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第六章

2   永遠の命

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 ノックの音がして、フラウムは視線をあげた。

 白衣の上からブランケットを纏っていた。


「フラウム、食事に行こう」

「はい」

「まだ白衣を着ていたのか?」

「ええ」

「片付けもできてないじゃないか」

「少し寒くて」


 フラウムはブランケットを畳むと、体の中に入れた。

 あまりに自然で、手品でも見ている気分のシュワルツは、フラウムの額に手を当てた。


「熱はないな。部屋が冷えるのか?」

「何を着ようかと考えていたら、なんだか面倒になってしまって。ドレスは肌寒いし、着飾る必要もないし、だからと言って、パジャマは気が早すぎるし、ね、悩むでしょう?」


 シュワルツは笑った。


「どんな物を持っているのか見せてくれ」

「今ですか?」

「そんなにたくさんドレスを持っているのか?」

「いいえ」


 フラウムは、ドレスを全て出した。

 白いドレスが3着と薄いピンクのドレスが1着、母のお古のドレス。温かなボレロが1着、白いコートが一着。


「ふむ、数が少ないな。洋服を仕立てなければ。美しいドレスだが、袖が短い。これは合着だな。この季節は寒いかもしれない」

「確かに袖が短くて、どうして袖が短いのか分からなかったけれど合服なのね。キールの村で着ていた物より温かだけれど、キールの村では暖炉があったから」

「昼から洋服屋を呼ぼう」

「お仕事が遅れてしまうわ」

「フラウムが気になって、身が入らないんだ」

「わたくし、キールの村にいましょうか?」

「それこそ、気が狂いそうだ」


 シュワルツは白衣を脱がせて、ボレロを着せた。


「まず、食事だ」

「はい」

 フラウムは、シュワルツに手を引かれてダイニングルームに入った。





 今から仕立てていては春になってしまうと言われて、今日も馬車に乗って、お店に行った。

 男兄弟でドレスとは無縁だったので、従者が紹介してくれたお店に出掛けた。

 既製品のドレスの中で、袖があるドレスを三着買っていただいた。

 フラウムの髪色によく似合う、バイオレットと淑やかなピンクのドレスにクリーム色のドレスだ。手首や首までしっかり布があり、試着した感じでは温かい。お店でお茶を飲んでいる間にお針子が、ドレスの裾をぴったりに直してくれた。皇妃様がいらしたときに、春物のドレスを新調しようと言っていた。

 こんなに善くしてもらって、秘密をいつまでも黙っている訳にもいかない。

 今夜こそ、シュワルツに話そうと思った。





 夕食の後、ダンスを3曲踊って、それから、部屋に戻って眠る支度をした後、フラウムは、シュワルツに話があると、切り出した。


「どうした?」

「以前、天上に出掛けた事があるでしょう?その時に、神聖魔法を学んだの。三日間の修行を終えた瞬間に、体に異変が起きたの。体が焼けるように痛くなって、すぐに治ったの。

ドラゴンのユラナスが迎えに来てくれて、ユラナスが言ったの。わたくしは神になったと。体の細胞も神の物に変貌したと。

わたくしは、父の血の一滴も混じっていることが嫌だったから、変貌したことは嬉しかったの。でも、神にはならなくてもいいと言ったの。

でも、これは、神聖魔法の修行した者が全て神になれるわけでもなくて、わたくしは選ばれたと言われたのよ。わたくしは永遠の命をいただいたの。

神聖魔法を学んだ中で、神になった者は、一人だけ無死、死なない体に替える事ができると学んだの。一生を生きるのは寂しいから、選ぶ事ができるの。

シュワルツは不死の体は迷惑?永遠にわたくしだけを愛してくれますか?

ユラナスも神になったドラゴンだった。ユラナスの伴侶は、途中でユラナスを裏切り、いろんな男達と逢瀬を繰り返すようになって、最後はドラゴンに食べられて死んでしまったらしいの。ユラナスは、伴侶を選ぶときは、慎重にしなさいと忠告してくれたの。わたくしは、シュワルツを愛しているけれど、この愛は重いわ。シュワルツはわたくしを愛してくれますか?」


 フラウムは、ベッドの上で、シュワルツに隠している全てを話した。

 シュワルツは混乱しているようだった。

 けれど、いきなり笑い出した。


「不死か、それは、素晴らしい。この先のシュベルノバ帝国の未来を見られると言うことではないか。海の先にある世界を見に行くこともできる。愛してやまないフラウムを、一生、この手で抱き続けることができのであろう。子もたくさんできるかもしれぬな。帝国の子だけではなく、緋色の血の一族に子を託す事もできるではないか、何か問題でもあるのか?」


 シュワルツは、フラウムの不安を笑い飛ばした。

 帝国の子も緋色の血族も残せると言ったのだ。

 我が子が生まれる事まで考えていなかったフラウムは、柔軟な思考を持つシュワルツに救われた。


「重い想いだと?私の欲望も重いぞ。キールの村にいた頃から私はフラウムを抱きたくて仕方がなかったのだ。この先、どれほどフラウムを抱けるのかと考えるだけで、欲望がはち切れそうだ」

「シュワルツ、やっぱりエッチね。でも、そんなシュワルツも大好きよ」


 フラウムは、自分からキスを強請った。

 ゆっくり体が横たえられていく。


「フラウムの初めてをもらってもいいか?」

「永遠に愛してくれるなら」

「任せておけ。だが、私が死なないように守ってくれ」

「それは、任せて。この先、レースやスクレより強い魔獣とシュワルツは契約するわ。わたくしも精一杯守る。シュワルツもわたくしの心を守って欲しいの」

「ああ、心は私が守ろう」

「ありがとう」

「悩ませたのだろうな?」

「はい」

「これから、悩む前に何でも話せ」

「ありがとう」


 心を受け止めもらえて、フラウムは嬉しかった。

 キスを交わして、体を撫でられ、体の奥にシュワルツが入っていた。

 その痛みは、永遠の約束だ。

 その夜、何度も二人で未来を語った。


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