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第二章

4   父の秘密

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 フラウムは、朝目を覚まして、シュワルツの腕の中から出た。

 顔を洗い、クリームを塗ると、ワンピースに着替える。櫛で髪を梳かす。

 それから、暖炉にあたりながら、ブレスレットに魔力を貯めていく。透明になった水晶が緋色に染まっていく。

 あともう少し力があったら、母と話ができたのに、魔術切れを起こしてしまうなんて、もう一度、あの時、あの場所に行ってみようと思っている。

 なんとか説得して、紅茶を飲まなければ命は助かる。

 命が助かったら、母の実家に助けを求めよう。

 今の自分が消えてしまっても、母には生きていて欲しい。

 父は隣国、サルサミア王国の国王のキリマクルス・サルサミアの諜者で、侍女のミリアンも再婚相手のエミリアも共謀者。

 緋色の魔術師の血を穢すのが目的で、帝国を強固にする血を少しでも減らせと指示をされている。


(わたしの体に父の血も流れているのね。こんな穢れた血を残してはいけない。シュワルツと結婚するわけにいかない。父の穢れた血を残すことになってしまう)


 意識が途切れて、水晶に魔力を込めていた手が止まる。

 そのまま頭を抱える。


(シュワルツを好きでいてはいけない。一緒にテールの都に行ってはいけない)


 悲しくて涙が出る。

 この身が厭わしい。


「フラウム、まだ泣いているのか?」


 いつ起きたのか、シュワルツは既に着替えてフラウムを背後から抱きしめた。


「わたし、ここから戻るわ。一緒に行けない」


 どうしたんだと顔を覗かれて、また涙が流れる。


「わたしには、穢らわしい父の血が混ざっているの。シュワルツと結婚はできないわ」

「だから泣いていたのか?」


 フラウムは目を反らした。


「誰とも結婚はしない。この血を残してはいけない」


 今度は深く俯く。


「昨日、何を見てきたのか、教えてくれないか?フラウムの父親は何をしたのだ?」

「父は、隣国、サルサミア王国の国王のキリマクルス・サルサミア国王の諜者でした。母と結婚したのは、緋色の魔術師と言われた血を穢すのが目的。母が皇帝と結婚しないように操作をしたの。恋愛結婚なんて、嘘だったのよ。だって、父には、私より一つ年下の義妹がいるの。この帝国の強固にする血は、少しでも減せと隣国サルサミア王国、キリマクルス・サルサミア国王の指示なのよ。わたしの血は父の策略で穢れてしまった。きっとお母様より魔術は低いわ」


 ポロポロと涙が零れる。


「お母様に紅茶を飲まないで欲しいとお願いしたの。でも、今のわたしが消えてしまうから、できないと言われたの。シュワルツ皇子と会えないわよと言われたのよ。お母様は、わたしを慧眼で視られたの。だから、紅茶を飲んでしまったのよ。もう一度、慧眼を使って、お母様とお話しできた時間に行くわ。今のわたしが消えてもいいから、どうか生きていて欲しいとお願いしてみる」

「フラウム、落ち着いて聞いて欲しい。私はフラウムに命を救われた。フラウムがいなければ死んでいただろう。それは名誉な事だ。母を失った苦しみは分かるが、13歳であの村に行き着き、疫病の民を一人も亡くすことなく助けたことは、どうだ?フラウムがいなければ、村人は大勢亡くなったはずだ。今のフラウムが消えたら、命を落とした者は大勢いたはずだ」


 フラウムは目を伏せた。

 確かに、シュワルツの言うとおりだ。

 ならば、どうしたら、一番の幸せが迎えられるだろう。

 母の結婚を阻止したら、フラウムもシュワルツも生まれない。

 母が紅茶を飲まずに生き延びたら、シュワルツも村人も亡くなる。

 母が生きていても、フラウムが家出をすればいいかもしれないが、母が生きているなら家出をすることはなかった。

 フラウムには母があの日に死ぬしか、シュワルツと村人を守ることはできなかった。結局、それしか思い浮かばなかった。


「シュワルツ、わたしには方法が思い浮かばないの。どうしたら、お母様を助ける事ができるかしら?」

「残念だけど、私にも思い浮かばない」


 彼も同じ事を並べて話した。


「犯人を処罰するにも証拠がなさ過ぎる。慧眼だけでは、今後、監視をつけることくらいだろう」

「お父様も処罰されないの?」

「諜者としてなら、皇帝が口を割らす事ができるだろう。その時、フラウムの母君の暗殺について口にする可能性はある」

「慧眼中に慧眼を使って、お母様の感情も読み取ったの。お母様は、昔からお父様が不貞をしている事を知っていたわ。父の不貞も視てきた。益々、父が嫌いになったわ。母のカップに毒を塗ったのは、義母よ。名前も顔も見てきたわ。慧眼を使って、感情も読み取ってきたわ。父と結婚するために母が邪魔になったのよ」

