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第五章   魔王様   レオン編

3   魔王の屋敷

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 本来戴冠式を終えると、屋敷の移動が行われるらしいが、レオンは自分の屋敷を魔王の屋敷にすればいいと言い出した。
 ヘルメースは手術の翌日には元気になったが、オルビスは寝込んでいる。
 魔力が回復するまでに、どれほどの時間が必要なのか、皆目分からない。
 寝込んでいるオルビスに、別の屋敷を作る魔力はない。今、レオンが住んでいる屋敷と交換する話も出たが、レオンの屋敷は思い入れのある屋敷だ。
 アリエーテを想い造り続けた屋敷は、庭も温室もアリエーテの為を想って造った物だ。
 アリエーテもこの屋敷が気に入っている。レオンの想いが詰まった屋敷は、本当にアリエーテの為にだけに考えられた屋敷で、アリエーテの好きな物が揃っている。
 慣例に則り屋敷を交代する必要はないとレオンが決めた。
 魔王の決定に誰も口出しはできない。
 歴代の魔王の絵画の間も、そのままオルビスの屋敷に置けばいい。次の代の魔王が育つまでにはオルビスの魔力も戻ってくると思っている。
 次の魔王が生まれるかどうかまでは、知るか!と突っぱねた。
 取り敢えず、どうしても必要な物だけ増築すればいい。
 レオンは屋敷の増築を始めた。
 ダンスホールを広くして、シャンデリアも美しい物を増やした。
 アリエーテがレオンの魔術を見て、うっとりしている。

「すごいわ、レオン」
「これくらいはたいした事ではない」
「そんなことはないわ」

 アリエーテに褒められると、レオンは調子に乗り次々と屋敷を豪華にしていく。

「次は客間か?誰にも来て欲しくはないから別邸にするか?」
「それでもいいの?」
「いいだろう?寝られる場所があるならば」

 アリエーテは微笑む。
 庭に出て、薔薇の庭園を歩きながら、レオンは指を指した。

「庭園の奥にしよう。どうだ?薔薇園も見えるぞ?」
「いいわね?」
「時々、俺たちも泊まれるように、俺たちの部屋も造ろう」

 そう言うと、薔薇園の奥に建物が建っていく。高さから見ると2階建てのような気がする。外壁を造りながら、内装も造っている。
 玄関は美しい白い大理石でできている。エントランスを白い大理石が伸びていく。できあがったばかりの場所に進みながら、目の前で部屋が造られていく。

「どこから見える景色がいいかな?」

 レオンは薔薇園を見ながら、位置を探している。

「ここはどうだ?一番綺麗に見えるような気がするが」
「そうね。わたしの好きな薔薇が咲いているわね」

 いろんな品種が植えられた薔薇園は、年中花を咲かせている。

「では、ここは俺たちの部屋にしよう」 

 レオンが言うと、壁ができて壁紙まで上品な白い薔薇が刻まれていく。

「大きなベッドに洒落た椅子を置こう。窓は大きめで外から見えないように魔術をかけておこう」

 レオンが言うように家具もお洒落な物ができあがっていく。
 アリエーテは胸の前で拍手をする。
 屋敷の真ん中にダイニングテーブルを大胆に置き、各部屋が造られていく。
 キッチンのエリアは、そのエリアを造っただけで、後はガランとしている。料理長と相談してオーブンやいろんな機材を入れてから、造った方がいいだろう。2階の部屋まで造り終えて、点検に見て歩く。お風呂は各部屋に用意されていた。

「レオン、すごいわ」
「これくらい容易い」
「そうね、人間界でも簡単に屋敷を造ってしまったものね」

 簡単に別邸を造ってしまって、手を繋ぎ薔薇園を通って屋敷に戻っていく。

「後は何が必要だ?」
「分からないわよ」
「仲間が集まるサロンくらいか?」
「わたしには仲間はいないわ。友達のことでしょ?」
「そうだな、友達とも言うかもしれないが、これからは付き合いも出てくるかもしれないな?お茶会とかあるかもな?」
「わたし、人見知りできっと無理よ」
「無理にする必要はない。魔界の両親が会いに来るかもしれないぞ」
「そうね」
「ヘルメースもいつまでも私室に招くわけにもいかないだろう?アンジュの友達もできるかもしれないぞ」

 アリエーテは頷く。

「子供の成長は早いからな。アンジュの部屋も必要だな」

 レオンは楽しそうに、未来を語る。
 屋敷に戻ると、サロンを造った。
 綺麗なシャンデリアを吊し、白いピアノ置いて、猫足の家具を揃えていった。

「ああ、疲れた。アリエーテを補充させてくれ」

 レオンはアリエーテを抱き上げて、椅子に座った。

「お疲れ様、魔王様」

 アリエーテもレオンに抱きついた。
 レオンはアリエーテの髪に顔を埋めて、じっとアリエーテを抱きしめている。
 優しい愛情がしみ込んで来るようだと思った。
 二人が幸せを分け合っていると、アンジュの泣き声が聞こえてきた。

「ママになる時間だな」

 レオンが残念そうにアリエーテを抱き上げて、床に下ろした。

「お姫様がお呼びだ」
「お腹が空いたのかな?」
「そろそろ時間だろう」

 二人は手を繋ぎながら、部屋に戻っていった。


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