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第五章
3 親心
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フラウムの部屋を見たら、綺麗に何もなくなっていた。
ここに戻るつもりはないのだろう。
アミは娘が使っていた椅子に座った。
午前中、初めてあの子の苦労を聞かされた。
アミは自分が死人である事は知っている。
3年前よりも前から、時々、大きくなったフラウムの陰を見ることがあった。
自分が殺された事は、フラウムに聞くまで知らなかった。
12歳の幼い娘が、死因を探って、年月を超えて調べ、16歳になった時に、やっと生き返らせる方法が分かったのだろう。
エリックが不貞を行って、泣いているときに、不意にフラウムの気配がして、側に寄り添ってくれていた事があった。
心を覗かれたと思い、つい、フラウムに怒ってしまった。
自分が殺されて愛人が来て、いきなり母親だと名乗られたら、12歳のフラウムは、さぞかし辛かっただろう。
継母や義妹に虐められたとも言っていた。
屋根裏へ行けと言われたフラウムの気持ちを思うと、勝手に死んでしまって、申し訳ない。
自分でドレスを売りに行ったのだろう。
お妃教育に行っていたフラウムには、年相応以上のドレスを与えていた。お気に入りのドレスもあったのに、それを自分で売らせてしまった。
親としては情けない。
旅も辛かったと言っていた。
それでも、母親が恋しくて、生き返らせる為に慧眼を使い続けたら、魔力も上がっていくだろう。
フラウムの執念で、アミは今、生きている。
そんな娘を守れない。
父は、フラウムの魔力の高さを知って、政略結婚を考え始めた。
初めて、父に褒められた。
「いい子を産んだ」と……。
いい子とはなんだ?
魔力が普通でも、魔力がなくても、フラウムはいい子だ。
魔力が無限大だったから、いい子なのだろうか?
アミは自分でも読めなかった本を、フラウムが読めたことが誇らしかった。父には娘を自慢したかっただけなのに、婚約破棄の話まで出てしまった。
確かに、アミは恋愛結婚で失敗してしまった。
あの時、どうしてあれほどにエリックを求めてしまったのか、今では分からない。
求められたように、皇帝と結婚していれば、きっと彼はアミを愛し続けてくれた。
皇帝とは、幼い頃から許嫁として、一緒に育ってきていた。
互いに恋心も生まれていた。
お妃教育も順調で、国母としての教育もされていた。
どこで間違ってしまった。
結局そこに行き着く。
エリックと結婚せずに、皇帝と結婚していれば……。
今更、そんなことを考えても仕方ないが、考えてしまう。
フラウムに、巻き戻して欲しいか聞かれたときは、ドキリとしてしまった。
もし、アミがそれを望んだら、フラウムは実行しそうだった。
そうすれば、愛する娘が消えてなくなる。
フラウムは、自分が消えることに不安もない様子で聞いてきた。
母として、それだけはしてはいけないと思った。
フラウムがいたから、エリックとの結婚に耐えることができたのだから、大切な娘を消してしまうことはできない。
一緒にフラウムと治療を始めて、アミはフラウムの魔力の優しさに感動していた。
魔力は柔らかく肌にしみ込むような優しさがある。
ドクターとして、素晴らしく適した魔力だと思った。
だから、助手として連れて行って、フラウムにも治療をさせていた。
フラウムには経験だけがあれば、もっといいドクターになれる。
魔力の数値など計らなくても、フラウムの魔力を試しにあててもらっただけで、そう思った。
肌を柔らかくする魔術も、難なくこなしてしまった。しかも、アミがするより、肌が柔らかくなる。
手術をさせてみたら、テリの肌を左右対称になるように、治して見せた。
アミに、同じ事ができる自信がない。
フラウムが話した術式は納得できた。けれど、魔力を注ぎ込む、あてる作業が、フラウムの方が上手いのだ。
今日、ナターシャの治療をアミがすると言ったが、フラウムを説得して、フラウムにしてもらうつもりだった。
全て、空回りを続ける。
フラウムとシュワルツ皇子との結婚を許していれば、フラウムは従っただろう。
フラウムは生き返らせたアミが自立していくところを見守っていたように感じていた。
同時に、今まで甘えられなかったから、フラウムなりに甘えていたように感じた。
もっと魔法を教えて欲しいと甘えてくるフラウムに、アミは恩を返せただろうかと考える。
最終的にフラウムを裏切ってしまった。
恋愛結婚を否定して、シュワルツ皇子との結婚を反対してしまった。
慧眼で視たときのシュワルツ皇子の心の中は、フラウムを本当に大切にしていた。
温かな心で、フラウムを包み込んでいた。
それなのに、フラウムが一番望んでいる結婚の反対をしてしまった。
フラウムは許してくれるだろうか?
