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第五章   

4   ナターシャの治療

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 フラウムの行方は、分からなかった。

 皇子も探しているところを見ると、フラウムは皇子の所には行かなかったようだ。

 どこに姿を消したのか、皆目分からない。

 フラウムは、お金を持っていないと思う。

 あったとしても、それほど高額な金額は持っていないはずだ。

 テールの都の宿泊所も全て探したが、見つからなかった。

 平民に紛れた可能性もあるが、あの荷物をどのように運んだのかも分からない。

 深夜に家に戻ってきて、父は、怒っていたが、疲れて眠ってしまった。

 翌朝、プラネット家系の騎士達と下級貴族に、フラウムの行方を捜せと言い渡していた。

 毎日、フラウムと一緒に行っていた回診もアミ一人で行くことになった。

 アミは、心細かった。

 フラウムはアミに気を遣いながら、サポートをしっかりしてくれていた。

 扉をノックすると、使用人が「おはようございます。どうぞお入りください」と頭を下げた。


「おはようございます、お邪魔します」


 アミはいつものように階段を上って、ナターシャの部屋をノックした。

 扉を引いたのは、メーロスだ。


「おはよう」

「おはよう。今日もお願いしますね。フラウムは見つからなかったの?」

「ええ、どこに行ってしまったのかしら?」

「心配ね」

「本当に」


 部屋の奥に入ると、ナターシャがベッドに座っていた。


「先生、おはようございます。フラウムの魔力が無限大だって聞きました。フラウムの手術を受けます」

「フラウムは家を出て行ってしまったの」

「私の治療をほったらかしにして?無責任よ」

「昨日は、ナターシャはフラウムの手を拒絶したでしょう?フラウムは、昨日、治すつもりでいたのよ。拒絶されたから、ナターシャの治療はわたくしが一人でして欲しいと言われたの」

「昨日は数値が分からなかったわ」

「もう、遅いのよ。わたくしは、フラウムのように上手く治せないわ。このまま皮膚を柔らかくしましょう」

「そんな……」


 ナターシャは、落胆のため息を漏らす。

 昨日は散々、フラウムを侮辱して、治療せずに、フラウムは部屋を出て行ってしまった。


「アミには無理なの?」


 メーロスは心痛な顔で聞いてくる。


「テリのように完璧に治す自信がないの。あの術はフラウムにしか無理よ」


 アミはナターシャの包帯を取っていく。


「皮膚を柔らかくしましょう」

「そんなことをしても、無駄なのでしょう?」

「以前より、綺麗になってきているわ」

「先生」

「集中したいの。ナターシャ黙っていて」
 
 アミは苛々していた。

 昨日、素直に手術をしていれば、今日は治っていたはずなのに、ナターシャの顔は、まだ引き攣っている。

 上手く魔力のコントロールができない。

「先生、いつもより熱いわ」

「ごめんなさい」

 アミは、いつもより早く治療を終えた。


「今日はここまでにしましょう」

「まだ少ししかしてないわ」


 ナターシャは声を上げた。


「ごめんなさい。疲れているの」


 ナターシャに新しい包帯を巻いて、アミは早々に部屋を出た。


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