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第四章

2   自習

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 母が祖父に内臓の治療の授業の話をしてくれた。

 そうしたら、魔力検査を受けてからだと言われた。

 フラウムは授業に出ても、全てできてしまう。なので、自習になった。

 古代魔法の本を開いて、本を読みながら、召喚魔術をノートに書いて、唱えてみる。

 目の前に姿を現したのは、猫の顔に棘のようなギザギザな尻尾を持つ雷獣だ。
 
 出てきた雷獣は、何も話さないけれど、その雷獣を見ていると、名前が浮かんでくる。


「あなたは、レースね、お祖母様と同じ名前ね」


 名前を呼ぶと、雷獣は話し出す。


「おまえはなんというのだ?」

「初めまして、わたくしはフラウムよ。よろしくね」

「名前を読めたと言うことは、魔力は980以上あるな?」

「レースは魔力980以上ないと出てこられないの?」

「そうだ、雷獣は平均して980以上だ」

「わたくしは、980以上あるのね」

「もっとありそうだがな」

「ねえ、レース、わたくしの好きなお方にプレゼントを贈りたいの。ちょうど、魔力が980なんですって、召喚できるかしら?」

「980ならできるだろう」

「魔力980で召喚できる魔獣は他にいるかしら?」

「小さなネズミなら、魔力600くらいでできるぞ」

「まだ、本に出てきてないわ。その子は何ができるのかしら?」

「伝書ネズミだ」

「お遣いができるのね」

「オレ様とどっちが強いか分かってるのか?」

「レースは転移ができて電撃が落とせるのね」

「護衛に連れて行かれたぞ。体も大きくできる。馬の代わりになるぞ」

「まあ、そんなに強いの?」

「一億ボルト落とすぞ」

「一億ボルトが分からないわ」

「雷一発が、約一億ボルトだ。それをオレは連発できるぞ」

「それはすごいわね。でも、わたくしも雷なら落とせるわ」

「オレ様を要らないと言うのか?」

「要らないとは言ってないわ。ただ、言葉も伝えてくれたら便利だと思ったのよ」

「グヌヌ、できぬ事はない。ネズミの真似などしたくないが、頼まれればするぞ」

「そう、気に入ったわ。彼に召喚獣をプレゼントしたかったの」

「名前を読めなければ、契約できないぞ」

「魔力980って、聞いているの。できなければ、ネズミも用意しておくわ」

「なんと不抜けたオトコだ」

「不抜けてなんていないわ。だって、この国の皇太子よ。足りない魔力はわたくしが払うわ。とびっきり強い子をお願いね。彼、命を狙われているの」

「それなら*の印を付けておけ。オレ様が話を付けておく」

「レース、素晴らしいわ」

「煽てても、何もしないぞ」

「わたくし、召喚魔法の練習をしているの。よかったら、ここに一緒にいる?」

「いてやってもいいぞ」

 フラウムは、机の上の端にブラケットを畳んで置くと、レースを抱き上げてそのブランケットの上に置いた。

「そこで、勉強を見ていてね」

「いいぞ」


 レースは毛繕いを始めた。

 フラウムは、便箋に召喚魔術を書いて、先端に*マークを付けた。

 追伸で、「名前を呼んで」と書いておいた。

 普通に売っている物は、シュワルツは何でも持っている。この本を読み出して、ちょうどいい加減の大きさで使える召喚獣を探していた。

 ただの馬より強そうだ。

 もう危険な目に遭わないだろう。

 本のページを捲ったら、伝書ネズミだった。

 ノートに伝書ネズミと書き、呪文を書いていく。それから、呪文を唱える。

 出てきたのは、白いネズミだ。名前が浮かんでいる。

「エタ、よろしくね」

「あなたの名前はなんですか?」

「フラウムよ」

「フラウム様、よろしくお願いします」


 可愛いので、手に載せて撫でているとレースが、フラウムを睨んでいる。


「そいつがいいのか?」

「この子も可愛いわ」


 レースの横に置くと、エタは怯えている。

 可哀想なので、エタは、膝の上に置いた。

 スカートの上で丸くなっている。