「アミ、フラウムを探しに行くぞ。どうせ、皇子の所にいるだろう」
「お父様、フラウムの結婚を許してあげましょう」
「それはいかん。魔力が無限大だったのだ。プラネットの家系の力を増す子が生まれるぞ。アミの結婚は間違っていたと思ったが、いい子を産んでくれた。フラウムはプラネット家の希望の星だ」
「でも、あの子は、それを望んではいないわ」
「いい加減しろ。ほら、探しに行くぞ」
父は魔力の力に目が眩んでいる。
結局、アミは父には逆らえない。
この家を追い出されたら、行くところがなくなる。
生きるために、プラネット侯爵家を出ることはできない。
ここに戻るつもりはないのだろう。
アミは娘が使っていた椅子に座った。
午前中、初めてあの子の苦労を聞かされた。
アミは自分が死人である事は知っている。
3年前よりも前から、時々、大きくなったフラウムの陰を見ることがあった。
自分が殺された事は、フラウムに聞くまで知らなかった。
12歳の幼い娘が、死因を探って、年月を超えて調べ、16歳になった時に、やっと生き返らせる方法が分かったのだろう。
エリックが不貞を行って、泣いているときに、不意にフラウムの気配がして、側に寄り添ってくれていた事があった。
心を覗かれたと思い、つい、フラウムに怒ってしまった。
自分が殺されて愛人が来て、いきなり母親だと名乗られたら、12歳のフラウムは、さぞかし辛かっただろう。
継母や義妹に虐められたとも言っていた。
屋根裏へ行けと言われたフラウムの気持ちを思うと、勝手に死んでしまって、申し訳ない。
自分でドレスを売りに行ったのだろう。
お妃教育に行っていたフラウムには、年相応以上のドレスを与えていた。お気に入りのドレスもあったのに、それを自分で売らせてしまった。
親としては情けない。
旅も辛かったと言っていた。
それでも、母親が恋しくて、生き返らせる為に慧眼を使い続けたら、魔力も上がっていくだろう。
フラウムの執念で、アミは今、生きている。
そんな娘を守れない。
父は、フラウムの魔力の高さを知って、政略結婚を考え始めた。
初めて、父に褒められた。
「いい子を産んだ」と……。
いい子とはなんだ?
魔力が普通でも、魔力がなくても、フラウムはいい子だ。
魔力が無限大だったから、いい子なのだろうか?
アミは自分でも読めなかった本を、フラウムが読めたことが誇らしかった。父には娘を自慢したかっただけなのに、婚約破棄の話まで出てしまった。
確かに、アミは恋愛結婚で失敗してしまった。
あの時、どうしてあれほどにエリックを求めてしまったのか、今では分からない。
求められたように、皇帝と結婚していれば、きっと彼はアミを愛し続けてくれた。
皇帝とは、幼い頃から許嫁として、一緒に育ってきていた。
互いに恋心も生まれていた。
お妃教育も順調で、国母としての教育もされていた。
どこで間違ってしまった。
結局そこに行き着く。
エリックと結婚せずに、皇帝と結婚していれば……。
今更、そんなことを考えても仕方ないが、考えてしまう。
フラウムに、巻き戻して欲しいか聞かれたときは、ドキリとしてしまった。
もし、アミがそれを望んだら、フラウムは実行しそうだった。
そうすれば、愛する娘が消えてなくなる。
フラウムは、自分が消えることに不安もない様子で聞いてきた。
母として、それだけはしてはいけないと思った。
フラウムがいたから、エリックとの結婚に耐えることができたのだから、大切な娘を消してしまうことはできない。
一緒にフラウムと治療を始めて、アミはフラウムの魔力の優しさに感動していた。
魔力は柔らかく肌にしみ込むような優しさがある。
ドクターとして、素晴らしく適した魔力だと思った。
だから、助手として連れて行って、フラウムにも治療をさせていた。
フラウムには経験だけがあれば、もっといいドクターになれる。
魔力の数値など計らなくても、フラウムの魔力を試しにあててもらっただけで、そう思った。
肌を柔らかくする魔術も、難なくこなしてしまった。しかも、アミがするより、肌が柔らかくなる。
手術をさせてみたら、テリの肌を左右対称になるように、治して見せた。
アミに、同じ事ができる自信がない。
フラウムが話した術式は納得できた。けれど、魔力を注ぎ込む、あてる作業が、フラウムの方が上手いのだ。
今日、ナターシャの治療をアミがすると言ったが、フラウムを説得して、フラウムにしてもらうつもりだった。
全て、空回りを続ける。
フラウムとシュワルツ皇子との結婚を許していれば、フラウムは従っただろう。
フラウムは生き返らせたアミが自立していくところを見守っていたように感じていた。
同時に、今まで甘えられなかったから、フラウムなりに甘えていたように感じた。
もっと魔法を教えて欲しいと甘えてくるフラウムに、アミは恩を返せただろうかと考える。
最終的にフラウムを裏切ってしまった。
恋愛結婚を否定して、シュワルツ皇子との結婚を反対してしまった。
慧眼で視たときのシュワルツ皇子の心の中は、フラウムを本当に大切にしていた。
温かな心で、フラウムを包み込んでいた。
それなのに、フラウムが一番望んでいる結婚の反対をしてしまった。
フラウムは許してくれるだろうか?
「アミ、フラウムを探しに行くぞ。どうせ、皇子の所にいるだろう」
「お父様、フラウムの結婚を許してあげましょう」
「それはいかん。魔力が無限大だったのだ。プラネットの家系の力を増す子が生まれるぞ。アミの結婚は間違っていたと思ったが、いい子を産んでくれた。フラウムはプラネット家の希望の星だ」
「でも、あの子は、それを望んではいないわ」
「いい加減しろ。ほら、探しに行くぞ」
父は魔力の力に目が眩んでいる。
結局、アミは父には逆らえない。
この家を追い出されたら、行くところがなくなる。
生きるために、プラネット侯爵家を出ることはできない。
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