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第四章

3   フラウムからの手紙

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 今日はフラウムとダンスレッスンが行われる。早めに夕食を取り、お風呂に入ると、いつも以上にお洒落をした。

 お洒落と言っても化粧をするわけではない。

 綺麗にひげを剃り、髪を梳かし、お洒落な服を着るくらいだ。

 そろそろ出発しようとした時に、プラネット侯爵家から使いの者がやってきて、今夜は都合が悪く、ダンスレッスンは中止する事が書かれていた。

 フラウムは眠ったと書かれているのは、来るなという意味だろう。


「何があった?」


 洋服を寝間着に着替えて、布団に入ろうとした時に、窓を叩くモノがいた。


「猫か?」

「フラウムからだ」


 猫はしゃべった。

 窓を開けて、猫を部屋に入れた。猫にしては奇怪な尻尾をしている。ギザギザな尻尾はこの世界で見たことがない。顔は猫の顔をしている。


「オレ様は魔獣。雷獣のレースだ。フラウムの使い魔になった。フラウムから手紙を預かったぞ」


 レースはどこからか、手紙を取り出した。

 まだのり付けしたばかりのようで、すぐに封筒は開いた。

 便箋が一枚入っていた。


 最初に、『お誕生日おめでとうございます』と書かれている。


 続いて、『この呪文がプレゼントです』と書かれていた。呪文の前に*印が付けられている。



 呪文には振り仮名が書かれていた。


『呪文を唱えてください』と書かれている。


 シュワルツは、呪文を唱える。

 目の前に、黒い猫が現れた。


『名前を呼んで』と書かれている。


 猫をじっと見ると、猫の上に確かに名前が浮かんでいる。


「スクレ」

「私の名前はスクレ、あなたの名前を教えてくださいませ」

「シュワルツ・シュベルノバ第三皇子、この国の皇太子だ」

「シュワルツ、今日から私はあなたの召喚獣です。レースからフラウム様の事は聞いています。フラウム様は、魔力が高い事で、結婚はなしだと言われたそうです。それで、ダンスのレッスンも中止になったのです」

「スクレ、それは、本当の事なのか?」

「オレ様はレース。それは本当だぞ。フラウムは泣いて、その手紙を書いたのだ。契約の時に、伝書を頼まれた。スクレを側に置き、何かあれば、スクレがフラウムに連絡をする。フラウムが、相手が皇太子だと言うから、スクレは我が一族の王女だ。魔力は2万以上からだが、フラウムからもらうことにして、位の高い者を選んだ。力も強い。それが、フラウムとの契約だ。我が一族は電撃を使う。馬にもなる。側に置けば、守ってくれる。そのつもりでフラウムは、とびっきり強い召喚獣を選んだ」


 シュワルツは、考える。

 召喚獣は誕生日祝いだった。

 けれど、会うことを禁止されたので、前倒しに、この召喚獣を寄越した。

 魔力が高いから結婚の中止を命じられた。という事は、緋色の一族の中で、フラウムの結婚は進められてしまう。

 どうにかフラウムに会わなければ。

 パーティーまで2週間。

 それまでに、フラウムは結婚させられる可能性があるのか?


「フラウムに会いたいが、どうしたらいい?」

「今から行きますか?」

「行けるのか?」

「我が一族は、空を駆けます」

 スクレの躯が大きくなる。

「私に跨がってください」

「頼む」


 シュワルツは寝間着の上からガウンを着た。それから、スクレに跨がる。

 窓からスクレが飛び出した。本当に空を駆けている。あっという間にフラウムの部屋の前に着いた。

 レースが窓を叩いている。

 フラウムは窓を開いた。

 そこに、スクレとシュワルツが、するりと入る。





「フラウム、魔力は幾つだったのだ?」

「まだ測定はしていないの。でも、この本が読めて、ドラゴンと契約した事を話したら、お母様もお祖父様も、一族から出したくはないとおっしゃって」

「どの本だ?」

 フラウムは、シュワルツの手を握って、本に触れさせるが、シュワルツは触れたことも分からないようだ。


「とにかく、古代魔法の本なのよ」


 フラウムはノートに書き出した物をシュワルツに見せる。


「全て、契約したのか?」

「そうよ」

「それは、またすごいではないか」

「シュワルツも魔力が高いから、結婚したくなったの?」

「フラウム、私とフラウムはキールの村で愛を育んできたのだろう?」

「そうよ」


 フラウムは、シュワルツにしがみつく。

 フラウムも寝間着にガウンを着ている。


「婚約者は決められたのか?」

「いいえ、まだシュワルツに会うなと言われただけよ」

「それなら、このまま宮廷に行くか?」

「それは駄目よ。今日、わたくしが執刀した患者がいるの。その術後の経過を見なければ、新しい術方を試したの」

「そんな事をしているのか?勉強をしているのではないのか?」

「火傷の患者をずっと診ているのよ。今日、自害しようとした女の子の再手術を行ったの。その結果を見なければ、火傷を負った二人を放っておけない」

「いつ頃治るのだ?」

「明日、患部を見て、良ければ、もう一人に再手術を勧めるわ」

「それは、フラウムしかできないのか?」

「母と二人でしたけれど、たぶん、わたくししかできないと思うわ」

「パーティーまで2週間だ。その2週間の間に、他の男と結婚させられるのか?」

「相手だって、決められていないわ」

「毎晩、逢いに来る。明日、また様子を知らせてくれ。途中で何かあれば、レースを送ってくれ。私も何かあれば、スクレを送る」

「シュワルツ、怖いわ。魔力の検査はどうするの?」

「水晶に手を翳すだけだ」

「たったそれだけ?」

「ああ、属性も全て分かる。宮廷にもある」

 フラウムは頷いて、シュワルツにもたれかかる。

「眠いのだろう?」

「眠いの。でも、眠ったら、すぐに明日になってしまうわ」

「今夜は休みなさい。私が窓から出たら、窓を閉めるんだよ」

「行ってしまうの?」

「ここに泊まるわけにはいかない」

「そうね」


 シュワルツはフラウムにキスをして、見つめ合った。


「明日も来る。約束だ」

「愛は冷めたりしないわよね?」

「冷めたりしない」


 フラウムは、何度も頷いて、「待っています」と答えた。


「スクレ、頼む」


 スクレの躯が大きくなる。シュワルツはそこに跨がると、窓が開いた。


「おやすみなさい」

「おやすみ。誕生日プレゼントありがとう」

 
 フラウムは、微笑んだ。

 シュワルツは帰って行った。

 フラウムは、魔術で窓を閉めると、レースにお礼を言った。


「レース、ありがとう」

「オレ様、役に立ったか?」

「とても役に立ったわ」


 フラウムはレースを抱くと、一緒にベッドに入った。


「レースは温かいわ」

「湯たんぽの契約はしてないぞ」

「オマケでつけておいて」


 フラウムは目を閉じると、すぐに眠った。


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