 本のページを捲って、次々にその作業を続ける。

 部屋中が召喚獣で溢れていく。

 最後のページはドラゴンだった。

 念のために窓を開けた。

 小さなドラゴンかもしれないけれど、大きなドラゴンかもしれない。

 ノートにドラゴンと書き、召喚魔法を書くと、その呪文を唱える。

 綺麗な白いドラゴンが現れた。

 白いドラゴンは、窓の外に浮かんでいる。


「おぬしか、わしを呼び出したのは?」

「ユラナス、わたくしはフラウムよ。よろしくお願いします」

「最上位のわしを呼び出したのは、何万年ぶりだ?」

「あら、そんなに長く、本の中にいたの?」

「わしは、天上で暮らしておる。よかろう、フラウム、何か用がある時は、名を呼ぶといい」

「ありがとうございます」

 ドラゴンの名前をしっかり書いておく。

 本を一冊読み終えて、ノートは最後まで書き終えた。

 そろそろ母が帰ってくるだろう。

 本とノートを机に置いて、窓を閉める。

 召喚獣は、ドラゴンが現れた瞬間に、全て消えてしまった。

 皆、恐れたのだろう。

 フラウムは、着替えを持つと、お風呂に向かった。

 ドラゴンを呼び出せる魔力は、どれくらいだろう?

 フラウムは、この作業を始めて、自分の魔力が高いことに気づいていた。

 正直に言えば、調べて欲しくはない。

 騒がれるのは、好きではない。

 できるだけ、静かに暮らしたいのだ。

 お風呂から出てくると、以前、シュワルツがしてくれたように、髪を乾かす。

 風魔法と火魔法の混合だ。加減を間違えると、燃えるが、予め、確かめてみて、ちょうどいい加減になるように調節済みだ。

 食事を終えると、母に本を見せようとした。


「お母様、古代魔法の本ですわ。お待たせしました」


 母はきょとんとしている。

 本自体が見えないようだ。


「本など、どこにあるのですか?」

「わたくしが持っております」


 母が、じっとフラウムを見ている。けれど、本とは違う場所を見ている。

 母の手を取り、本に触れさせると、指先に触れる感覚で、本だと分かったようだ。


「もしかしたら、本が見えないのですか?」

「見えないわ」

「この本は、地下室にありました。表紙に古代魔法と書かれていて、作者など書かれていませんでした。内容は召喚獣についてです。全て、呼び出して契約を済ませました」

「最後のページまで読めたのですか?」

「はい。最後のページはドラゴンでした」

「その本は、フラウムが持っていなさい」

「でも、この本は学校の本です」

「誰も、その本は見えないでしょう。わたくしの魔力は1万です。フラウムは、それ以上なのでしょう」

「そうかもしれません」

「本を片付けていらっしゃい」

「はい」


 フラウムは、自室に戻ると、引き出しに本とノートを片付けた。

 指先で、シュワルツにもらった髪留めに触れる。

 今夜、彼は来てくれる。

 ダイニングに戻ると、母が祖父と話していた。


「フラウム、明日は魔力の検査をしよう。本の事は聞いた。召喚獣と契約をした者は、今までいなかった」

「ドランゴンの話では、何万年ぶりだとか言っておりました」

「この血を緋色の一族に残したい。皇太子との結婚はなしだ」

「お祖父様、わたくしはシュワルツを愛しているのです」

「愛など、まやかしだ。その証拠に、アミは結婚してから、すぐに不倫をされておったようではないか。愛は冷める。契約は永遠だ」

「今夜は、シュワルツが来るわ」

「使いの者を出そう。とりあえず、魔力測定が終わるまで、会うことは禁止だ」


 フラウムは、落胆して、その夜、部屋で泣いた。

 レースを呼んで、シュワルツに事情を話してもらうことにした。

 便箋に、更に追伸と書いて、誕生日祝いのつもりだったけれど、これで連絡が取れると、書き添えた。

「レース、召喚の方法を教えてあげてね」

「急だな」

「急に状況が変わったの。だから、お願いね」

「わかったぞ」

 レースは手紙を持って、姿を消した。


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