「慧眼中に慧眼が使えるのか?」

「難しいことではないわ」


 シュワルツはフラウムをじっと見る。


「素晴らしい魔術ではないか」

「こんな事、誰でもできる事だわ」

「いや、普通はできない。母君も私の生存しか分からなかった。皇帝一家でまともに慧眼が使えるのは母君だけだ。その母君でさえ、生存していることしか分からなかったのだ。きっとその後、数日寝込んだはずだ。それに比べて、フラウムは寝込むことすらせずに、放って置いたら、また慧眼を使いそうだ。皇帝が知ったら、その血を皇帝一家に招きたいと言い出すに違いない」

「父の穢れた血が混ざっているの。この血が穢らわしいの」


 フラウムは、また泣き出した。

 シュワルツはフラウムを抱き上げると、背後から抱きしめて、涙の跡に唇を寄せる。

 結界と音を遮断していた魔術を解いた。

 そろそろ食事の時間だろう。

「殿下、お食事の時間です」


 思った通り、ノックの後に、従者のエスペル・ノアが部屋に入ってきた。


「すぐに準備を頼む」

「かしこまりました」


 食事がテーブルに並べられていく。


「フラウム、馬車の中で、続きの話をしよう。いい方法を探そう」

「一緒に考えてくれるの?」

「テールの都まで、まだ遠い。まずは、食事を食べよう」


 フラウムは頷いた。

 フラウムを抱いたまま、テーブルに移動する。椅子にフラウムを座らせると、シュワルツも椅子に座った。


「豪華な朝食ね」

「フラウムの作った朝食も好きだったよ」

「おだてなくてもいいのよ。きっと物足りなかったはずよ」

「健康的だったと思うよ」

「お野菜だって買えなくて、野草だったし、調味料だって、少ししか買えなくて、薄味だったわ」


 俯くと、口の中に厚切りのベーコンを入れられた。


「ほら、食べなさい。このベーコンは、フラウムが作ってくれたベーコンの方が美味しいよ」


 確かに、あの時、手に入れたベーコンはお肉屋さんで村人に分け与えていた。いい品ができたと言って。

 冬に入る前の宣伝だった。


「でも、このベーコンも美味しい」


 食器は全て銀製になっていた。

 わたし用のカトラリーが用意されていた。

 スプーンやフォークの裏側に名前が彫られていた。

 欲しいと言った後、それほど時間が経っていないのに、準備された物だった。


「ここで話した事は、誰かに聞かれているの?」


 不意に不安になって聞いてしまった。


「先ほどの話は、誰にも聞かれてはいない。魔術を使った」


 ホッとして息を吐くと、シュワルツは微笑んだ。


「極秘事項だ。私から父に話そうと思う。その時、フラウムも一緒にいて欲しい」

「分かったわ」


 父を処罰してくれるのなら、フラウムは母のためにできることをしようと思った。

 母を裏切り続けた父を許せない。

 恋愛結婚だと信じていた母を最初から騙していた。騙されていた母が、とても可哀想で、哀れだった。
 
どうして、慧眼を使わなかったのだろうか?と考えて、自分もシュワルツに対して慧眼は使っていない。


(信じていたから、使う必要がなかったのね)





 朝食が終わると、すぐに馬車に移動になった。

 シュワルツがずっと抱いて、移動するので、馬車に乗ると、フラウムはブーツを脱ぎ、椅子の上に足をのせて、横座りをした。


「どうした?痛むのか?」

「治すのよ」

「ほう」


 どうやら、シュワルツは興味があるらしい。

 フラウムの水晶は、まだ二つしか魔力を込めていないが、それほど難しくもない。

 まず、足を撫でて、そこを視た。

 緋色の瞳に輝きが増す。

 緩んだ靱帯を元に戻し、炎症を起こしていたそこに魔力を流し込む。

 腫れていた足首が元の状態に戻っていく。

 足首を動かして痛みがないことを確認すると「治ったわ」と告げて、靴下をはき、ブーツを履いた。


「あっという間だったな」

「少し靱帯が緩んでいて炎症を起こしていただけですもの。放って置いても1週間くらいで治ったはずだわ。あなたがわたしを抱き上げるから治したのよ」

「抱き上げる事は悪いことか?」

「恥ずかしいわ」


 シュワルツは微笑む。


「フラウムが愛おしんだ。触れていたいと思う事は自然なことだ」

「甘い言葉だわ。母はこういう言葉に騙されてしまったのかしら?」

「私は、フラウムの父のような不実な想いなど欠片も持ってはおらん」


 フラウムは、暫くシュワルツの顔を見て、それから頷いた。


「不安なら、私に慧眼を使ってもいい」

「シュワルツに慧眼はかけないわ。その瞳を見れば信じられる。でも、私の血はふさわしくないの。お妃候補はたくさんいるでしょう?」

「第一位は今でもフラウムになっている」

「嘘でしょう?」

「慧眼で調べてみればいい。嘘偽りはない」


 フラウムは頷いてから、急いで首を左右に振る。


「皇妃様は母のように優しいお方でしたから」
「母君を優しいというお妃候補は、フラウムだけだと思うぞ。よく令嬢が隠れて泣いている姿を目にした。私にも厳しい人だったぞ」

