」
「忘れるわけが無い。初めてアンタと対等に渡り合えたからね。それに、約束も果たせた」

 剣を構え、二人は互いに決勝戦時の思い出に浸る。オニキスの圧勝で、一撃でもくらえば死ぬかもしれない時、彼の体調不良で納得いかない勝利を掴んだあの戦い。
 まさかこんな場所で決戦の続きをするなんて、皮肉にしても酷すぎる。

「ずっと前から、俺はテメェが気に食わなかった。だからまずは、テメェからぶっ殺す」
「こ、殺す!?」
「もうどうでもいいんだよ。不殺も何も、ゼンブぶっ壊してやらぁ!」

 真っ赤な目を光らせたオニキスは、早速タクマに斬りかかった。重い。やはり桁違いに強化されている。
 でも、今までの経験のお陰で、辛うじてやり合うことはできる。もしこれがこの世界に来てすぐなら、剣ごと真っ二つにされていた。
 タクマも本気を出して押し返し、斬撃を与える。だが、オニキスも負けておらず、瞬時に剣を防いだ。剣がまるで第三の腕のように動いている。流石は元・最強狩り、踏んできた場数が違う。

「おらおらどうしたぁ!俺を止めるんじゃあなかったのか!」
「ぐっ……止めてやるさ、そしてアイツの約束を守るんだ!」
「またそんなくだらねぇモン気にしてんのか。笑わせる!」

 今度は黄色い目が光り、剣が周囲の風を溜め込んだ。マズイ、何かが来る!
 タクマは近くの服屋のガラスを蹴り破り、店内に身を隠した。するとその時、オニキスは〈大戦風〉と唱え、剣を振り下ろした。
 その名の通り、凄まじい風が吹き荒れ、蹴破った際の破片や店内の物が室内を飛び回り、その中でタクマにも攻撃を与える。

「畜生、判断を間違えちまった」
「本気でやり合う以上、テメェを逃すつもりはパンカス程度もねぇぜ!」
「しまっ!」

 腕に付いたガラス片を振り解こうとしていたその時、オニキスは同じように窓から飛び込み、座り込むタクマに兜割りを仕掛けた。それをタクマは、体勢を整えて防御しつつ、《コピー》!と叫んだ。
 タクマの考えはこうだ。赤い目が光る時は物理的に強くなる兆候。黄色い目が光る時は周囲の元素を集める事で生み出す、魔法的な攻撃が強くなる兆候。つまり、形は違えど、元素の集合体であるものを“魔法”と呼ぶのであればコピーして逆に使ってやる事は可能だろうと予想した。
 すると、その予想通り魔法陣が現れ、オニキスを突き飛ばした。

「魔法陣にこんな使い方があるなんて……」
「フハハハハ、面白れぇ!そうだそうだ、戦いはこうじゃあねぇとなぁ!」

 魔法陣に突き飛ばされたオニキスは、タクマが本来の能力を見せた事に歓喜し、大声で笑った。そして、風に対抗するかのように、傷付き崩れかかった店の砂埃を剣に集め、打撃武器のような大剣に姿を変えた。コピーした風に対し、吹き飛ばされる恐れのない土属性で対抗する気だろう。
 しかしその技も、出している以上コピーする事は可能。タクマはオニキスが飛び上がる瞬間を見計らい指を鳴らした。そして、剣に風の力を宿し、反撃を開始する。

「食らえ!〈閃風の剣〉!」
「それが何だぁ!〈クリムゾン・ストライク〉!」

 オニキスは己が血を剣に与え、黒曜石のように黒くなった岩石剣を地面に叩きつけた。すると、カッターで切り裂かれた紙のように、地面がパックリと割れた。更に、そこから赤黒い炎が血のように吹き出した。

「チッ、外したか。だがまだ、こんくれぇじゃあ終わらせねぇ!」
「俺も、そのつもりで、来たからなぁ!」
「じゃあ楽しませろ、メルサバの変態よりも!もっとォ!」

 その瞬間、タクマの脳裏にフラッシュの姿が映し出された。包帯ぐるぐる巻きで、仮面のお陰で辛うじて誰か判別できた痛々しい姿。そして、彼の放っていた弱気な声。
 何故無関係のフラッシュさんがあんな目に遭わなきゃならなかったんだ。そんな思いが力に変わり、オニキスの剣を押し返す。

「オニキス!どうして、どうしてフラッシュさんをあんな目に遭わせた!」
「アイツは俺に向かって嫌いな正義論を語ってやがった!お陰で無性に腹立っちまってよぉ!だから半殺しにしてやったぜ!」
「ふざけるな!だからって、どうして半殺しにされなきゃいけなかったんだ!」
「黙れェ!正義を過信してるドグサれ脳みそが!正義を騙る野郎に大事なものを奪われた人間の気持ちが、テメェに分かるかぁ!」

 激昂したオニキスは、両眼を光らせて攻撃を仕掛けた。今度は常に赤黒い気を纏わせた姿。まさか、フラッシュさんも激怒させたが故にこの姿で……
 オニキスの正義を嫌うって気持ちも分からなくない。でも、こんなに怒りが爆発していたら、どれだけ説得しても無駄な気がする。

「分かんないかもしれない!でも、どんな理由があろうと俺はアンタを止める!」
「ぬかせぇ!テメェのような弱者に、今の俺は止められねぇ!」
「だからだよ!だから、例え無理でも、俺は俺のやれるなりをやり切るんだ!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜

ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。 同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。 そこでウィルが悩みに悩んだ結果―― 自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。 この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。 【一話1000文字ほどで読めるようにしています】 召喚する話には、タイトルに☆が入っています。

処理中です...