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第四章   魔界

6   身代わりのモリー

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 モリーはアリエーテとして生活を始めた。
 屋敷の誰にもモリーであると知られていない。
 食事もレオンとして、部屋で寛ぎ、馬車で出かけてみた。
 グルナが襲ってきたら、好都合だと思ったが、グルナの姿は見えなかった。
 パトークに死神手帳からアリエーテの名前が消えたか確認に行ってもらったが、まだ死神手帳には名前は載っているらしい。
 死因は失血死と書かれているという。
 叔父のヘーネシスは、まだアリエーテを人形にしたいらしい。
 アリエーテが死ぬ日まで待つことも考えたが、本当に死んでしまったらと思うと、その計画はなしだと思った。
 二度と人形にされたアリエーテなど見たくはない。
 この手から手放すつもりもない。
 屋敷の周りは、絶えず戦闘状態だ。いつ攻められてきても、守れるように騎士達が目を光らせている。 

「なかなか釣られませんね」

 モリーには、人真似の魔術が使える。
 アリエーテの侍女を任せたのも、その特殊な魔法が使えるからだ。
 勿論、侍女長としての腕は確かで、それだけでもアリエーテに仕える侍女として任命するつもりでいたが、モリーがアリエーテに真似て見せ「どうぞ身代わりにお使いください」と申し出た事で、アリエーテの侍女にうってつけだと思った。
 モリーを餌に、出かけてみたり、油断してみたりしてみたけれど、グルナもヘーネシスも何も攻撃はしてこない。
 ひょっとしたら、まだ人間界にいるのかもしれない。
 モリーを連れて、人間で歩いてみたが、やはりグルナもヘーネシスも出てこない。
 陽動作戦は、無駄に終わりそうだ。
 ヘーネシスが寄付した聖女のいる屋敷にも行ってみたが、屋敷は静かだった。
 相変わらず聖女の祈りは聞こえるが、男の気配は門を守っている騎士だけだった。
 そろそろアリエーテが目覚める頃合いだろう。
 婚姻の証を付けて2週間が経つ。目覚めるときは傍にいてやりたい。

「モリー、この作戦は失敗のようだな」
「残念です」

 レオンはモリーを抱き寄せて、瞬間移動で屋敷に戻って来た。
 結界を張った屋敷に戻ると、部下達が敬礼する。

「こちらは変化なしか?」
「何もありません」
「引き続き、警戒をしていてくれ」
「はっ」

 見事な敬礼を見てから、屋敷に戻っていく。
 屋敷に入ると、モリーはメイド服を身につけて、髪を器用に巻き上げて固定した。

「奥様に姿を見られる訳にはいきません。旦那様もシャワーかお風呂にお入りください。女性は敏感ですので、他の女性のにおいをつけて、触れてはいけません。わたくしも入浴して参りますので」
「そうだな。気を遣わせた」

 モリーは頭を下げると、屋敷の中にある自室に戻っていった。
 レオンも風呂に入りに行った。
 目覚めたアリエーテがいきなり不安にならないように、身につけた物を消し去ると風呂に入り、体を清めた。真新しいタキシードを身につけて、アリエーテの部屋に行った。
 フルスが敬礼する。

「眠りが浅くなって参りました」
「ああ」
「助かった。フルスも休むといい」
「ありがとうございます」

 フルスは部屋から立ち去った。
 眠っているけれど、アリエーテの眠りは浅くなっている。
 そろそろ目覚めるだろう。
 レオンはベッドに腰掛け、眠るアリエーテを見つめていた。


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