「そんなはずはないわ。心優しい思いやりのあるお方でしたわ。わたしは幼い頃から皇妃様と一緒に過ごしていましたけれど、心温かな皇妃様のお陰で、お妃教育に行きたくないと思った事はありませんでした。母が亡くなって、もう少し、母に医療の勉強を教わっていればよかったと感じたくらいですわ」

「無意識に慧眼か心眼を使っていたのかもしれぬな?」

「ええ、わたしは幼い頃から、人の気配や心の動きに敏感で視ていた可能性はあります。昨日も幼いわたしに会って、幼いわたしは、わたしの気配に気づいて、母を守っていました。きっと無意識だと思いますけれど、人を視ていた可能性は高いです」


 話をしながら、水晶に魔術を送り込む。


「考えたのですけれど、皇帝陛下に謁見した後に、母を助けに行ってはいけませんか?シュワルツがあの日、視察に出なければ腹を撃たれて崖から落ちることはなかった。犯人は分かっている。この時期に謀反が起きると分かっていれば、事前に危険は防げます。疫病に関しても、時期が分かっていれば、事前に薬を準備できます。何かに記載し、封印を起こしておくのです。わたしは母を助けて、母の実家に行きます。その時期にわたしに使命を与えてくだされば、村も守ることはできます。母を説得できるか分かりません。シュワルツと出会うことはあるかどうかは分かりません。今のように愛していると言えるかどうかも分かりません。わたしの血の穢れは、どうすることもできませんが、運命を変えるのなら、その時期が一番適していると思うのです」

「あの村で、愛を育むことはできないのか?」

「そこまで、欲張ったら、母を助ける事はできません。父が離縁してくれるのか、それまで母をわたし一人で守ることができるかは分かりません。でも、わたしは母に生きていて欲しい」


 シュワルツが馬車の向かい側の椅子から隣に移ってきて、フラウムを抱きしめる。


「この想いも消してしまうのか?私はフラウムを心から愛している。政略結婚しかないと思っていたのに、ここまで愛している相手と結婚できる機会を逃すのか?これこそ恋愛結婚ではないか?母君は慧眼を使って、そこまで理解したから、昨夜紅茶を飲んだのではないのか?」

「それでも」


 フラウムは母の形見のブレスレットを握る。


「それなら、どうしたらいいの?」

「母君は、もう亡くなった。過去を変えることはいいことなのか?人の世界の摂理を変える事になるが、それに対して、神から罰を与えられる事はないのか?」

「罰なら、わたし一人が受けます」

「皇帝を巻き込むことになる。この世界が破滅する可能性はないとは言えないのではないか?人の手で運命を巻き戻す事は、神の領域を侵すことになるとは思わないか?」

「神の領域ですか……確かに、運命を巻き戻す事は神の領域ですね」


 フラウムは、また深くため息を漏らす。

 泣いてはいないが、全身から絶望を感じる。その体をシュワルツは、しっかり抱きしめる。


「辛かろうが、亡くなった母君を生き返すのは止めた方が安全だ。今まで巻き戻しの魔術を使った者はいない。それほど、難しく危険な事なのではないか?」


 シュワルツの言いたいことは分かる。

 万が一、母が紅茶を飲まなくても、父に殺されてしまう可能性が高い。

 13歳のフラウムに、母を救う魔術を使うことは不可能に近い。今の段階では、父を暗殺して、自分が代わりに処刑される未来しか浮かばない。

 母はきっと嘆くだろう。

 そんな未来は、きっと望んではいない。

 フラウムがお茶会に乗り込んで、母の紅茶をこぼしてしまうことは可能だ。

 その場合、シュワルツを救う事はできなくなる。

 いろんなルートを考えて、どうしても、母とシュワルツ両方を助けるという結末に行かない。

 フラウムにとっても、シュワルツは愛する人になっている。

 二人を同時に助ける事は不可能なのだ。

 フラウムは、どちらを取るか選択しなくてはならない。

 シュワルツに抱きしめられながら、フラウムは口を閉じて、水晶に魔力を入れていく。

 唯一できることは、母に会いに行くことだ。

 会話ができたあの時、あの時間にいけば、母と会話ができる。

 今度は魔力が尽きるまで、その場所に行こう。

 念のために転機になる日付と時間を記した物を持つようにしよう。

 皇帝に頼れば、罰はこの国全体に与えられる可能性があることが分かった。

 自分一人で、どうにかしなければ、母もシュワルツも助けられない。

 確かに巻き戻しの魔術は、難しく、今まで誰も成功した者はいない。

 それでも、母が恋しいのだ。


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