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第4章 ヴェルハラへ行くもの達

第74話 船上の和食

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【ヴェルハラ行き旅客船】
 ここでタクマ達は、リュウヤが知らぬ間に作っていた豚の生姜焼き弁当 (肉は猪肉だが)を食べていた。
 味はやはり豚肉と近しい感じで、剣崎秘伝のタレが米と相性が抜群でまさしく美味。玉ねぎもサーっと炒められた多少辛みのあるものとなっているが、それもまた米とベストマッチしている。

「猪肉も調理次第では美味くなるとは、こりゃまた大発見じゃな」
「うむ、箸が止まらぬでござる」

 吾郎やメア、ノエルも美味しく米や肉を口に運ぶ。
 こんな洋風な船の中で日本料理を食べると言うのも、これまたシュールな光景である。

「こんなシュールなの初めてだろ、タクマ」
「あぁ、こんな経験、今までしてきた事……」

 してきた事ないわ。そう言おうとした瞬間、アルゴ王とうどんを食べた時の事が脳裏をよぎった。あったわ。そんな事あったわ。
 しかしそれと同時に、一つの疑問を思い出した。
 何故アルゴでうどんが出たんだ……?

「そうだリュウヤ、大和に異国の料理人みたいな人ってきた事ある?」

 タクマは忘れないうちに、その時の疑問をリュウヤに訊く。
 するとリュウヤは、一瞬うーんと顎に手を当てた後に「そんな事あったなぁ」と、宿屋で思い出に浸っていた時のように頷いた。

「確かピエールとか言ってな、城下のうどん屋に作り方教えろー!って言って困らせてたから、俺が教えたんだ」
「あの時はずーっと先生先生って慕ってたから大変でありんしたでしょ、お前様」
「他の飯屋にも技を伝授させて慣れてたからそこまでは困らなかったかな~」

 リュウヤは白い椅子の背もたれに左腕をかけながら、おタツとその時の思い出を語った。


【旅客船 404号室】
「うわぁ~、部屋も完備されているんですね!」
「なかなか快適そうじゃな」

 客室の扉を開くと、そのすぐ先の空間に5人分のベッドが待っていた。そして出入り口側の壁の一角に、メア専用と言わんばかりの大きなタンスが置いてあった。
 メアとノエルは無邪気な子供のように部屋へと突撃し、すぐに自分の寝場所を獲得しに行く。

「私こーこ!」
「妾には丁度いいサイズじゃな」
「楽しそうでありんすねぇ、じゃあウチはここにしなんし」

 しょうがない子達でありんすね、なんて言うかと思っていると、おタツまで便乗して寝場所を決めた。一瞬ずっこけそうになる。
 まぁ確かに今回は自分達も、オホーツクの流氷観光砕氷船は別として考えれば、初めての船旅なのだ。はしゃぎたい気持ちも理解できる。

「にしても良い部屋だな、船内マップまで置いてあるぞ」

 リュウヤは2、2で分かれているベッドの間の棚から色褪せた紙を取り出す。
 そこには「現在地」と赤丸で囲まれた客室、ついさっき弁当を食べたカフェエリア、そして、船の三階には「バーがある」と記されていた。

「タクマ殿、バーとは何でござる?」
「ざっくり言うと酒とかを出すとこって感じだな。こっからの眺めはすげぇんだろうなぁ……」

 タクマは残念そうに言いながら、フカフカのベッドに倒れ込む。
 何せ、タクマはまだ16。酒を飲めるような歳ではない。それにもし飲めば色々な意味でこの世界の存亡が怪しくなってしまう。それくらい未成年の飲酒と言うのは危険なものだ。

「そうがっくしする事はないぜ、この隣にちっこいドリンクコーナーがあるって書いてあんぞ」

 リュウヤは微かに残念がるタクマを元気付けるように教えた。
 それを聞いたタクマは耳をぴくりと動かし「マジで!?」と、バーの隣をじっくりと見る。
 するとそこには、リュウヤの発言通り「ドリンクコーナー」と小さな文字で書かれた部屋があった。

