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 アリエーテは少しずつ回復していった。モリーとメリーがお風呂に入れてくれた。身体を拭うだけでなく、湯船に浸かるのは気落ちがいい。髪も綺麗に洗ってもらい、やっと気持ち良くなれた。短距離なら歩けるし、起きていられる時間も増えた。
 毎日、イグレシアは会いに来てくれる。ネグリジェ姿ではなく、ワンピースを身につけて、お迎えできるようになった。
 プリュームは、夜はアルシナシオン様の家に戻るが、朝から夕方まで、エクスタシス公爵家にいる。

「プリューム、あなたはお嫁に行ったのでしょう?」
「やっとお姉様が戻ってきたのですもの一緒にいたいわ」

 アリエーテとパズルをしながら、プリュームは甘えてくる。

「そう言えば、お姉様がくださった香水がなくなってしまったの。新しい物が欲しいわ」
「プリューム、その瓶は持っている?」
「ええ、持っているわ」
「空き瓶を返してくださる?」
「空き瓶なんて、どうするの?」
「大切な物なの」
「分かったわ、すぐに持ってくるわ」

 プリュームは、部屋に戻るように玄関を通って、お嫁に行った家から瓶を持ってきた。

「それにしても、もう無くなっているなんてどんな使い方をしたのでしょ?」

 プリュームは、にこにこしている。
 今は、もうここにはいない由香を思い出す一品だ。できれば大切にしたい。

「お姉様、香水を買いに行きましょう」
「そうね、明日にでも買いに行きましょう」
「まあ、嬉しいわ」

 プリュームは、大喜びで跳ね上がる。パズルを引っかけ、パズルがテーブルから落ちた。

「あ~あ~……プリューム、ピースを拾いなさいよ」
「ごめんなさい」

 あと少しで出来上がりそうだったパズルは、見事に床に散らかって真っ新になった。
 台だけ拾うと、後はプリュームに拾わせる。

「一つも無くしてはダメよ」
「分かっているわ」

 床に座りこんで、プリュームは、パズルのピースを拾い箱に入れていく。

「あら、二人ともパズルを壊してしまったの?」

 母がお茶を淹れて、やってきた。

「プリュームが落としたのよ。もう、まったく落ち着きがないんだから」
「お姉様なら、すぐに作れてしまうわ」
「それは、プリュームの物でしょう?」
「お父様がお誕生日に二人に買ってくれた物だわ。だからお姉様の物でもあるのよ」

 あら、プリュームらしからぬ、まっとうな答えが返ってきた。
 確かに二人に買ってくれた物だが、プリュームは、自分の部屋に飾ると言っていた……。
 お嫁に行ってプリュームも成長したのだろうか?

「全部、拾えたわ」

 真っ新なパズルの台の上に、拾ったピースの入った箱を置くと、プリュームは、椅子に座った。
 母がお茶を並べている。

「お母様、明日はお姉様と香水を買いに行きたいの。お母様もご一緒に行かれますか?」
「あら、アリエーテ、身体はもう大丈夫なの?」
「久しぶりのお出かけですが、そろそろ出かけてみようかと思いましたの」
「それなら、心配ですから、私も付き添いますわ」
「まあ、お母様と出かけるなんて、久しぶりですわ」

 プリュームは、久しぶりのお出かけを喜んでいる。

「アリエーテはお茶を飲んだら、少し休みなさいね」
「ええ、少し疲れてしまったわ」

 お茶を飲んでから部屋に戻り、香水の瓶にリボンを結びドレッサーの前に置いた。

(由香は今頃、何をしているのでしょう?)

 いつも一緒にいたので、自分の分身のようだ。由香の身体を探すのは、大変だったが、離れてみると寂しい。
 アリエーテはベッドに入って、お昼寝をした。







 翌日、アリエーテは由香の買ってくれた香水の瓶を持ち、買い物に出かけた。
 店員に同じ物が欲しいとお願いした。
 幸い、売っていた。
 プリュームは、テスターでいろんな香りを付けすぎて、正直に言うと臭い。結局、迷いすぎて、アリエーテと同じ物にした。
 母は、ご自身でお気に入りがあるようで、それを購入して、お店でお茶を飲み、帰って来た。短時間の外出だったが、楽しかった。
 自宅に戻るとイグレシアが待っていて、アリエーテは急いで応接室に入っていった。

「お帰り、アリエーテ」
「お待たせして、すみません。今日は早いのね」

 アリエーテはイグレシアの隣に座る。すぐにイグレシアはアリエーテの手を握る。

「ああ、議会が早く終わったのだ。アリエーテに会いたくなって来てみた。出かけられるほど元気になったのだな」
「はい、もう大丈夫よ。時々お昼寝をしますけれど、毎日、プリュームと遊んでいますわ」
「そろそろ結婚をしたいのだが、いいか?」
「ええ、私はいつでも……」
「そろそろ荷物を纏めておいてくれ、引っ越しの準備だ」
「……ええ、わかったわ」
「やっと結婚ができる」

 イグレシアは嬉しそうに微笑むと、アリエーテにキスをする。

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