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第3章 食の国、大和の魔王

第44話 大和の国、かの魔王

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「んっ……うーん……」

タクマは、久しぶりなような、初めてのような床の感触に違和感を感じ、目を開ける。
目の前には年季の入った木が使われた天井があった。ゲームのコンテニューみたいな要領で、アルゴの宿屋に戻った感じではないようだ。
とにかく落とし穴に嵌って何もない筈がない、タクマは起き上がろうとした。
その時、ズキリとナイフで突き刺されたような痛みが、肩に襲いかかってきた。

「痛だっ!!そうか、骸骨兵士に蹴り飛ばされたんだっけか……」

タクマは痛めた肩を押さえてそう言う。
だが、いつもと違う。誰かに手当てされたのか?包帯のような物を巻かれている。
しかも何かべちょっとしてる気がするが、薬付きのようだ。
とにかくここが何処か、タクマは見回した。

金の風を模した絵が描かれている襖、どこか懐かしく感じる畳、時代劇などで見覚えのある上段の間(殿様の特等席のようなもの)
まさに時代劇の世界に来てしまった、そんな風に思えてしまうような空間が、そこには広がっている。
そして、タクマはその両サイドで、メアとノエルが寝ている事に気付いた。

「おいメア、ノエル!起きろ!」

タクマは二人を揺すって起こした。

「んぅ……何処じゃここ?」
「変な所に来ちゃったみたいですね……」

二人がそう言いながら起き上がると、いきなり部屋の襖が勢いよく開き、そこから着物姿の男が入ってきた。
そして、その男はそのまま上段の間にある座布団に座る。
赤襟の黒い着物、オールバックと後ろにはねたちょんまげを合わせたような髪型、威圧感のあるしかめっ面。
間違いない、多分この人が、この屋敷の主だろう。

「…………」
「…………」

タクマはビクビクした視線、座布団にどっしりと座っている男は鋭い視線で互いに見つめ合った。
にらめっこはにらめっこでも、これは笑う方ではないガチの「睨めっこ」になっている。
そして、ふとメアとノエルに目をやると、二人は男の威圧によって顔を青ざめさせ、自然と丁寧な正座をしていた。
一体何をされると言うのだろうか、そう思っていた時だった。

「……小僧」
「は、はいっ!!」

男はタクマにそう言った。
やっぱり何か気に触る事しちゃった?でも初対面だよね!何にもしてないよね!
タクマは何をされるか分からず、全身を震えさせる。

「……腹は減ったか?」
「え……?」

タクマは、いきなりの質問に戸惑いの声を漏らす。
すると、男はタクマの声に不満を持ってしまったのか「腹は減ったか?」と、もう一度強めに訊いた。

「はい、すっごいお腹ぺこぺこですっ!!」
「そうか」

そう言うと男は手を二回叩く。
すると、後ろの襖から現れた、花魁のような着物のお姉さん達が、和食の乗った台を持って現れた。
食事は白米、海老天、味噌汁、たくあんの四つ。
タクマ達は「いただきます」と手を合わせ、男と共にまずは白米を口に入れた。

「これは……」

何だか懐かしい味がする。家で食べていたタナカのご飯とは全然違う。高級米か?
ちょっと有名な和食屋で提供される極上の米の味がする。米の違いは分からないが、この米だけは特別な味がするのは確かだ。

「ん~美味しいです!!食材の味を極限まで引き出していますよ!!」
「うむ、このエビフライ、身はプリプリしていて衣はサクサク!まるで生きたエビを踊り食いしているようじゃ!」

メアとノエルも、初めての味に心を踊らせているのか、さっきまでの緊張の糸が自然に解け、ゆっくりと食事をしている。
海老天も立派な海老を使っているからか、身はプリプリ、衣はサクサクしていた。
味噌汁、たくあんも普通のものとは違い、まるで「剣崎」で食べたものと似ている味だった。

「いや~、食材集め用の罠に貴殿らが落ちていたと聞いてな。体の具合は大丈夫か?」
「はい、おかげさまで。」

タクマは食事を通して、仲良さそうに男と話した。
すると、男は「そういや小僧達、お主らの名は何と申す?」と訊いた。

「俺はタクマ、陽山託舞って言います」
「妾はメア・アルゴじゃ」
「私はノエル・ショコラと言います」
「たくま、めあ、のえる、か……」

すると、男はタクマに一つ問題を出した。
「泣かぬなら、殺してしまえ、ホトトギスを歌った男の名を知っているか?」と。
それを聞いて、タクマはまさかと思う。
この有名な詩、大体の人ならば答えは分かる。そう、この男……いや、このお方は……

「まさかあなたは……織田信長!?」
「いかにも、ワシの名は織田信長だ」

それを聞いて、タクマは驚きの声を上げながら立ち上がった。
それもそうだ、目の前に誰もが尊敬する日本史の顔、織田信長が目の前に居るのだから、驚かない方が逆に凄い。

「何だ?そんなに驚く事であったか?」

ノブナガはタクマのリアクションを面白がり、はっはっは!と笑う。
何だか、さっきまでの威圧感が嘘かのように感じるくらい、愉快なお方に見える。
多分、このカリスマ性が今も多くの支持を集めている理由なのかと、タクマは感じた。

「そう言えば、このエビフライとかはその……ノブナガ様が作った物なのですか?」

メアはかしこまって訊く。
流石の生意気のじゃキャラだったメアも、かの織田信長を前にすればきっちりするらしい。
なんだろう、こっちのメアも嫌いではない気がする。むしろこっちの方が可愛い。
すると、ノブナガはその問いに対して大笑いした。

「メアの申す、えびふらいと言うのは海老天の事か!いやいや、流石のワシでもここまで美味なモンは作れぬ、出てまいれ」
「はい、ノブナガ様」

そう言うと、襖からまた誰かが入ってくる。
そして、入ってきた人を見るなり、タクマは目と口を開けて、更には涙を流してまた驚いた。

「お、お前……」
「その声……まさか……」

「リュウヤ!?」「タクマ!?」
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