「よし!そうと決まれば行こうぜタクマ!」
「えっ、ちょ……」

 しかし、リュウヤの引っ張る力には勝てず、そのまま連れて行かれた。


………
 一方その頃、α一味もまた行動を始めているようだ……

「α様、一体どんな御用でしょうカ?」

 αに呼ばれていたZは、すぐにαの後ろで片膝をつき現れた。
 そして、αが立ち尽くしている先から脂っこい何かを食べまくるような咀嚼音や、ビーズクッションのようなものに寝返りを打つ音がしてくる。

『紹介しよう、彼らは暴食と怠惰の力を解放してくれるであろうって事でスカウトした、新しい仲間だよ』
「新しい……仲間ですか?」

 その言葉を聞いて、一瞬Zは冷や汗をかく。まさか自分が頼りないから、新しい仲間を増やしたのだろうか、と。
 するとαは、Zの心を読んだかのように『私のお気に入りは君ただ一人、死んでも捨てはしないさ』と、爽やかな男のような機械音声で言い、優しく肩を叩いた。

「ハンバーガーってのはうめぇなぁ!いくらでも食えるぜ!!」
「おいバカ喰い野郎!俺様の眠りの邪魔すんなっつーの!」
「あんだぁ?オメェもハンバーガー食いてぇのか?」
「いらねぇよ静かにしやがれ!……ったく、くだらない」

 その先は暗くてよく見えないが、悪魔のように真っ赤な目を光らせた男二人が居るのだけは分かる。
 しかし、特にこれといって強そうな気は感じられない。
 ただの大食いとだらけまくりな人、ただそれだけ。

『じゃあそろそろ話をしてもいいかな?』

 彼らにはどんな力があるのか、そんな事を考えているうちに、αは姿の見えない男二人に訊ねた。
 すると、ドカ食い男は「早く教えてくれよ」と急かし、だらけ男は「くだらねぇ話ならすぐ寝るぜ」と言いながら強い寝返りをする。

『君達のうち一人に、私の力の一つを与えたい』
「んだよ、そんな事か……白けた帰る」

 怠惰を解放するかもしれない男は大きなため息をつき、ビーズクッションから降り、近くにかけていた黒いマフラーのような物を顔面にグルグルと巻いた。

「アナタ、α様が力をお与えなさると言うのに何という態度ですカ!」

 Zはαに無礼な態度を取る怠惰の男に怒りを抑えきれず、メスを男の首に突きつける。
 だが、それでも男は恐れたり煽ったりする素振りも見せず「くだらねぇ」と呟き、Zを無視して歩き続けた。

『ハッハッハ、私が見込んだ通りマイペースだねぇ君は』
「α様、アイツは貴方様をこれっぽっちも慕っておりませんヨ!」
『それが良いのだよ、怠惰と言うのはやるべき事をやらない怠け者って意味だからね』

 αは苛立っているZを宥めるように、優しく言う。
 その言葉に納得したZはメスをしまい、もう一人の仲間の方を向いた。こんな事があったにも関わらず、まだ山積みのハンバーガーにがっついている。

『……と言う事で、君に力を与えることにするよ』
「こんだけ旨いモンくれて力も貰えるなら、吾輩は何でも喜んで貰おう」
『それじゃあすぐ、奥にある暗室にきてくれたまえ』

 仮面越しからも笑顔で語りかけているような声で、αは大食い男を今の場所よりも暗い空間へ移動するように促す。そして、そう促した後、大きく何かを飲み込むような音がした。

『これで歴史が少し変わる……見ていろ、人類よ』

 αの小さな独り言が聞こえたと思うと、すぐにガガガガっと錆びた鉄の扉を閉めるような音がしてきた。
 耳を塞ぎたいくらい、不快な音。Zは自然と耳を塞ぐ。
 それにしてもα様、我々の個人計画に協力してくれているが、一体何の為にこんな事を……
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